数学の作り方 How to make Mathematics

第9章 第二変分と十分条件

これまで求めてきたオイラー–ラグランジュ方程式の解は、あくまで停留形——第一変分が 00 になる形でした。 でも普通の関数で f(x)=0f'(x)=0 が極小・極大・変曲点のどれでもありうるように、δJ=0\delta J=0 も極小とは限りません。 「本当に最小か」を判定するには、二階微分にあたる第二変分を調べる必要があります。この章では、極小の 必要・十分条件——ルジャンドル条件とヤコビ条件——を見ます。微分位相幾何のモース理論の 共役点が、ここで変分法の顔をして現れます。

第二変分:ε\varepsilon の二階微分

一変数の最小判定を思い出します。Φ(ε)=J[y+εη]\Phi(\varepsilon)=J[y+\varepsilon\eta] とおくと、yy が停留形なら Φ(0)=0\Phi'(0)=0 (第一変分)。極小かどうかは Φ(0)\Phi''(0) の符号で決まる——正なら谷(極小)、負なら山(極大)。この Φ(0)\Phi''(0)第二変分といい δ2J[y;η]\delta^2 J[y;\eta] と書きます。計算すると δ2J[y;η]=ab(Pη2+Qη2)dx,P=2Ly2,Q=2Ly2ddx2Lyy.\delta^2 J[y;\eta]=\int_a^b\Big(P\,\eta'^2+Q\,\eta^2\Big)\,dx,\qquad P=\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2},\quad Q=\frac{\partial^2 L}{\partial y^2}-\frac{d}{dx}\frac{\partial^2 L}{\partial y\,\partial y'}.2Lyy\frac{\partial^2 L}{\partial y\partial y'} の項は部分積分で整理した後の形。)極小であるためには、すべての揺らし η\eta (端点で 00)について δ2J0\delta^2 J\ge0 が必要です。問題は、この積分がいつ非負になるか。二つの条件が関わります。

ルジャンドル条件:被積分の符号(必要条件)

まず、η\eta' を非常に激しく振動させる揺らし(細かくギザギザ)を考えます。すると η2\eta'^2 の項が η2\eta^2 の項を 圧倒するので、δ2J\delta^2 J の符号は P=2Ly2P=\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2} の符号で決まります。P<0P<0 の点があれば、 そこに集中した激しい揺らしで δ2J<0\delta^2 J<0 にできてしまう——極小になりえません。

定理 ルジャンドルの必要条件

yy が極小なら、経路上のすべての点で P=2Ly20(強い形:>0).P=\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2}\ge0\quad(\text{強い形:}>0). これをルジャンドル条件という。2Ly2>0\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2}>0(強ルジャンドル条件)は 「ラグランジアンが yy' について凸」を意味する。

これは極小の必要条件であり、しかも局所的(各点で P>0P>0)。物理では P=2Lq˙2=m>0P=\frac{\partial^2\mathcal L}{\partial\dot q^2}=m>0 (質量が正)——だから力学の作用は「速度について凸」で、ルジャンドル条件を自動的に満たします。しかし P>0P>0 だけでは極小の十分条件にならない。もう一つ、大域的な条件が要ります。

ヤコビ条件:共役点で極小が壊れる

P>0P>0 でも、経路が長すぎると極小でなくなることがあります。鍵になるのが共役点です。 第二変分 δ2J=(Pη2+Qη2)\delta^2 J=\int(P\eta'^2+Q\eta^2) 自身を最小化する問題を考えると、そのオイラー–ラグランジュ方程式 ddx(Pη)+Qη=0-\frac{d}{dx}\big(P\,\eta'\big)+Q\,\eta=0 が出ます。これをヤコビ方程式といいます。始点で η=0\eta=0 から出発した解が、始点より先で 再び 00 になる点があれば、そこを共役点と呼びます。

定理 ヤコビの条件

強ルジャンドル条件 P>0P>0 のもとで:

  • 必要:極小なら、開区間 (a,b)(a,b) の内部に始点 aa の共役点が存在してはならない。
  • 十分P>0P>0 かつ [a,b][a,b] に共役点がなければ、yy は(少なくとも局所的な)極小。 共役点を過ぎると、δ2J\delta^2 J を負にする揺らしが作れ、極小が壊れる。

直感はこうです。共役点とは「近くの停留経路がもう一度交わる点」。そこまでは経路が最短(極小)だが、共役点を 越えると「別の近い経路の方が短い」抜け道ができてしまう。球面の測地線(大円)が良い例です。北極から出た 大円は、南極(共役点)まではその2点間の最短経路ですが、南極を過ぎて赤道の向こうまで伸ばすと、もはや最短では ない(逆回りの方が短い)。この「共役点で最短性が切れる」現象を、変分法はヤコビ方程式で正確に捉えます。

注意 モース理論との再会

ヤコビ方程式 (Pη)+Qη=0-(P\eta')'+Q\eta=0 は、微分位相幾何リーマン幾何で 見たヤコビ場の方程式 J+KJ=0J''+KJ=0 と同じもの(P=1,Q=KP=1,Q=K の場合)。共役点の個数が、経路の 「モース指数」(第二変分が負になる方向の数)を数える——これがモース理論の芽。停留経路が極小か鞍点かは、 またいだ共役点の数で決まる。変分法の第二変分と、多様体の大域トポロジーが、共役点で握手する。

三段階のまとめ:極小の判定

停留形が本当に極小かは、次の三段で判定します。第一変分から第二変分へ、局所から大域へと条件が積み上がります。

注意 極小判定の階段

  1. 第一変分 δJ=0\delta J=0(E–L 方程式)——停留形であること。必要。
  2. ルジャンドル条件 P=2Ly2>0P=\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2}>0——各点で yy' について凸。局所的な必要条件。
  3. ヤコビ条件(共役点なし)——大域的。これで(局所)極小の十分条件がそろう。 有限次元の「f=0f'=0(停留)→ f0f''\ge0(凸)」の関数版で、無限次元ゆえに大域条件(共役点)が加わる。

注意 つまずきポイント

  • δJ=0\delta J=0 は極小を意味しない。停留にすぎない。第二変分まで見て初めて極小・極大・鞍点が分かる。 第2章の装置の「たるみベース」は δJ0\delta J\neq0 ですらなかったが、δJ=0\delta J=0 でも極小と限らない点に注意。
  • ルジャンドルとヤコビは役割分担。ルジャンドル(局所・各点)だけでは不十分、ヤコビ(大域・共役点)が 加わって十分条件。長い経路ほど共役点をまたぐ危険がある。
  • これでも「局所」極小。第二変分は近くの揺らししか見ない。離れた別の経路がもっと小さい可能性は残る (大域的最小は次章以降の直接法の話)。

この章のまとめ

  • 第二変分 δ2J=(Pη2+Qη2)dx\delta^2 J=\int(P\eta'^2+Q\eta^2)\,dx の符号で極小・極大・鞍点を判定する(Φ(0)\Phi''(0) の版)。
  • ルジャンドル条件 P=2Ly20P=\frac{\partial^2 L}{\partial y'^2}\ge0(強い形 >0>0):yy' について凸。局所的な必要条件。
  • ヤコビ条件:ヤコビ方程式の解が始点の共役点を作らないこと。P>0P>0 +共役点なしで局所極小の十分条件。 共役点で最短性が切れる(球面の大円は南極まで)。
  • ヤコビ方程式はモース理論・リーマン幾何のヤコビ場と同一物。共役点が経路のモース指数を数える。

局所的な極小判定はできました。しかし「そもそも最小を達成する形が存在するのか」はまだ別問題です。次章から 直接法に入り、無限次元で最小点の存在をどう保証するか——PDE のディリクレ原理で見た戦略を 変分法の一般論として立て直します。