第10章 類数の有限性
前章のミンコフスキーの定理を、いよいよ数論に効かせます。定理を定量化すると、「どのイデアル類にも、ノルムが ある限界以下の代表イデアルがある」という命題が出ます。ノルムが有界なイデアルは有限個しかないので、 イデアル類も有限個——イデアル類群は有限群。第8章で残した問い「類群は有限か」に、幾何が決着をつけます。 しかもこの限界(ミンコフスキー限界)は、類数を実際に計算する道具にもなります。
ミンコフスキー限界:小さな代表の存在
まず、各イデアルの中に「ノルムの小さい元」が必ず取れることを、ミンコフスキーの定理から引き出します。
定理 ミンコフスキーの限界
数体 (次数 、実埋め込み 個・複素埋め込み 組、判別式 )の任意の でないイデアル は、 を満たす元 を含む。ここでミンコフスキー定数は
証明
(骨子)イデアル をミンコフスキー埋め込みで格子とみると、その共体積は に比例。 で定まる原点対称な凸領域(各座標の積が有界な集合)の体積を計算し、ミンコフスキーの定理の 閾値 を超えるよう を選ぶと、その領域内に非零格子点 が取れる。 の最小値が 。前章の「体積が閾値を超えれば格子点あり」を、ノルムの評価に翻訳しただけ。
「イデアル の中に、ノルムが 以下の元がある」——前章の装置で見た「小さなノルムの元が必ず取れる」の 定量版です。判別式 が限界に効くのも、それが格子の共体積だったから。この一つの不等式が、以下すべてを 生みます。
核心:イデアル類群は有限
定理 類数の有限性
任意の数体 のイデアル類群 は有限群である。すなわち類数 。さらに、すべての イデアル類は、ノルムが 以下のイデアルで代表される。
証明
任意のイデアル類 を取る。逆類の代表 ()に対し、ミンコフスキーの限界で 、 を取る。 より 、すなわち となるイデアル があり、。ノルムの乗法性から 。ゆえに類 はノルム のイデアル で代表される。
ノルムが 以下のイデアルは有限個しかない( なら で、 は有限、 その部分加群も有限個)。よってイデアル類も有限個、。
証明の心は二段です。(1) ミンコフスキーで、どの類もノルム の代表を持つ(幾何)。(2) ノルムが 有界なイデアルは有限個( の は、有限個の素イデアルの有限べきの積に限られる)。無限に見えた イデアル類が、 という有限の壁の中に全部収まる。第8章で「有限に収まるのは自明でない」と言った難所を、 幾何数論が正面から突破しました。
類数を計算する
ミンコフスキー限界は、類数を手計算できるアルゴリズムを与えます。手順はこうです。
注意 類数の計算レシピ
- ミンコフスキー定数 を求める( から)。
- 以下の素数 を列挙し、各 の素イデアル分解(第7章のデデキント判定法)でノルム の 素イデアルを全部書き出す。これらが類群を生成する。
- 生成元の間の関係(どの積が単項か)を、ノルムの小さい元を探して決める。
- 生成元と関係から類群の構造(と類数 )を読む。
例:。 で 。 だから 以下の素数は だけ調べればよい。(第7章、 は分岐)で、 は ノルム の唯一の非自明素イデアル。 は単項でなく( の元なし)、 単項ゆえ位数 。よって 、。第8章で 主張した値が、今度は有限個の素数を調べるだけで完全に決定できました。
注意 類数 1 の判定にも使える
なら、調べるべき素数がなく、すべてのイデアルが単項=。たとえば (ガウス整数、 、)、 などは で即座に PID と分かる。虚二次体で になるのは の九個だけ(ガウスの類数 1 問題、ヘーグナー)。
注意 つまずきポイント
- 有限性の二本柱:ミンコフスキー(小さい代表の存在)+ノルム有界なイデアルの有限性。前者が幾何、 後者が代数。両方要る。
- は「調べる範囲」を与える。 以下の素数だけで類群が生成される、という有限性が計算を可能にする。 は判別式が大きいほど大きく、計算量が増える。
- 有限だが値は不規則。 は必ず有限でも、体ごとの値は非常に不規則で深い(虚二次体では とともに 概ね増えるが、実二次体では が多いか無限かすら未解決)。有限性は易しく、値は難しい。
この章のまとめ
- ミンコフスキーの限界:任意のイデアル に、 を満たす がある。 。前章の格子点定理の定量版。
- 類数の有限性:どのイデアル類もノルム の代表を持ち、そのようなイデアルは有限個。ゆえに は有限群、。第8章の問いに幾何が決着。
- 計算法: 以下の素数の素イデアル分解を調べれば類群が決まる。 は で 、 の体(ガウス整数など)は即 。
イデアル側(類群)の有限性が片付きました。残るのは単数側—— の可逆元 の 構造です。次章はディリクレの単数定理で、単数群がどんな形をしているかを明らかにします。