数学の作り方 How to make Mathematics

第1章 代数的数と代数的整数

普通の整数 Z\mathbb Z は、たし算・かけ算ができて素因数分解が一意——数論の楽園です。でも Z\mathbb Z の中だけでは 手が届かない問題があります。「x2+y2=px^2+y^2=p を満たす整数は?」「x22y2=1x^2-2y^2=1 の解は?」こうした問いは、 1\sqrt{-1}2\sqrt2 を数の世界に招き入れると一気に見通しがよくなる。この章では、整数の世界を 多項式の根という視点で広げ直し、この分野の主役——代数的整数を定義します。まずは「数を広げる」とは どういうことかから始めましょう。

なぜ整数を広げるのか

具体例で動機を作ります。「どの素数 pp が二つの平方数の和 p=a2+b2p=a^2+b^2 で書けるか」という古典的な問い。 5=1+45=1+413=4+913=4+9 は書けるが、3,7,113,7,11 は書けない。答えは「p1(mod4)p\equiv1\pmod 4 のとき、かつそのときに限る」 という美しい定理ですが、これを見通しよく証明する鍵は、ガウス整数 Z[i]={a+bi:a,bZ}\mathbb Z[i]=\{a+bi:a,b\in\mathbb Z\} に 移ることです。p=a2+b2=(a+bi)(abi)p=a^2+b^2=(a+bi)(a-bi) と、ppZ[i]\mathbb Z[i] の中で「割れる」かどうかの問題に翻訳できる。

つまり、整数の問題を解くために、あえて整数より広い数の世界へ出る。そこで因数分解し、割り算し、また 整数の世界へ戻ってくる。この往復のために、「どんな数まで招き入れてよいか」を厳密に決める必要があります。 その基準が「多項式の根であること」です。

代数的数:多項式の根としての数

定義 代数的数

複素数 α\alpha代数的数とは、有理数係数の(00 でない)多項式 f(x)Q[x]f(x)\in\mathbb Q[x]f(α)=0f(\alpha)=0 となるものが存在すること。そうでない数(π,e\pi,e など)を超越数という。

2\sqrt2x22=0x^2-2=0 の根、iix2+1=0x^2+1=0 の根、1+52\frac{1+\sqrt5}{2}x2x1=0x^2-x-1=0 の根——みな代数的数です。 有理数 pq\frac{p}{q}qxp=0qx-p=0 の根だから代数的数。代数的数は「代数方程式で捕まえられる数」の全体で、 Q\mathbb Q を含むずっと広い世界です。各代数的数 α\alpha には、それを根に持つ最小次数のモニック多項式 (最小多項式体論・ガロア理論で学んだもの)が一意に定まります。

代数的整数:モニックで整数係数

代数的数はまだ広すぎます。12\frac1223\frac{\sqrt2}{3} も代数的数ですが、これらは「整数の親戚」とは言いにくい。 「Z\mathbb Z を広げた先での“整数”」にあたるものを、正確に選び出したい。基準はこうです——先頭係数が 11 (モニック)で、係数がすべて整数の多項式の根。

定義 代数的整数

複素数 α\alpha代数的整数とは、モニックな整数係数多項式 xn+cn1xn1++c1x+c0=0(ciZ)x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_1 x+c_0=0\qquad(c_i\in\mathbb Z) の根であること。「モニック(先頭 11)」かつ「係数が整数」の両方が要点。

2\sqrt2x22x^2-2)、iix2+1x^2+1)、1+52\frac{1+\sqrt5}{2}x2x1x^2-x-1)はすべて代数的整数。一方 12\frac12x12=0x-\frac12=0 でモニックだが係数が整数でなく、2x1=02x-1=0 は整数係数だがモニックでない——どうやってもモニック 整数係数にできず、代数的整数ではない。「モニック」の条件が、有理数のうち普通の整数 Z\mathbb Z だけを 選び出す仕掛けになっています。

命題 有理数の中の代数的整数は普通の整数だけ

αQ\alpha\in\mathbb Q が代数的整数なら αZ\alpha\in\mathbb Z

証明

α=pq\alpha=\frac{p}{q}(既約分数)がモニック整数係数の xn+cn1xn1++c0=0x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0=0 を満たすとする。代入して qnq^n を掛けると pn+cn1pn1q++c0qn=0p^n+c_{n-1}p^{n-1}q+\cdots+c_0 q^n=0。最初の項以外はすべて qq で割れるので qpnq\mid p^np,qp,q は互いに素だから q=±1q=\pm1、ゆえに αZ\alpha\in\mathbb Z(有理根定理)。

これは安心材料です。世界を広げても、Q\mathbb Q の中では「代数的整数=普通の整数」。新しい“整数”の概念が、 既存の Z\mathbb Z をちゃんと拡張している(食い違わない)ことを保証します。

核心:代数的整数の全体は環をなす

さて、代数的整数を集めた Z\overline{\mathbb Z}(すべての代数的整数の全体)が、たし算・かけ算で閉じているか—— α,β\alpha,\beta が代数的整数なら α+β\alpha+\betaαβ\alpha\beta もそうか。これは全く自明ではありません。 α\alpha の多項式と β\beta の多項式から、α+β\alpha+\beta を根に持つモニック整数係数多項式を作るのは、素朴には 難しい。ここで加群論の発想が効きます。

定理 代数的整数は環をなす

代数的整数の全体は、たし算・かけ算について閉じている(環をなす)。すなわち α,β\alpha,\beta が代数的整数なら、 α±β\alpha\pm\betaαβ\alpha\beta も代数的整数。

証明

鍵は「α\alpha が代数的整数 \Leftrightarrow Z[α]\mathbb Z[\alpha]有限生成な Z\mathbb Z 加群」という言い換え。 α\alpha が次数 nn のモニック関係を満たせば、1,α,,αn11,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}Z[α]\mathbb Z[\alpha] が生成される (高い冪はモニック関係で下げられる)。逆に、α\alpha を含む有限生成 Z\mathbb Z 加群 MMαMM\alpha M\subseteq M)が あれば、α\alphaMM への掛け算を行列 AA で表し、ケイリー–ハミルトン(線形代数)で AA の固有多項式(モニック整数係数)が α\alpha を消す——α\alpha は代数的整数。

そこで α,β\alpha,\beta が代数的整数なら、Z[α,β]\mathbb Z[\alpha,\beta]{αiβj}i<n,j<m\{\alpha^i\beta^j\}_{i<n,\,j<m} で生成される有限生成 Z\mathbb Z 加群。α+β\alpha+\betaαβ\alpha\beta もこの加群を 自分自身に写す(掛けても外に出ない)から、上の逆向きの言い換えで代数的整数。有限生成加群という「入れ物」を 共有させるのが証明の心。

「有限生成 Z\mathbb Z 加群という共通の器の中で掛け算する」——これがこの証明の考え方で、後の章でも繰り返し 使う道具です。この定理のおかげで、Z\overline{\mathbb Z} は本当に“整数のような”環になり、次章で数体 KK ごとに その整数環 OK=ZK\mathcal O_K=\overline{\mathbb Z}\cap K を切り出せるようになります。

注意 つまずきポイント

  • 代数的「数」と代数的「整数」の違いはモニック。代数的数は「Q\mathbb Q 係数多項式の根」、代数的整数は 「モニック整数係数多項式の根」。12\frac12 は前者だが後者でない。
  • 最小多項式が整数係数かで判定α\alpha が代数的整数 \Leftrightarrow その(Q\mathbb Q 上の)最小多項式が 整数係数。1+52\frac{1+\sqrt5}{2} の最小多項式 x2x1x^2-x-1 は整数係数なので代数的整数(分母 22 に惑わされない)。
  • 環をなすのは非自明。和や積の多項式を直接作るのでなく、有限生成加群を器にして示す。この「加群で捉える」 発想が整拡大論(第5章)の芯になる。

この章のまとめ

  • 整数の問題を解くために、あえて整数より広い数の世界Z[i]\mathbb Z[i] など)へ出て因数分解する——これが 代数的整数論の戦略。
  • 代数的数Q\mathbb Q 係数多項式の根。代数的整数モニック整数係数多項式の根。モニック条件が 「新しい整数」を選び出す。
  • Q\mathbb Q の中では代数的整数=普通の整数(拡張が既存の Z\mathbb Z と食い違わない)。
  • 代数的整数の全体は環をなす。証明は「代数的整数 \Leftrightarrow 有限生成 Z\mathbb Z 加群を張る」と ケイリー–ハミルトン。有限生成加群を器にするのが鍵。

次章は、一つの数 α\alpha で生成される数体 K=Q(α)K=\mathbb Q(\alpha) と、その中の代数的整数を集めた整数環 OK\mathcal O_K を導入します。OK\mathcal O_KZ\mathbb Z 上の自由加群(整基底を持つ)であることが、以降の議論の 足場になります。