数学の作り方 How to make Mathematics

第1章 弱解への道

微分方程式では、u+u=0u''+u=0 のような方程式を「二回微分できる関数 uu で、 式をぴったり満たすもの」を探して解きました。これを古典解といいます。ところが少し現実的な問題を 考えると、この「二回微分できる」という要求がすぐに破綻します。まずはそこでつまずくところを、具体的に見てみましょう。

つまずき:現実の解は、微分できないことがある

弦を思い浮かべてください。両端を固定した弦の真ん中を指でつまんで放すと、三角形の形になります。三角形の頂点—— つまんだ点——では、弦は折れています。折れ曲がった点で微分は不連続、二階微分にいたっては存在しません。 それでも弦は物理的にちゃんと運動する。「解」は明らかに存在するのに、方程式 utt=uxxu_{tt}=u_{xx} を古典的な意味では 満たせない点がある——これは困ります。

もう一つ。二種類の金属を貼り合わせた棒の熱平衡を考えると、熱の伝わりやすさ(係数)が接合面で急に変わり、 温度分布 uu の傾きがそこで折れます。あるいは点電荷のポテンシャルは原点で発散し、 方程式 Δu=δ-\Delta u=\delta(右辺は一点に集中した電荷)を古典的には書けません。

注意 問題の核心

自然が用意する「本当の解」は、しばしば古典解の要求(十分な回数だけ微分できる)を満たさない。 角・段差・特異点を持つ関数を、それでも方程式の解として認める枠組みが要る。 「微分できないもの」をどう扱うか——これが発展 PDE の出発点。

発想の転換:微分を「相手に押しつける」

鍵は、フーリエ解析の超関数で学んだのと同じ一手——部分積分です。 方程式そのものを直接みるのをやめ、方程式に滑らかな重み関数 φ\varphi を掛けて積分してみます。 この φ\varphi試験関数と呼びます。境界付近では 00 になる、何回でも微分できる素性の良い関数 (φCc\varphi\in C_c^\infty、コンパクト台)だと約束しておきます。

例として、区間 Ω\Omega 上でのポアソン方程式 u=f-u''=f を考えましょう。両辺に φ\varphi を掛けて積分します。

Ωuφdx=Ωfφdx.-\int_\Omega u''\,\varphi\,dx=\int_\Omega f\,\varphi\,dx.

左辺を部分積分します。φ\varphi は端で 00 なので境界項は消え、

Ωuφdx=[uφ]Ωuφdx=Ωuφdx.\int_\Omega u''\varphi\,dx=\Big[u'\varphi\Big]-\int_\Omega u'\varphi'\,dx=-\int_\Omega u'\varphi'\,dx.

つまり

Ωuφdx=Ωfφdx(すべての φCc).\int_\Omega u'\,\varphi'\,dx=\int_\Omega f\,\varphi\,dx\qquad(\text{すべての }\varphi\in C_c^\infty).

見てください——左辺に残った uu の微分は一階だけ。二階微分が消えました。微分の一つが、部分積分によって uu から φ\varphi引っ越したのです。φ\varphi はこちらが用意する滑らかな関数だから、何回でも微分できる。 「微分できない uu」の代わりに「いくらでも微分できる φ\varphi」に微分を背負わせる——これが核心の一手です。

定義 弱形式・弱解(一次元ポアソン方程式の例)

uuu=f-u''=f弱解とは、uu が一階まで積分可能な微分を持ち、 Ωuφdx=Ωfφdx\int_\Omega u'\varphi'\,dx=\int_\Omega f\varphi\,dx がすべての試験関数 φCc(Ω)\varphi\in C_c^\infty(\Omega) について成り立つこと。この等式を弱形式という。

弱解は古典解の「正しい拡張」になっている

新しい定義を作ったら、まず確かめるべきは「古い定義と矛盾しないか」です。二つの向きを確認します。

古典解 ⇒ 弱解。 uu が本当に二回微分できて u=f-u''=f を満たすなら、上の計算を逆にたどるだけで弱形式が 出ます。だから古典解は必ず弱解でもある。弱解は解の概念を広げただけで、既存の解を捨てていません。

滑らかな弱解 ⇒ 古典解。 逆に、弱解 uu がたまたま二回微分できたとしましょう。弱形式で部分積分を 逆向きに行うと、Ω(uf)φdx=0\int_\Omega(-u''-f)\varphi\,dx=0 がすべての φ\varphi について成り立つ。ここで 「任意の試験関数を掛けて積分するといつも 00 になる連続関数は、00 そのもの」という基本事実 (変分法の基本補題)を使えば、uf=0-u''-f=0、すなわち古典的に方程式を満たします。

補題 変分法の基本補題

連続関数 ggΩgφdx=0\int_\Omega g\,\varphi\,dx=0 をすべての φCc(Ω)\varphi\in C_c^\infty(\Omega) について満たすなら、 Ω\Omega 上で g0g\equiv 0

証明

もし g(x0)0g(x_0)\neq0 なら、連続性より x0x_0 の小さな近傍で gg は同符号(たとえば正)。その近傍に台を持つ 非負で山型の φ0\varphi\ge0x0x_0 で正)を選べば gφdx>0\int g\varphi\,dx>0 となり、仮定に反する。よって g0g\equiv0

つまり弱解は、滑らかなら古典解に一致し、滑らかでなくても意味を持つ——古典解の過不足ない拡張です。 角のある弦も、段差のある温度も、これで堂々と「解」と呼べます。

なぜこれが強力なのか

弱形式 uφ=fφ\int u'\varphi'=\int f\varphi をもう一度眺めてください。これは uu について線形な等式であり、 左辺は「uuφ\varphi の微分どうしの積を積分したもの」——いかにも内積のような形をしています。 実際この後の章で、左辺を無限次元空間の内積(あるいは双線形形式)とみなし、 弱形式を「ある無限次元空間の中で方程式を解く」問題に翻訳します。すると関数解析の 強力な定理(リースの表現定理、ラックス–ミルグラム)が使えて、解の公式を書かずに存在と一意性が出る

そのために必要なのが、「一階の微分(弱微分)を持ち、その微分が二乗可積分な関数」たちの集まり—— 次章のソボレフ空間です。弱形式に登場する uφ\int u'\varphi' が意味を持つ、ちょうど良い舞台を用意します。

注意 つまずきポイント

  • 試験関数 φ\varphi は「掛けて積分するための道具」。解ではありません。方程式の情報を、あらゆる φ\varphi との 積分を通して「間接的に」引き出すための、こちらが自由に選べる滑らかなプローブです。
  • 「すべての φ\varphi について」が命。一つの φ\varphi で成り立っても意味は薄い。無限個の等式が同時に 成り立つからこそ、変分法の基本補題で元の方程式が復元できます。
  • 弱解は一つの関数ではなく、等式で定義される概念。「弱形式を満たすもの」という条件で解を定義している、 という発想の転換に慣れることが第一歩です。

この章のまとめ

  • 現実の解は角・段差・特異点を持ち、古典解の「何回でも微分できる」要求を満たさないことがある。
  • 部分積分で微分を試験関数 φ\varphi に押しつけ、uφ=fφ\int u'\varphi'=\int f\varphi という弱形式を作れば、 微分の回数を減らして「微分しにくい uu」を解として扱える。
  • 弱解は古典解の過不足ない拡張:古典解は弱解であり、滑らかな弱解は(変分法の基本補題で)古典解に戻る。
  • 弱形式は uu について線形で内積のような形——次章のソボレフ空間の上で、関数解析の道具に載せる準備が整う。

次章は、弱形式が意味を持つ舞台ソボレフ空間 H1H^1 を建設します。「微分が二乗可積分」という条件で関数を集め、 それがヒルベルト空間になること、そしてなぜ完備性が決定的なのかを見ます。