第1章 濃度 — 無限の大きさを比べる
「無限」は、ぜんぶ同じ大きさなのか
自然数 は無限にあります。偶数 も無限。実数 も無限。 どれも「無限個」。では——無限どうしに、大きい・小さいはあるのか?
素朴には「自然数より実数のほうが多そう」「偶数は自然数の半分だから少なそう」と感じます。 でも「個数を数える」という手が使えない無限で、多い・少ないをどう決めればいいのか。 ここをいい加減にすると、直感がことごとく裏切られます。実は**偶数と自然数は“同じ数”**で、 自然数と実数は“違う数”——しかもそれを厳密に証明できる。無限の大小をきちんと測る物差しが、 この章の主役「濃度」です。
「数える」が使えないなら、1対1に対応づけられるかで大小を決める。これが濃度の考え方。
濃度:対応がつけば「同じ大きさ」
有限集合なら「要素を1個ずつペアにできる ⇔ 同数」。これを無限にもそのまま持ち込みます。
定義 濃度が等しい
集合 の間に全単射(1対1かつ上への写像) が存在するとき、 と は濃度が等しいといい と書く。 から への単射があるときは 。
「要素を余さず・重複なくペアにできれば同じ大きさ」。この定義の恐ろしさは、次の例で分かります。
例 全体と部分が同じ大きさ
は自然数 から偶数全体への全単射。よって 。 「偶数は自然数の一部なのに、同じ数」。無限では「部分<全体」が壊れる——むしろこれを 無限の定義に使うこともある(自分の真部分集合と対等になれるのが無限集合)。
可算:自然数と同じ大きさ
自然数と対応がつく無限が、いちばん“小さい”無限です。
定義 可算・非可算
と濃度が等しい集合を可算無限という( 列に番号づけできる)。 有限か可算無限のものを高々可算、そうでない無限を非可算という。
定理 有理数は可算
整数 、有理数 、可算集合の可算個の和——これらはすべて可算。
が可算なのは意外です。数直線上びっしり詰まっている(どの2点の間にも無限個ある)のに、 うまく1列に並べれば番号を振り切れる。分数 を「 が小さい順・同点は適当な順」で 並べる“対角線的な数え上げ”がその並べ方。「隙間なく詰まっている」ことと「番号が振れる」ことは 別問題だ、という最初の教訓です。
対角線論法:番号を振り切れない無限
では実数はどうか。ここで数学史上もっとも美しい論法の一つ、対角線論法が登場します。 結論だけ言えば「どんなに頑張って1列に並べても、必ずリストから漏れる数を作れる」。
下の表で体験してください。無限に続く の列を好きなだけ縦に並べても、 対角線を取り出して反転させた列 を作れば、 は第 行と第 桁で必ず食い違う。 つまり はどの行とも一致せず、リストに載っていません。何度作り直しても、同じことが起きます。
定理 カントールの対角線論法
の無限列全体(= の部分集合全体 、=実数区間 と同濃度)は 非可算である。すなわち 。
証明
の無限列が可算だと仮定し、 と全部並べたとする。 (第 列の第 桁を反転)で列 を作ると、 は各 と第 桁で異なるので どの とも一致しない。だが も の無限列。並べたはずのリストに が無い——矛盾。 よって非可算。
一般化すると、どんな集合 も、そのべき集合 より真に小さい(、カントールの定理)。 無限には最大がなく、より大きな無限がいくらでも作れます。
ベルンシュタインの定理と連続体濃度
「濃度が等しい」を示すには全単射を作らねばならず、しばしば大変です。次の定理が救ってくれます。
定理 カントール–ベルンシュタインの定理
かつ (両向きの単射がある)ならば (全単射がある)。
「互いに相手の中に埋め込めれば、同じ大きさ」。数の大小で当たり前の が、 濃度でも成り立つ、という保証です。全単射を直接作らずに、作りやすい単射を2本用意すれば済むので、 実用上きわめて強力。これを使うと と 、 と平面 が同濃度、といった等式が楽に出ます。
定義 連続体濃度
を連続体濃度 という。 とすると 。
注意 連続体仮説
「 と のあいだの濃度は存在するか」——これが連続体仮説。驚くべきことに、これは 通常の集合論の公理(ZFC)からは証明も反証もできない(ゲーデルとコーエン)。無限の階段の“段の間隔”は、 今の数学の土台では決められない。詳しくは数理論理学・数学基礎論へ。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 「無限+無限=より大きい無限」ではない。 可算+可算は可算、可算×可算も可算。無限の足し算・掛け算は素朴な直感と違う。
- 「びっしり詰まっている=非可算」ではない。 は稠密だが可算。稠密さ(第3章)と濃度は無関係。
- 対角線論法は「作った がリストに無い」が核。 を作れること自体が矛盾を生む。ベルンシュタインと混同しない。
この章のまとめ
- 無限の大小は「数える」ではなく全単射があるかで測る。ゆえに (すべて可算)。
- 対角線論法により は非可算()。より大きい無限はべき集合でいくらでも作れる。
- ベルンシュタインの定理(両向きの単射 ⇒ 同濃度)で濃度計算が楽になる。。
次章は、無限を扱うときに必ず顔を出す順序と選択公理——ツォルンの補題と整列可能定理を整えます。