第7章 横断性条件と自由端
これまで、曲線の両端 はいつも固定していました。だから揺らし は端点で 、部分積分の境界項も きれいに消えました。でも「端がどこに来てもよい」問題もあります。棒の一端が自由に動ける、光線の到達点が ある曲線上ならどこでもよい——そんなとき、消えていた境界項が復活し、そこから端点で成り立つべき新しい条件が 生まれます。この章では、境界項こそが端点の情報を語ることを見ます。
境界項を捨てない
第一変分の計算をもう一度、境界項を残したまま書きます。 の第一変分は部分積分で 端点を固定した問題では なので境界項が消え、残る積分から E–L 方程式が出ました。しかし端点が 自由なら、 は端点で とは限らない。すると停留条件「すべての許される で 」を満たすには、 積分項が (= E–L 方程式)に加えて、境界項も でなければなりません。境界項の消え方が、端点の条件を与えます。
自由端:自然境界条件
いちばん単純なのは、端点 での の値を自由にする場合(棒の右端がどの高さでもよい)。このとき は 任意に取れるので、境界項 が で になるには、 自身が で でなければなりません。
定義 自然境界条件
端点 で を自由にするとき、極値は E–L 方程式に加えて を満たす。これを自然境界条件という(端点条件を人が課すのでなく、変分から自然に出るため)。
「境界条件を自分で課さなくても、変分が勝手に端点条件を教えてくれる」——ここが面白いところです。たとえば 弾性棒の自由端では が「端に力もモーメントもかからない」という物理条件に対応 します。固定端ならこちらが の値を指定する(本質的境界条件)。端点で何を指定し何を自由にするかで、 境界条件のタイプが決まります。
横断性条件:端が曲線の上を動けるとき
もう一段一般に、端点が固定でも完全自由でもなく、ある曲線 の上を動ける場合を考えます(終端が 壁ではなく斜面のような境界に乗る)。このとき端点の 座標 も動き、 の端での値も の動きに 連動します。第一変分を丁寧に取り直すと、端点で次の条件が現れます。
定理 横断性条件
右端が曲線 上を動けるとき、極値は E–L 方程式に加えて端点で を満たす。これを横断性条件という。端で解の曲線と境界曲線 がどう交わるべきかを指定する。
名前の通り、解が終端の境界曲線と「どんな角度で交わるか」を決める条件です。たとえば最短経路問題 ()でこれを計算すると、、すなわち ——解の曲線は境界曲線と 直交して終わる、という結論が出ます。「岸(境界)へ最短で着くには、岸に垂直に上陸せよ」。直感どおりの 幾何が、横断性条件から導かれます。
まとめ方:どの端点条件が要るか
端点の扱いは、問題設定によって次のように整理できます。停留条件は常に「E–L + 端点条件」の二段構えです。
注意 端点条件の一覧
- 固定端( を指定): なので境界項は自動で消える。追加条件は不要(本質的境界条件が値を決める)。
- 自由端( 自由):(自然境界条件)。
- 可動端( 上):横断性条件 。最短経路なら直交。 どの場合も、境界項 を「許される で 」にする、という一つの原理から出る。
注意 つまずきポイント
- 境界項は捨てるものではなく情報源。固定端では偶然消えるだけ。自由端・可動端では境界項が端点条件を生む。 「消えたから無視」ではなく「なぜ消えるか」を問うと端点の物理が見える。
- 自然境界条件は課さずに出る。人が指定する本質的境界条件(固定端の値)と、変分から自動で出る自然境界条件を 区別する。端点で「値を指定するか/勾配側が決まるか」が対になっている。
- 横断性は交わり方の条件。端点の位置そのものではなく、解と境界曲線の交差角を指定する。最短距離なら 必ず直交、という幾何を押さえておくと応用が効く。
この章のまとめ
- 端点を自由にすると、部分積分の境界項 が消えず、そこから端点条件が生まれる。
- 自然境界条件(自由端):。境界条件を課さなくても変分が教えてくれる。
- 横断性条件(可動端が曲線 上):。最短経路なら 解は境界に直交して終わる。
- 停留は常に「E–L 方程式 + 端点条件」の二段構え。すべては境界項を許される揺らしで にする原理から出る。
前半(古典的変分法)はこれで一通り揃いました。次章は変分法の物理的な頂点、ハミルトンの原理。力学の法則が 「作用を最小にする」一言から出ること、そしてネーターの定理——対称性が保存則を生む——を見ます。