第6章 群作用
群は「何かに働きかける」ためにある
第1章で群を「対称性の抽象化」と呼びました。対称性とは、本来何かに作用するものです。回転群は平面の点を動かし、 は 個のものを並べ替え、ルービック群はキューブの面を回す。群を抽象的な演算表としてだけでなく、 集合に働きかける変換の集まりとして捉え直すと、群の構造が一気に見えてきます。
この視点が群作用です。そして群作用は、単なる応用ではなく群論の証明技術そのものになります。 「群を集合に作用させ、軌道の大きさを数える」——この一手から、ラグランジュの一般化(軌道–安定化群定理)、 シロー理論(第8章)、共役類の数え上げ、そして「位数が で割れれば位数 の元がある」(コーシーの定理)まで、 主要定理が次々に証明されます。群を動かして数える——それがこの章のテーマです。
群作用 = 群を集合の変換として働かせること。軌道の大きさを数えるのが、群論の強力な証明技術になる。
群作用の定義
定義 群作用
群 の集合 への(左)作用とは、写像 で (1)、(2) を満たすもの。
同値な見方:作用は準同型 ( の対称群)を与える——各 が の置換 に対応します。 群を「置換として実現する」わけです。この見方から、抽象的な群がすべて具体的な置換群だという定理が出ます。
定理 ケイリーの定理
任意の群 は、対称群 の部分群と同型。特に位数 の有限群は に埋め込める。
証明
を自分自身に左からかける作用 を考える。これは準同型 を与える。 なら (すべての )で 、ゆえに 、 は単射。 第一同型定理(前章)より 。∎
「どんな抽象的な群も、実は置換の群にすぎない」。抽象論と具体例(第9章の対称群)がここで結びつきます。
軌道と安定化群
作用を分析する2つの量を定めます。
定義 軌道・安定化群
の軌道 ( が動いて行ける先の全体)。 の安定化群 ( を動かさない元の全体、部分群)。
軌道は「 の行き先」、安定化群は「 を固定する対称性」。同じ軌道に属す関係()は 同値関係なので、軌道は を分割します。そして軌道の大きさと安定化群の大きさは、反比例の関係で結ばれます。
定理 軌道–安定化群定理
有限群 が に作用するとき、各 で
証明
とおく。写像 を考える。 well-defined & 単射:(両方向)。 全射:軌道の定義より は全部像に現れる。よって全単射で 。∎
これはラグランジュの定理(第3章)の一般化です。実際、 が自明なら 。 「軌道の大きさは群の位数を割る」——このシンプルな事実が、以下すべての数え上げの原動力になります。
共役作用と類等式
群を自分自身に共役で作用させると、特に豊かな情報が得られます。
定義 共役作用・共役類・中心化群・中心
の 自身への共役作用 。この軌道を共役類、安定化群を 中心化群 ( と可換な元)という。すべての元と可換な元の集合 を中心という。
の共役類が1点 である (誰と共役しても動かない=可換)。軌道が を分割することを 共役作用に適用すると、位数の等式が得られます。
定理 類等式
有限群 について、中心に入らない元の代表 をとると
証明
共役類は を分割する。1点の共役類()が 個、2点以上の共役類が代表 の分。 各共役類の大きさは軌道–安定化群定理より で、 ゆえ 。全部足すと 。∎
類等式は、群の位数を「中心+各共役類のサイズ」に分解します。各項が を割るという整除の制約が、 群の構造を強く縛ります。その威力を、 群とコーシーの定理で見ましょう。
p群の中心とコーシーの定理
系 p群の中心は非自明
( 素数、)なら 。
証明
類等式 で、各 は より大きく を割るので で割れる。 も で割れる。ゆえに も で割れる。()かつ より 。∎
「素数べきの位数の群は、必ず非自明な中心をもつ」——類等式の を見るだけ。この事実は第8章の 群論・ シロー理論で繰り返し使います。次はコーシーの定理を、別の巧妙な作用で証明します。
定理 コーシーの定理
素数 が を割るなら、 には位数 の元が存在する。
証明
(マッケイの証明。)集合 を考える。 は自由に選べ、 で決まるので 。巡回群 を「巡回シフト」で に作用させる (;積が なら巡回しても )。軌道の大きさは で の約数、 つまり か 。軌道の大きさ の点は で の点。 。 より 、よって 大きさ の点の数は で割れる。 は明らかに大きさ の点なので、その数は かつ の倍数、 ゆえに 。 以外に となる があり、それが位数 の元。∎
コーシーの定理は「ラグランジュの逆(位数 の部分群の存在)」が素数 については成り立つことを言います (一般には偽でした、第3章)。証明が** を作用させて軌道サイズを数える**という群作用の典型技法なのが見事です。 これは第8章のシローの第一定理の核心につながります。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 軌道は の分割、共役類は の分割。 軌道–安定化群定理は「軌道サイズ=群位数/安定化群位数」。安定化群は の部分群( の部分集合ではない)。
- 中心 と中心化群 は別。 中心は「全員と可換な元」、中心化群は「特定の と可換な元」。。
- 類等式の各項は より大きい。 中心の元は1点の共役類として にまとめ、非中心の共役類だけを和にとる。 を見るのが定石。
この章のまとめ
- 群作用は群を集合の変換として働かせること(=準同型 )。ケイリーの定理で任意の群は置換群に埋め込める。
- 軌道–安定化群定理 はラグランジュの一般化。軌道サイズが群位数を割る。
- 共役作用の類等式 から、 群の中心は非自明、コーシーの定理( なら位数 の元)が出る。作用と数え上げが群論の証明技術。
次章は、作用による数え上げの花形——バーンサイドの補題で「対称性を除いた場合の数」を数えます。