⟐ 数学の作り方 How to make Mathematics

↑ ↓ 移動 Enter 開く Esc 閉じる

第5章 同型定理

「つぶれた分だけ小さくなる」を定理にする

準同型 φ:G→G′\varphi:G\to G' は、GG の情報の一部を「つぶし」ます。つぶれる部分が核 ker⁡φ\ker\varphi、残る部分が像 im⁡φ\operatorname{im}\varphi。 線形代数の次元定理が「入力=つぶれる分+残る分」を主張したように、群でも **「GG を核でつぶした剰余群 G/ker⁡φG/\ker\varphi は、像 im⁡φ\operatorname{im}\varphi とぴったり同型」**が成り立ちます。

これが第一同型定理(準同型定理)で、群論で最も使う道具です。「G/NG/N が○○と同型」を示したいとき、 GG から○○への準同型で核が NN になるものを一本作ればよい——構造の同定が、写像を一本引くだけの作業になります。 この章では第一〜第三同型定理と対応定理を、すべて証明とともに整えます。抽象代数のあらゆる場面 (環論・加群論)で同じ定理が繰り返し現れる、普遍的な骨格です。

第一同型定理:G/ker⁡φ≅im⁡φG/\ker\varphi\cong\operatorname{im}\varphi。「核でつぶした群」=「像」。構造同定の万能ツール。

第一同型定理(準同型定理)

定理 第一同型定理

準同型 φ:G→G′\varphi:G\to G' に対し、ker⁡φ⊴G\ker\varphi\trianglelefteq G であり G/ker⁡φ ≅ im⁡φ.G/\ker\varphi\ \cong\ \operatorname{im}\varphi. 明示的には φˉ(gker⁡φ)=φ(g)\bar\varphi(g\ker\varphi)=\varphi(g) が同型を与える。

証明

N=ker⁡φN=\ker\varphi とおく(前章より N⊴GN\trianglelefteq G、剰余群 G/NG/N が作れる)。写像 φˉ:G/N→G′, φˉ(gN)=φ(g)\bar\varphi:G/N\to G',\ \bar\varphi(gN)=\varphi(g) を考える。

well-defined:gN=g′NgN=g'N なら g′=gn (n∈N)g'=gn\ (n\in N)、φ(g′)=φ(g)φ(n)=φ(g)e′=φ(g)\varphi(g')=\varphi(g)\varphi(n)=\varphi(g)e'=\varphi(g)。代表元によらない。

準同型:φˉ(gN⋅hN)=φˉ(ghN)=φ(gh)=φ(g)φ(h)=φˉ(gN)φˉ(hN)\bar\varphi(gN\cdot hN)=\bar\varphi(ghN)=\varphi(gh)=\varphi(g)\varphi(h)=\bar\varphi(gN)\bar\varphi(hN)。

単射:φˉ(gN)=e′\bar\varphi(gN)=e' なら φ(g)=e′\varphi(g)=e'、つまり g∈Ng\in N、すなわち gN=NgN=N(G/NG/N の単位元)。核が自明ゆえ単射。

像:φˉ\bar\varphi の像は φ\varphi の像に等しく im⁡φ\operatorname{im}\varphi。よって φˉ:G/N→im⁡φ\bar\varphi:G/N\to\operatorname{im}\varphi は全単射準同型=同型。∎

証明の各行が前章で仕込んだ事実(核が正規、剰余群が作れる、well-defined 性)を使っています。実用では 「φ\varphi を作る→核を計算する→第一同型定理」の3手で構造が決まります。

例 第一同型定理の使い方

  • det⁡:GLn(R)→R×\det:GL_n(\mathbb R)\to\mathbb R^\times は準同型で核が SLn(R)SL_n(\mathbb R)(行列式 11)。よって GLn(R)/SLn(R)≅R×GL_n(\mathbb R)/SL_n(\mathbb R)\cong\mathbb R^\times。
  • φ:Z→Zn, k↦k mod n\varphi:\mathbb Z\to\mathbb Z_n,\ k\mapsto k\bmod n は核 nZn\mathbb Z、全射。よって Z/nZ≅Zn\mathbb Z/n\mathbb Z\cong\mathbb Z_n。
  • 符号写像 sgn⁡:Sn→{±1}\operatorname{sgn}:S_n\to\{\pm1\}(第9章)は核が交代群 AnA_n。よって Sn/An≅Z2S_n/A_n\cong\mathbb Z_2、[Sn:An]=2[S_n:A_n]=2。

「G/N≅HG/N\cong H」を示す標準戦略:GG から HH への全射準同型で核が NN のものを1本作る。以後、多くの場面でこれを使います。

第二・第三同型定理

第一定理を土台に、部分群と剰余群の絡み合いを記述する2つの定理が出ます。

定理 第二同型定理(ダイヤモンド)

H≤GH\le G、N⊴GN\trianglelefteq G とすると、HNHN は部分群、N⊴HNN\trianglelefteq HN、H∩N⊴HH\cap N\trianglelefteq H であり H/(H∩N) ≅ HN/N.H/(H\cap N)\ \cong\ HN/N.

証明

HN={hn:h∈H,n∈N}HN=\{hn:h\in H,n\in N\} が部分群であることは NN の正規性から従う。合成 H↪HN→πHN/NH\hookrightarrow HN\xrightarrow{\pi} HN/N(π\pi は自然な全射)を ψ\psi とする。ψ\psi は全射 (hnN=hN=ψ(h)hnN=hN=\psi(h))。核は {h∈H:hN=N}={h∈H:h∈N}=H∩N\{h\in H:hN=N\}=\{h\in H:h\in N\}=H\cap N。第一同型定理より H/(H∩N)≅HN/NH/(H\cap N)\cong HN/N。∎

定理 第三同型定理

N⊴GN\trianglelefteq G、K⊴GK\trianglelefteq G、N⊆KN\subseteq K とすると、K/N⊴G/NK/N\trianglelefteq G/N であり (G/N)/(K/N) ≅ G/K.(G/N)\big/(K/N)\ \cong\ G/K.

証明

写像 G/N→G/K, gN↦gKG/N\to G/K,\ gN\mapsto gK を考える。N⊆KN\subseteq K ゆえ well-defined(gN=g′N⇒g−1g′∈N⊆K⇒gK=g′KgN=g'N\Rightarrow g^{-1}g'\in N\subseteq K\Rightarrow gK=g'K)、 準同型で全射。核は {gN:gK=K}={gN:g∈K}=K/N\{gN:gK=K\}=\{gN:g\in K\}=K/N。第一同型定理より (G/N)/(K/N)≅G/K(G/N)/(K/N)\cong G/K。∎

第三定理は「約分」です:G/NK/N=GK\dfrac{G/N}{K/N}=\dfrac{G}{K}。剰余を二段階で取っても、一気に取っても同じ。 どちらの証明も「適切な準同型を作り、核を見て、第一定理」というワンパターンで回るのが美しいところです。

対応定理

G/NG/N の部分群と、GG の(NN を含む)部分群が完全に対応します。剰余群の中身を、元の群の言葉で読むための辞書です。

定理 対応定理(格子同型定理)

N⊴GN\trianglelefteq G とする。NN を含む GG の部分群 KK と、G/NG/N の部分群 Kˉ=K/N\bar K=K/N が 包含関係を保って一対一に対応する。さらに K⊴G  ⟺  K/N⊴G/NK\trianglelefteq G\iff K/N\trianglelefteq G/N。

証明

自然な全射 π:G→G/N\pi:G\to G/N による対応 K↦π(K)=K/NK\mapsto\pi(K)=K/N と、逆に Kˉ↦π−1(Kˉ)\bar K\mapsto\pi^{-1}(\bar K) が互いに逆で、 包含・正規性を保つことを確かめる(π\pi が全射準同型であることから直接従う)。∎

対応定理のおかげで「G/NG/N を調べる」ことが「NN を含む GG の部分群を調べる」ことに翻訳できます。これは ガロア理論の基本定理(中間体と部分群の対応)の群論版の原型であり、第11章の組成列でも効きます。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 第一同型定理は「作った準同型の核を見る」道具。 G/NG/N の正体を知りたければ、核が NN の準同型を探す。逆算の発想が実用の鍵。
  • 第二定理は NN が正規、HH は部分群でよい。 HH の正規性は不要。HNHN が部分群になるのに NN の正規性を使う。
  • 第三定理の約分は N⊆KN\subseteq K が前提。 両方 GG で正規かつ入れ子。これが崩れると剰余の剰余は定義できない。

この章のまとめ

  • 第一同型定理 G/ker⁡φ≅im⁡φG/\ker\varphi\cong\operatorname{im}\varphi が背骨。「G/N≅HG/N\cong H」は「核 NN の全射準同型 G→HG\to H を1本作る」で示す。
  • 第二同型定理 H/(H∩N)≅HN/NH/(H\cap N)\cong HN/N、第三同型定理 (G/N)/(K/N)≅G/K(G/N)/(K/N)\cong G/K(約分)。どちらも「準同型を作り核を見て第一定理」で証明。
  • 対応定理で G/NG/N の部分群が NN を含む GG の部分群と一対一対応。剰余群を元の群の言葉で読む辞書。ガロア対応・組成列の原型。

前半(群の基本構造)が完成しました。次章から群作用——群を「対象に働きかけるもの」として捉え、軌道と安定化群へ進みます。