微分位相幾何学
「毛の生えた球はきれいに撫でつけられない」を証明する
球面全体に毛が生えているとして、すべての毛をなめらかに寝かせることはできるか? ——できません。必ずどこかにつむじ(渦)ができる。この「毛玉の定理」は直感的には不思議ですが、 微分位相幾何学はこれを厳密に証明し、しかも「つむじの個数の総和は、球という形で決まっている (=オイラー標数)」という深い事実まで明かします。
道具は三つ。横断性——写像がどれくらい“素直に”交わるかを制御し、めったに起きない退化を避ける (サードの定理)。写像度と交叉理論——交わりや逆像の点を符号付きで数えた整数が、動かしても変わらない 不変量になる。そしてモース理論——関数の山や谷(臨界点)を数えるだけで、多様体の形(ハンドル分解・ ホモロジー)が復元できる。微分の情報から、空間の大域的な形を読み取る技術です。
なめらかな写像と関数の臨界点から、多様体の大域的な形を復元・分類する。局所の微分が大域の位相を決める。
この分野の地図
「横断性で一般の位置に」→「数える不変量」→「臨界点から形を読む」→「多様体を分類する」の順に進みます。
横断性 — 一般の位置の原理
- なめらかな世界とサードの定理 — 正則値の逆像・臨界値は測度 0
- 横断性 — 素直な交わり・摂動で横断的にできる
- ホイットニーの埋め込み定理 — はめ込み・埋め込み・ へ
写像度と交叉理論 — 符号付きで数える
- mod 2 写像度 — 個数の偶奇・ブラウワーの不動点定理
- 向きとブラウワー写像度 — 符号付き写像度・代数学の基本定理
- 交叉理論 — 交叉数・自己交叉とオイラー類
- ポアンカレ–ホップの定理 — 零点の指数の総和 = オイラー標数・毛玉の定理
モース理論 — 臨界点から形を読む
- モース関数とモースの補題 — 非退化臨界点・指数・標準形
- ハンドル分解 — 劣位集合の変化・ハンドル接着(水位を動かす)
- モース不等式 — 臨界点 ≥ ベッチ数・オイラー標数公式
- モースホモロジー — 勾配の流れ線・・特異ホモロジーと一致
分類 — 多様体そのものを分ける
- コボルディズムとエキゾチック球面 — ポントリャーギン–トム・h同境・微分構造の驚異
前提
多様体論(チャート・接空間・正則値定理・サード・ベクトル場と流れ)と 位相幾何学(ホモロジー・オイラー標数・CW 複体)が土台です。 第7章は 微分幾何学 のガウス–ボンネと双子の関係にあります。
準備ができたら 第1章:なめらかな世界とサードの定理 へ。