⟐ 数学の作り方 How to make Mathematics

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第2章 オイラー–ラグランジュ方程式

前章で、最適な形 yy の条件は「端点で消えるすべての揺らし η\eta について、第一変分 δJ[y;η]=ddε∣0J[y+εη]=0\delta J[y;\eta]=\frac{d}{d\varepsilon}\big|_{0}J[y+\varepsilon\eta]=0」だと分かりました。でも「すべての η\eta」は 無限個の条件です。これをこのまま扱うのは大変。この章の目標は、この無限個の条件を、yy が満たすべき たった一本の微分方程式に凝縮すること。その方程式が、変分法の心臓部——オイラー–ラグランジュ方程式です。 まずは「揺らすと値がどう動くか」を実際に見てみましょう。

まず体感:揺らして、値の谷を探す

下の装置は、両端を固定した曲線を揺らし η(x)=sin⁡(πx)\eta(x)=\sin(\pi x) で ε\varepsilon だけ変形し、汎関数 JJ(長さ、または エネルギー)の値を右のグラフに描きます。ベースが「直線(極値)」のときと「たるんだ弧(非極値)」のときで、 ε=0\varepsilon=0 での振る舞いがどう違うかに注目してください。

直線ベースでは、J(ε)J(\varepsilon) は ε=0\varepsilon=0 を谷とする放物線——どちらに揺らしても値が増える。まさに δJ=0\delta J=0(傾き 00)。一方たるみベースでは、ε=0\varepsilon=0 は谷ではなく坂の途中で、揺らせばまだ値を 減らせる。δJ≠0\delta J\neq0、これは極値ではない。**「極値 ⟺ どの揺らし方でも第一変分が 00」**を目で確かめられます。 では、この条件を計算で書き下しましょう。

第一変分を計算する

J[y]=∫abL(x,y,y′) dxJ[y]=\int_a^b L(x,y,y')\,dx に yε=y+εηy_\varepsilon=y+\varepsilon\eta を入れ、ε\varepsilon で微分して ε=0\varepsilon=0 と 置きます。合成関数の微分(連鎖律)で、LL の中の yy は εη\varepsilon\eta だけ、y′y' は εη′\varepsilon\eta' だけ動くので、 δJ[y;η]=∫ab(∂L∂y η+∂L∂y′ η′)dx.\delta J[y;\eta]=\int_a^b\left(\frac{\partial L}{\partial y}\,\eta+\frac{\partial L}{\partial y'}\,\eta'\right)dx. ここで ∂L∂y\frac{\partial L}{\partial y} と ∂L∂y′\frac{\partial L}{\partial y'} は、L(x,y,y′)L(x,y,y') を第2・第3引数で偏微分したもの (xx に沿って y(x),y′(x)y(x),y'(x) を代入した既知の関数)です。問題は、この式に η\eta と η′\eta' の両方が入っていること。 「すべての η\eta で 00」を読み取るには、η\eta だけの形にそろえたい。ここで部分積分が効きます。

部分積分で η′\eta' を追い出す

第二項を部分積分します。η(a)=η(b)=0\eta(a)=\eta(b)=0(端点で揺らさない)なので、境界項がきれいに消えます。 ∫ab∂L∂y′ η′ dx=[∂L∂y′ η]ab−∫abddx ⁣(∂L∂y′)η dx=−∫abddx ⁣(∂L∂y′)η dx.\int_a^b\frac{\partial L}{\partial y'}\,\eta'\,dx=\left[\frac{\partial L}{\partial y'}\,\eta\right]_a^b-\int_a^b\frac{d}{dx}\!\left(\frac{\partial L}{\partial y'}\right)\eta\,dx=-\int_a^b\frac{d}{dx}\!\left(\frac{\partial L}{\partial y'}\right)\eta\,dx. すると第一変分は、η\eta だけをくくり出した形になります。 δJ[y;η]=∫ab(∂L∂y−ddx∂L∂y′)η dx.\delta J[y;\eta]=\int_a^b\left(\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial L}{\partial y'}\right)\eta\,dx. 「端点で揺らさない」という約束が、ちょうど境界項を消してこの整理を可能にしました。あとは「これがすべての η\eta で 00」の意味を読み取るだけです。

変分法の基本補題:無限個の条件を一本に

補題 変分法の基本補題

連続関数 g(x)g(x) が、η(a)=η(b)=0\eta(a)=\eta(b)=0 を満たすすべての滑らかな η\eta について ∫abg(x)η(x) dx=0\int_a^b g(x)\eta(x)\,dx=0 を 満たすなら、[a,b][a,b] 上で g≡0g\equiv0。

証明

もし g(x0)≠0g(x_0)\neq0(たとえば正)なら、連続性より x0x_0 の小さな近傍 (c,d)⊂(a,b)(c,d)\subset(a,b) で g>0g>0。この近傍だけに 台を持つ山型の η≥0\eta\ge0((c,d)(c,d) で正、外で 00、端点で 00)を選ぶと ∫abgη dx>0\int_a^b g\eta\,dx>0 となり仮定に反する。 よって至るところ g≡0g\equiv0。「あらゆる重みで積分して常に 00 なら、中身が 00」。

この補題を g=∂L∂y−ddx∂L∂y′g=\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial L}{\partial y'} に適用すれば、無限個の条件 「すべての η\eta で δJ=0\delta J=0」が、たった一本の方程式 g≡0g\equiv0 に凝縮されます。

定理 オイラー–ラグランジュ方程式

汎関数 J[y]=∫abL(x,y,y′) dxJ[y]=\int_a^b L(x,y,y')\,dx の極値(停留形)yy は、微分方程式  ∂L∂y−ddx ⁣(∂L∂y′)=0 \boxed{\ \frac{\partial L}{\partial y}-\frac{d}{dx}\!\left(\frac{\partial L}{\partial y'}\right)=0\ } を満たす。これをオイラー–ラグランジュ方程式(E–L 方程式)という。

無限次元の最小化問題が、一本の(一般に二階の)常微分方程式に化けました。「形を探す」問題が「微分方程式を 解く」問題になったのです。x,y,y′x,y,y' に具体的なラグランジアンを入れて解けば、最適な形が求まります。

使ってみる:最短経路は直線

いちばん簡単な例で確かめます。曲線の長さ L=1+y′2L=\sqrt{1+y'^2} は yy を含まないので ∂L∂y=0\frac{\partial L}{\partial y}=0。 また ∂L∂y′=y′1+y′2\frac{\partial L}{\partial y'}=\frac{y'}{\sqrt{1+y'^2}}。E–L 方程式は 0−ddxy′1+y′2=0 ⟹ y′1+y′2=定数 ⟹ y′=定数.0-\frac{d}{dx}\frac{y'}{\sqrt{1+y'^2}}=0\ \Longrightarrow\ \frac{y'}{\sqrt{1+y'^2}}=\text{定数}\ \Longrightarrow\ y'=\text{定数}. y′y' が定数、すなわち yy は直線。「2点間の最短経路は直線」が、変分法から導かれました。当たり前の結果ですが、 仕組みが正しく働くことの確認になります。次章以降、yy を含む場合・yy を含まない場合の解き方の型を整え、 最速降下線のような非自明な形へ進みます。

注意 つまずきポイント

  • ddx\frac{d}{dx} は全微分。ddx∂L∂y′\frac{d}{dx}\frac{\partial L}{\partial y'} の中で、∂L∂y′\frac{\partial L}{\partial y'} は x,y(x),y′(x)x,y(x),y'(x) を通して xx に依存する。展開すると ∂2L∂y′∂x+∂2L∂y′∂yy′+∂2L∂y′2y′′\frac{\partial^2 L}{\partial y'\partial x}+\frac{\partial^2 L}{\partial y'\partial y}y'+\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2}y'' となり、一般に y′′y'' を含む二階 ODE。偏微分 ∂∂y′\frac{\partial}{\partial y'} と混同しない。
  • E–L は必要条件。δJ=0\delta J=0 は停留の条件であって、最小である保証ではない。実際に最小かは第二変分・ 直接法で確かめる(第9・10章)。装置の「たるみベース」が示すように、δJ≠0\delta J\neq0 なら極値ですらない。
  • 基本補題の η\eta は「端で 00・滑らか」で十分。それだけの自由度で中身 gg を完全に決められる—— 少数の良いテスト関数が、関数全体を復元する。PDE の弱解の試験関数と同じ精神。

この章のまとめ

  • 第一変分は部分積分で δJ[y;η]=∫ab(∂L∂y−ddx∂L∂y′)η dx\displaystyle\delta J[y;\eta]=\int_a^b\Big(\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial L}{\partial y'}\Big)\eta\,dx に 整理できる(端点で η=0\eta=0 ゆえ境界項が消える)。
  • 変分法の基本補題(あらゆる重みで積分して 00 なら中身が 00)により、「すべての η\eta で δJ=0\delta J=0」は 一本のオイラー–ラグランジュ方程式 ∂L∂y−ddx∂L∂y′=0\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial L}{\partial y'}=0 に凝縮。
  • 無限次元の最小化が、一本の常微分方程式を解く問題に化ける。最短経路 ⇒\Rightarrow y′=y'= 定数 ⇒\Rightarrow 直線。
  • E–L は必要条件(停留)。最小の保証は別途。

次章は、E–L 方程式が解きやすくなる二つの「近道」——ラグランジアンが xx を含まないとき(エネルギー保存= ベルトラミの公式)と yy を含まないとき(運動量保存)——を整えます。物理の保存則が、ここで顔を出します。