第3章 第一積分と保存則
オイラー–ラグランジュ方程式は一般に二階の微分方程式で、そのままでは解きにくいことが多い。ところが、
ラグランジアン L(x,y,y′) が三つの変数のうちどれかをあらわに含まないとき、方程式は一気に一階へ落ちて
解きやすくなります。この「一階に落ちて得られる保存量」を第一積分といいます。そして——ここが
美しいところですが——それは物理でいう運動量保存やエネルギー保存と同じもの。変分法と保存則は、
最初から一つのものだったのです。
場合1:L が y を含まない → 運動量保存
まず、ラグランジアンに y そのものが現れず、L=L(x,y′) の形のときを考えます。E–L 方程式の第一項
∂y∂L が 0 になるので、方程式は
∂y∂L−dxd∂y′∂L=0 ⟹ dxd∂y′∂L=0 ⟹ ∂y′∂L=定数.
二階の方程式が、いきなり「∂y′∂L が一定」という一階の関係になりました。
定義 共役運動量・保存量(y を含まない場合)
p:=∂y′∂L を共役運動量という。L が y を含まなければ p は x に
よらず一定(保存する)。
前章の最短経路 L=1+y′2 はこの例でした。y を含まないので p=1+y′2y′= 一定、
これから y′= 一定、直線。物理では、L が座標 y を含まない(=その方向にずらしても系が変わらない、
並進対称性)とき、その方向の運動量が保存する——という事実に対応します。「対称性 → 保存則」の最初の顔です
(一般形は第8章のネーターの定理)。
場合2:L が x を含まない → エネルギー保存(ベルトラミ)
次が本命です。ラグランジアンに独立変数 x があらわに現れず、L=L(y,y′) の形のとき。実は多くの幾何・物理の
問題(最速降下線・懸垂線・測地線)がこの型で、決定的に役立ちます。
定理 ベルトラミの公式
L が x をあらわに含まない(L=L(y,y′))とき、オイラー–ラグランジュ方程式の解は
L−y′∂y′∂L=定数
を満たす。これをベルトラミの公式(の第一積分)という。二階の E–L が一階の関係に落ちる。
証明
左辺 H:=L−y′∂y′∂L を x で全微分する:
dxdH=dxdL−y′′∂y′∂L−y′dxd∂y′∂L.
ここで L=L(y,y′)(x を含まない)なので連鎖律で
dxdL=∂y∂Ly′+∂y′∂Ly′′。代入して y′′∂y′∂L が
打ち消し合い、
dxdH=y′(∂y∂L−dxd∂y′∂L)=0.
括弧の中はまさに E–L 方程式で 0。ゆえに H は一定。
∎
証明の心は「H を微分すると、中から E–L 方程式が現れて消える」。だから E–L の解に沿って H は保存する。
この H=L−y′∂y′∂L は、物理ではハミルトニアン(=エネルギー)の符号違い。
L が時間(=ここでの x)を含まない、すなわち系が時間並進について対称なとき、エネルギーが保存する——
という物理の根本法則が、変分法の計算からそのまま出てきます。
なぜ「一階に落ちる」がありがたいのか
二階の常微分方程式を解くのは一般に難しいですが、一階の関係 H(y,y′)=C が得られれば、これは y′ について
解いて
y′=Φ(y,C) ⟹ ∫Φ(y,C)dy=x+C′
と変数分離で積分に持ち込めます。二階を解く代わりに、保存量を使って一階に落とし、あとは積分するだけ。
次章の最速降下線・懸垂線は、まさにこのベルトラミの公式で一階に落として解きます。「保存量を見つけて位数を
下げる」——微分方程式を解く王道の戦略が、変分問題でも主力になるのです。
注意 ミニ確認:どちらの近道が使えるか
ラグランジアンを見たら、まず「x を含むか」「y を含むか」をチェック。
- y を含まない(L=L(x,y′))→ ∂y′∂L= 定数(運動量保存)。
- x を含まない(L=L(y,y′))→ L−y′∂y′∂L= 定数(ベルトラミ/エネルギー保存)。
- 両方含まない(L=L(y′))→ どちらも使え、y′= 定数(直線)。
最速降下線 L=2gy1+y′2 は x を含まない → ベルトラミ。懸垂線 L=y1+y′2 も同様。
注意 つまずきポイント
- 「あらわに含まない」の意味。L=L(y,y′) は x が式に直接現れないという意味。もちろん y=y(x) を通じて
間接的には x に依存する。保存するのは「x で全微分すると 0」という意味での H。
- 符号とハミルトニアン。H=L−y′∂y′∂L は物理のハミルトニアン H=pq˙−L の
符号を反転したもの。分野により符号の流儀が違うので、保存する量の「形」を覚えるのが実用的。
- 第一積分は「解の一部」。H=C は一階の関係で、まだ積分定数 C と C′ の二つ分の自由度を残す
(二階 ODE の一般解は定数二つ)。端点条件でこれらを決める。
この章のまとめ
- ラグランジアンが変数を欠くと、E–L 方程式は一階の**第一積分(保存量)**に落ちる。
- L が y を含まない → 共役運動量 ∂y′∂L= 定数(運動量保存、並進対称性)。
- L が x を含まない → ベルトラミの公式 L−y′∂y′∂L= 定数(エネルギー保存、
時間並進対称性)。証明は「H を微分すると E–L が現れて消える」。
- 一階に落ちれば変数分離で積分でき、二階 ODE を直接解かずに済む。「対称性 → 保存則」の芽(第8章で一般化)。
道具が揃いました。次章は変分法の華、最速降下線(ブラキストクロン)と懸垂線。ベルトラミの公式で一階に落とし、
サイクロイドと双曲線余弦という美しい答えを実際に導きます。