数学の作り方 How to make Mathematics

第7章 ゲーデルの完全性定理

「正しい」は、必ず「導ける」

命題論理では \vdash\models が一致しました(第3章)。一階述語論理でも同じことが成り立つ—— これがゲーデルの完全性定理(1929年、博士論文)です。量化子・関数・無限の領域という複雑さが 加わってなお、「すべての構造で真な式(妥当な式)は、有限の記号操作で必ず導ける」。

Γφ    Γφ.\Gamma\models\varphi \iff \Gamma\vdash\varphi.

\Leftarrow(健全性)は前章で示しました。この章は \Rightarrow(完全性)を、ヘンキンの方法で完全に証明します。 戦略は第3章と同じ骨格——「無矛盾なら充足可能(モデルをもつ)」を示せば完全性が出る——ですが、 一階では致命的な難所があります。命題論理では極大無矛盾集合から付値を「読む」だけでモデルができました。 しかし一階では、xφ\exists x\,\varphi が理論に属していても、それを満たす具体的な対象が言語の中に無いかもしれない。 ヘンキンの発想は「無ければ、証人となる新しい定数を言語に足してしまえ」。この一手で、 理論そのものから領域(対象の集合)を作り出します。

完全性の本体は「無矛盾 ⇒ モデルが存在」。難所は \exists の証人不足で、ヘンキンは証人定数を足して解決する。

目標の言い換え

定理 モデル存在定理(一階)

文の集合 Γ\Gamma が無矛盾ならば、Γ\Gamma はモデルをもつ(充足可能)。

これが示せれば完全性は第3章とまったく同じ論法で従います:Γ⊬φ\Gamma\not\vdash\varphi なら Γ{¬φ}\Gamma\cup\{\lnot\varphi\} は無矛盾、 モデル存在定理より Γ\Gamma を満たし φ\varphi を偽にする構造があり、Γ⊭φ\Gamma\not\models\varphi。以下、言語 L\mathcal L は 可算とする(非可算でもツォルンの補題を使えば同様。この選択公理への依存も完全性の重要な側面)。

段階1:ヘンキン証人の添加

まず「xφ\exists x\,\varphi が言えるなら、それを満たす名前がある」という状態を、言語ごと作ります。

定義 ヘンキン理論・証人性

理論 TT証人性(Henkin property)をもつとは、任意の論理式 φ(x)\varphi(x)(自由変数 xx のみ)について、 ある定数 cc で「xφ(x)φ(c)\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(c)」が TT に属すること。この ccxφ\exists x\,\varphi証人という。

補題 証人1個の添加は無矛盾性を保つ

TT を言語 L\mathcal L の無矛盾な理論、φ(x)\varphi(x) を論理式、ccL\mathcal L に現れない新しい定数とする。 このとき T=T{xφ(x)φ(c)}T'=T\cup\{\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(c)\} も無矛盾。

証明

TT' が矛盾すると仮定する。演繹定理より T¬(xφ(x)φ(c))T\vdash\lnot(\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(c))、命題論理で整理すると Txφ(x)T\vdash\exists x\,\varphi(x) かつ T¬φ(c)T\vdash\lnot\varphi(c)ccTT に現れないので、T¬φ(c)T\vdash\lnot\varphi(c) の証明中の cc を新変数 yy で一斉に置換しても正しい証明であり T¬φ(y)T\vdash\lnot\varphi(y)yyTT に自由に現れないから 一般化して Ty¬φ(y)T\vdash\forall y\,\lnot\varphi(y)、すなわち T¬xφ(x)T\vdash\lnot\exists x\,\varphi(x)。これは Txφ(x)T\vdash\exists x\,\varphi(x) と 矛盾し、TT の無矛盾性に反する。∎

「新しい定数だから、それについて導けたことは実は任意の変数について導けたはず」という置換の議論が心臓です。 これをすべての論理式について同時に行い、さらに新定数が生む新しい論理式にも証人を、と繰り返します。

補題 ヘンキン拡大

可算無矛盾理論 TT(言語 L\mathcal L)に対し、可算言語 LL\mathcal L^*\supseteq\mathcal L と無矛盾理論 TTT^*\supseteq T で、 TT^*証人性をもつものが存在する。

証明

L0=L, T0=T\mathcal L_0=\mathcal L,\ T_0=T から始め、各段 nnLn\mathcal L_n の全論理式 φ(x)\varphi(x) に対し新定数 cφc_\varphi を導入して Ln+1\mathcal L_{n+1} とし、Tn+1=Tn{xφ(x)φ(cφ):φLn}T_{n+1}=T_n\cup\{\exists x\,\varphi(x)\to\varphi(c_\varphi):\varphi\in\mathcal L_n\} とする。上の補題 (を有限個ずつ適用;証明はどれも有限個の証人しか使わない)により各 TnT_n は無矛盾。L=Ln\mathcal L^*=\bigcup\mathcal L_nT=TnT^*=\bigcup T_n とおくと、TT^* の矛盾は有限個の公理しか使わずある TnT_n で起こるはずで不合理、ゆえに無矛盾。 L\mathcal L^* の任意の論理式は既にどこかの Ln\mathcal L_n に現れるので、その証人が Tn+1TT_{n+1}\subseteq T^* にある。∎

段階2:極大無矛盾へ拡大(リンデンバウム)

第3章とまったく同じ手続きで、TT^* を極大無矛盾集合 Δ\Delta(言語 L\mathcal L^*)へ拡大します。

補題 証人性は極大化で保たれる

TΔT^*\subseteq\DeltaΔ\DeltaL\mathcal L^* 上の極大無矛盾集合とすると、Δ\Delta は次を満たす: (第3章の (a)(b)(c) に加えて)xφΔ    \forall x\,\varphi\in\Delta \iff すべての閉項 ttφ[x:=t]Δ\varphi[x:=t]\in\Delta、 かつ xφΔ    \exists x\,\varphi\in\Delta \iff ある定数 ccφ[x:=c]Δ\varphi[x:=c]\in\Delta

証明

第3章の (a)–(c)(演繹閉包・否定完全性・\to の規則)はそのまま成り立つ。\existsxφΔ\exists x\,\varphi\in\Delta なら、 証人性の公理 xφφ(cφ)TΔ\exists x\,\varphi\to\varphi(c_\varphi)\in T^*\subseteq\Delta と MP・演繹閉包で φ(cφ)Δ\varphi(c_\varphi)\in\Delta。逆に φ[x:=c]Δ\varphi[x:=c]\in\Delta なら (A4) 系(φ(c)xφ\varphi(c)\to\exists x\,\varphi)で xφΔ\exists x\,\varphi\in\Delta\forallxφ¬x¬φ\forall x\,\varphi\equiv\lnot\exists x\,\lnot\varphi と否定完全性から従う。∎

証人性のおかげで、Δ\Delta の中の「\exists」は必ず具体的な名前つきの証人をもちます。これが次のモデル構成で決定的です。

段階3:項モデルの構成

いよいよモデルを作ります。領域を外から用意するのではなく、言語の閉項そのものを対象とみなすのがヘンキンの妙技です。

定義 項モデル(正準モデル)

L\mathcal L^* の閉項(変数を含まない項)全体を CT\mathrm{CT} とする。CT\mathrm{CT} 上の関係 tt    (t=t)Δt\sim t' \iff (t=t')\in\Delta は同値関係(Δ\Delta が等号公理を含み演繹で閉じているので反射・対称・推移)。商 M=CT/M=\mathrm{CT}/{\sim} を領域とし、 cM=[c],fM([t1],,[tn])=[f(t1,,tn)],([t1],,[tn])RM    R(t1,,tn)Δc^{\mathcal M}=[c],\quad f^{\mathcal M}([t_1],\dots,[t_n])=[f(t_1,\dots,t_n)],\quad ([t_1],\dots,[t_n])\in R^{\mathcal M}\iff R(t_1,\dots,t_n)\in\Delta と解釈する。等号公理が \sim との両立(well-defined 性・合同性)を保証する。

対象とは「名前(閉項)を、Δ\Delta が等しいと言うものどうしで同一視したもの」。証人性があるおかげで MM は空でなく(少なくとも証人定数がある)、しかも「\exists の対象」が必ず領域に居ます。関数・関係の解釈が 代表元 tit_i の取り方によらないこと(well-defined)は、等号公理 x=y()x=y\to(\dots)Δ\Delta にあることから従います。

段階4:真理補題

補題 真理補題

M\mathcal M を上の項モデルとする。L\mathcal L^* の任意の σ\sigma について Mσ    σΔ.\mathcal M\models\sigma \iff \sigma\in\Delta.

証明

まず閉項 tt について tM=[t]t^{\mathcal M}=[t] が項の構造に関する帰納法で従う(解釈の定義そのもの)。次に文 σ\sigma について 構造的帰納法。

原子文 R(t1,,tn)R(t_1,\dots,t_n)MR(t1,,tn)    ([t1],,[tn])RM    R(t1,,tn)Δ\mathcal M\models R(t_1,\dots,t_n)\iff([t_1],\dots,[t_n])\in R^{\mathcal M}\iff R(t_1,\dots,t_n)\in\Delta (解釈の定義)。等式 t1=t2t_1=t_2\sim の定義より同様。

¬,\lnot,\to:否定完全性 (b) と \to の規則 (c)(極大無矛盾集合の性質)が、¬,\lnot,\to の充足の定義とちょうど対応する (第3章の真理補題と同型の議論)。

xφ\exists x\,\varphi\forall はその否定): ()(\Rightarrow) Mxφ\mathcal M\models\exists x\,\varphi なら、ある対象 [t]M[t]\in MMφ[x:=t]\mathcal M\models\varphi[x:=t]φ[x:=t]\varphi[x:=t]φ\varphi より簡単な文なので帰納法の仮定より φ[x:=t]Δ\varphi[x:=t]\in\Delta、よって(φ(t)xφ\varphi(t)\to\exists x\,\varphi が導けるので)xφΔ\exists x\,\varphi\in\Delta()(\Leftarrow) xφΔ\exists x\,\varphi\in\Delta なら、証人性(段階2の補題)よりある定数 ccφ[x:=c]Δ\varphi[x:=c]\in\Delta。帰納法の仮定で Mφ[x:=c]\mathcal M\models\varphi[x:=c]、すなわち対象 [c][c]φ\varphi を満たすので Mxφ\mathcal M\models\exists x\,\varphi。∎

証明の全行程で、()(\Leftarrow)\exists の場合だけが証人性を本質的に使います。ここがヘンキン構成の要で、 「Δ\Deltaxφ\exists x\,\varphi を認めるなら、その証人 cc が領域に居て実際に φ\varphi を満たす」——だから 「Δ\Delta に属する = モデルで真」が量化子を越えて成立するのです。

完成

証明

真理補題より MΔ\mathcal M\models\Delta、特に MTΔ\mathcal M\models T\subseteq\DeltaM\mathcal M は言語 L\mathcal L^* の構造だが、 非論理記号を L\mathcal L に制限(reduct)すれば元の ΓT\Gamma\subseteq T のモデルになる。よって Γ\Gamma は充足可能—— モデル存在定理が示せた。ゆえに完全性 ΓφΓφ\Gamma\models\varphi\Rightarrow\Gamma\vdash\varphi が成り立つ。∎

定理 ゲーデルの完全性定理

一階述語論理において Γφ    Γφ\Gamma\models\varphi \iff \Gamma\vdash\varphi。 (健全性は前章、完全性は本章。)

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 完全性 ≠ 完全な理論。 「完全性定理」は論理の証明体系が妥当な式を全部導けること。特定の理論 TT が「完全(すべての文の真偽を決める)」かは別問題で、第13章の不完全性はまさにそこを否定する。
  • モデルは言語から作られる。 領域は外から与えるのでなく、閉項の同値類。証人性が「\exists の対象」を言語内に用意する。
  • 可算言語では帰納的、非可算では選択公理。 ヘンキン拡大とリンデンバウムは、非可算だとツォルンの補題を要する。完全性は選択公理に(弱く)依存する。

この章のまとめ

  • 完全性の本体はモデル存在定理「無矛盾 ⇒ 充足可能」。命題論理と同じ骨格だが、\exists の証人不足という難所がある。
  • ヘンキンの構成:(1) 証人定数を添加して証人性をもつ無矛盾拡大を作る、(2) 極大無矛盾集合へ拡大、(3) 閉項の同値類を領域とする項モデルを作る、(4) 真理補題\exists の場合に証人性が効く)で締める。
  • 結論、一階述語論理で \vdash\models は一致する。証明は可算なら帰納的、非可算なら選択公理に依存する。

次章は、完全性の“ご褒美”——コンパクト性定理とレーヴェンハイム–スコーレムの定理、そして超準モデルへ進みます。