数学の作り方 How to make Mathematics

第7章 横断性条件と自由端

これまで、曲線の両端 y(a),y(b)y(a),y(b) はいつも固定していました。だから揺らし η\eta は端点で 00、部分積分の境界項も きれいに消えました。でも「端がどこに来てもよい」問題もあります。棒の一端が自由に動ける、光線の到達点が ある曲線上ならどこでもよい——そんなとき、消えていた境界項が復活し、そこから端点で成り立つべき新しい条件が 生まれます。この章では、境界項こそが端点の情報を語ることを見ます。

境界項を捨てない

第一変分の計算をもう一度、境界項を残したまま書きます。J[y]=abL(x,y,y)dxJ[y]=\int_a^b L(x,y,y')\,dx の第一変分は部分積分で δJ[y;η]=[Lyη]ab境界項+ab(LyddxLy)ηdx.\delta J[y;\eta]=\underbrace{\left[\frac{\partial L}{\partial y'}\,\eta\right]_a^b}_{\text{境界項}}+\int_a^b\left(\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial L}{\partial y'}\right)\eta\,dx. 端点を固定した問題では η(a)=η(b)=0\eta(a)=\eta(b)=0 なので境界項が消え、残る積分から E–L 方程式が出ました。しかし端点が 自由なら、η\eta は端点で 00 とは限らない。すると停留条件「すべての許される η\etaδJ=0\delta J=0」を満たすには、 積分項が 00(= E–L 方程式)に加えて、境界項も 00 でなければなりません。境界項の消え方が、端点の条件を与えます。

自由端:自然境界条件

いちばん単純なのは、端点 x=bx=b での yy の値を自由にする場合(棒の右端がどの高さでもよい)。このとき η(b)\eta(b) は 任意に取れるので、境界項 Lyη\frac{\partial L}{\partial y'}\etax=bx=b00 になるには、Ly\frac{\partial L}{\partial y'} 自身が bb00 でなければなりません。

定義 自然境界条件

端点 x=bx=by(b)y(b) を自由にするとき、極値は E–L 方程式に加えて Lyx=b=0\left.\frac{\partial L}{\partial y'}\right|_{x=b}=0 を満たす。これを自然境界条件という(端点条件を人が課すのでなく、変分から自然に出るため)。

「境界条件を自分で課さなくても、変分が勝手に端点条件を教えてくれる」——ここが面白いところです。たとえば 弾性棒の自由端では Ly=0\frac{\partial L}{\partial y'}=0 が「端に力もモーメントもかからない」という物理条件に対応 します。固定端ならこちらが y(b)y(b) の値を指定する(本質的境界条件)。端点で何を指定し何を自由にするかで、 境界条件のタイプが決まります。

横断性条件:端が曲線の上を動けるとき

もう一段一般に、端点が固定でも完全自由でもなく、ある曲線 y=ψ(x)y=\psi(x) の上を動ける場合を考えます(終端が 壁ではなく斜面のような境界に乗る)。このとき端点の xx 座標 bb も動き、η\eta の端での値も bb の動きに 連動します。第一変分を丁寧に取り直すと、端点で次の条件が現れます。

定理 横断性条件

右端が曲線 y=ψ(x)y=\psi(x) 上を動けるとき、極値は E–L 方程式に加えて端点で [L+(ψy)Ly]x=b=0\Big[L+(\psi'-y')\,\frac{\partial L}{\partial y'}\Big]_{x=b}=0 を満たす。これを横断性条件という。端で解の曲線と境界曲線 ψ\psi がどう交わるべきかを指定する。

名前の通り、解が終端の境界曲線と「どんな角度で交わるか」を決める条件です。たとえば最短経路問題 (L=1+y2L=\sqrt{1+y'^2})でこれを計算すると、1+ψy=01+\psi'y'=0、すなわち yψ=1y'\cdot\psi'=-1——解の曲線は境界曲線と 直交して終わる、という結論が出ます。「岸(境界)へ最短で着くには、岸に垂直に上陸せよ」。直感どおりの 幾何が、横断性条件から導かれます。

まとめ方:どの端点条件が要るか

端点の扱いは、問題設定によって次のように整理できます。停留条件は常に「E–L + 端点条件」の二段構えです。

注意 端点条件の一覧

  • 固定端y(b)y(b) を指定):η(b)=0\eta(b)=0 なので境界項は自動で消える。追加条件は不要(本質的境界条件が値を決める)。
  • 自由端y(b)y(b) 自由):Lyb=0\frac{\partial L}{\partial y'}\big|_b=0(自然境界条件)。
  • 可動端y=ψ(x)y=\psi(x) 上):横断性条件 [L+(ψy)Ly]b=0\big[L+(\psi'-y')\frac{\partial L}{\partial y'}\big]_b=0。最短経路なら直交。 どの場合も、境界項 [Lyη]\big[\frac{\partial L}{\partial y'}\eta\big] を「許される η\eta00」にする、という一つの原理から出る。

注意 つまずきポイント

  • 境界項は捨てるものではなく情報源。固定端では偶然消えるだけ。自由端・可動端では境界項が端点条件を生む。 「消えたから無視」ではなく「なぜ消えるか」を問うと端点の物理が見える。
  • 自然境界条件は課さずに出る。人が指定する本質的境界条件(固定端の値)と、変分から自動で出る自然境界条件を 区別する。端点で「値を指定するか/勾配側が決まるか」が対になっている。
  • 横断性は交わり方の条件。端点の位置そのものではなく、解と境界曲線の交差角を指定する。最短距離なら 必ず直交、という幾何を押さえておくと応用が効く。

この章のまとめ

  • 端点を自由にすると、部分積分の境界項 [Lyη]ab\big[\frac{\partial L}{\partial y'}\eta\big]_a^b が消えず、そこから端点条件が生まれる。
  • 自然境界条件(自由端):Ly=0\frac{\partial L}{\partial y'}=0。境界条件を課さなくても変分が教えてくれる。
  • 横断性条件(可動端が曲線 ψ\psi 上):[L+(ψy)Ly]=0\big[L+(\psi'-y')\frac{\partial L}{\partial y'}\big]=0。最短経路なら 解は境界に直交して終わる。
  • 停留は常に「E–L 方程式 + 端点条件」の二段構え。すべては境界項を許される揺らしで 00 にする原理から出る。

前半(古典的変分法)はこれで一通り揃いました。次章は変分法の物理的な頂点、ハミルトンの原理。力学の法則が 「作用を最小にする」一言から出ること、そしてネーターの定理——対称性が保存則を生む——を見ます。