第11章 ディリクレの単数定理
イデアル類群(第8–10章)が「 のイデアルの構造」を測ったのに対し、この章は「 の 可逆元の構造」を扱います。 の可逆元は の二つきりでした。ところが では が単数()で、その冪 が無限個の単数を生む。この違いは どこから来て、単数群 はいったいどんな形をしているのか。ディリクレの単数定理が、 その構造を完全に決定します。対数を取って数論を幾何(格子)に翻訳する、美しい手口を見ましょう。
単数とは:ノルムが の元
定義 単数
の可逆元(乗法逆元も に属する元)を単数といい、その全体 を単数群という。
単数の判定はノルムでできます。 が単数 。実際、 なら で、ノルムは整数だから 。逆にノルムが なら、 共役の積が なので逆元が に作れる。「大きさ の元」が単数、というわけです。
例で違いを見ます。虚二次体 では の解は だけ、単数は の二つ。ところが実二次体 では がペル方程式で、 と無限個の解を持つ。 とその冪が無限の単数を生みます。有限か無限か—— この差の正体を、対数で暴きます。
発想:対数を取って積を和に、単数を格子に
無限個の単数 は、掛け算では捉えにくい。そこで対数を取って掛け算を足し算に変え、 の中の点として並べます。単数 の 個の共役の絶対値の対数を並べたベクトルを作ります。
定義 対数写像
実埋め込み と複素埋め込みの代表 を使い、単数 を に写す対数写像を考える。積は和に写る(、群準同型)。
ここで (単数)という条件が効きます。ノルムは共役の絶対値の積なので、対数を取ると 「 の成分の総和が 」——すなわち は の中の**超平面 (成分和 )**に乗ります。 超平面の次元は 。単数群の像 が、この超平面の中でどう分布するかが問題です。
核心:単数群の構造
定理 ディリクレの単数定理
数体 (実埋め込み 個、複素埋め込み 組)の単数群は と分解する。ここで は に含まれる1 の冪根の成す有限巡回群(捻れ部分)、自由部分の階数は 個の基本単数 があり、すべての単数は (、)と一意に書ける。
証明
(骨子)対数写像 の像 は超平面 (次元 )の中の格子である。核は を全埋め込みで満たす代数的整数、すなわち の冪根 (有限巡回群、クロネッカー)。像が のフルランクの格子( 次元を張る)であることを、ミンコフスキーの定理(第9章)を使って示す ——「単数がある程度たくさん存在する」ことの幾何的保証。像が階数 の格子 で核が だから、 。
階数の公式 を、例で読み解きます。単数の“自由度”は埋め込みの型で決まる。
例 階数の例
- 虚二次体 ():、。自由部分なし=単数は冪根だけ(有限)。 なら 、 なら 。
- 実二次体 ():、。階数 1=基本単数が一つ、その冪と で全単数。 の基本単数は ——ペル方程式の無限解の正体はこれ。
- (円分体、):、。
第一の例が「なぜ虚二次体の単数は有限で、実二次体は無限か」に完全に答えます。虚二次体は (自由部分なし) だから有限、実二次体は だから無限。ペル方程式が無限に解を持つのは、実二次体の単数階数が だから だったのです。数の見かけの神秘(ペルの無限解)が、埋め込みの型という構造で説明されました。
注意 単数基準(レギュレーター)
基本単数の対数ベクトル が超平面 内で張る格子の共体積を 単数基準(レギュレーター) という。イデアル類群の が「イデアルの破れ」を測るのに対し、 は「単数格子の大きさ」を測る。両者は次章の類数公式で、ゼータ関数を通じて一つの式に結ばれる。
注意 つまずきポイント
- 単数 ノルム 。「大きさ 1 の元」。イデアルとしては単数はすべて を 生む(自明)——単数は「イデアルとして見えない元」で、だからイデアル類群とは別の情報。
- 階数は 、 を忘れない。ノルム条件(成分和 )で次元が一つ落ちるのが の出どころ。
- 捻れ は 1 の冪根。有限巡回群。虚二次体では (一般に)、例外的に は 、 は の 乗根。
この章のまとめ
- 単数=ノルム の元。単数群 の構造をディリクレの定理が決定する。
- 対数写像で単数を の超平面(成分和 )内の格子に翻訳。掛け算が足し算に、無限個の 単数が格子点に化ける。
- ディリクレの単数定理:、。 は 1 の冪根。 像がフルランク格子であることの証明にミンコフスキーが効く。
- 虚二次体 (単数有限)・実二次体 (ペルの無限解=基本単数の冪)。単数の無限性は埋め込みの型で 決まる。格子の共体積が単数基準 。
イデアル類群()と単数群()——数体の二大不変量が揃いました。最終章は、これらを一つの解析的な 対象デデキントゼータ関数に結び、類数公式・円分体・類体論という数論の大伽藍への扉を開いて総括します。