第6章 拘束条件つき変分
現実の最適化には、たいてい条件が付きます。「与えられた長さのひもで囲める最大の面積は?」「体積一定で表面積 最小の容器は?」——最適化と拘束が同居する問題です。微分積分学では、条件つき最小化を ラグランジュ乗数法で解きました。この章では、その発想を関数の世界へ持ち上げます。すると変分法でも 「乗数を一つ足すだけ」で拘束を扱え、有名な等周問題——周が決まれば面積最大の形は円——が解けます。
復習:有限次元のラグランジュ乗数
まず数の世界を思い出します。制約 のもとで を最小化するとき、最適点では (勾配が平行)が成り立つ——これがラグランジュ乗数法でした。等価な言い方は、 補助関数 を作り、それを(乗数 も未知として)無制約に停留化すること。「制約の勾配方向には 動けないので、その方向の の変化は打ち消してよい」という幾何が根っこにあります。同じ幾何を、変分に持ち込みます。
等周問題:拘束つきの汎関数
典型例で組み立てます。等周問題:長さ の閉曲線で囲める面積を最大にせよ。閉曲線を とすると、囲む面積と周長は 「 という条件つきで を最大化」。これは汎関数版の条件つき最適化です。等周拘束 (積分で表される拘束)と呼ばれるこの型を、乗数で処理します。
定理 ラグランジュ乗数(変分版)
拘束 のもとで を停留化する は、ある定数 (乗数)に対して、補助ラグランジアン の無制約オイラー–ラグランジュ方程式 を満たす。 は拘束 一定 を課して決める。
考え方は有限次元と同じ。「拘束を保つ揺らし」だけを許すと扱いにくいので、乗数 を導入して を無制約で停留化する。すると許される揺らしの一次の効果がちょうど打ち消し合い、 拘束つき停留の条件に一致します。「拘束は乗数を一つ足して吸収する」——公式としてはこれだけです。
円が答え:等周問題を解く
等周問題に適用します。面積 を最大化、周長 を拘束。補助汎関数は 。これに 両方の E–L を立てて整理すると(計算は少し込み入りますが)、曲線の曲率が一定であるという条件に帰着します。 平面で曲率が一定の閉曲線は——円だけ。
定理 等周不等式(等周問題の答え)
長さ の平面閉曲線が囲む面積 は を満たし、等号は円のときに限る。すなわち周長を固定したとき面積を最大にする形は円。
シャボン玉が球になるのも同じ原理の三次元版(体積一定で表面積最小=球)。自然が「与えられた材料で最大の 中身」を選ぶとき、答えはいつも最も対称な形になる——その背後に、乗数つき変分の停留条件があります。
二種類の拘束:積分型と各点型
拘束には二つのタイプがあり、乗数の姿が変わります。区別しておきましょう。
- 積分型拘束(等周型): 一定 のように、全体で一つの条件。乗数 は定数一つ。 等周問題・懸垂線(長さ一定)がこれ。
- 各点型拘束(ホロノミック): が各点で成り立つ(例:曲面上に拘束された運動)。この場合、 乗数は各点ごとに違ってよく、関数 になる。曲面上の測地線や束縛された力学系がこれ。
注意 懸垂線の拘束を回収する
第4章の懸垂線は「鎖の長さ 一定のもとで位置エネルギー 最小」 という積分型拘束問題だった。補助ラグランジアン は を にずらしただけで 同じ型。だから を含まずベルトラミが効き、答えが になる。乗数 は原点の高さをずらす役割で、 形(双曲線余弦)そのものは変えない——第4章で拘束を無視できた理由がこれで分かる。
注意 つまずきポイント
- 乗数は「拘束を吸収する」道具。 を無制約で停留化するのが要点。制約つきを制約なしに 変換する、というのが有限次元と共通の発想。
- 積分型と各点型で乗数の次元が違う。積分型は定数 、各点型は関数 。条件が「全体で一つ」か 「各点で一つ」かを見極める。
- 停留であって最大の保証ではない。乗数法が出すのは停留条件。本当に最大(最小)かは第二変分・凸性で 確かめる。等周問題では円が最大だと別途示す必要がある(等周不等式)。
この章のまとめ
- 拘束つき変分は、ラグランジュ乗数を導入して補助ラグランジアン を無制約で停留化すれば解ける (有限次元の乗数法の関数版)。
- 等周問題(周一定で面積最大)→ 曲率一定 → 円。等周不等式 、等号は円。三次元版は球。
- 拘束は積分型(乗数は定数)と各点型(乗数は関数)に分かれる。懸垂線は積分型で、乗数は原点の高さを ずらすだけ。
次章は、これまで固定してきた端点を自由にするとどうなるかを考えます。端が動ける問題では、E–L 方程式に 加えて端点で成り立つべき条件(横断性条件・自然境界条件)が現れます。