数学の作り方 How to make Mathematics

第10章 陰関数定理と極値問題

y=y=\dots の形に解けない」とき、それでも曲線は描ける

x2+y2=1x^2+y^2=1 は円を表します。でも yy について解こうとすると y=±1x2y=\pm\sqrt{1-x^2}±\pm が出て、一つの関数になりません。もっと複雑な x3+y33xy=0x^3+y^3-3xy=0 に至っては、 yyxx の式で書き下すことすら絶望的です。

それでも私たちは、この方程式が滑らかな曲線を描くと感じています。 「解の公式は書けないが、局所的には y=φ(x)y=\varphi(x) という関数がちゃんと存在する」—— これを保証してくれるのが陰関数定理。多変数微積分でいちばん役に立つ道具の一つです。

方程式 F(x,y)=0F(x,y)=0 を「yy について解けるか」は、実は偏微分 FyF_y00 でないかで決まる。 全部を解かなくても、微分だけで局所的な解の存在が分かる。

陰関数定理

定理 陰関数定理

FFC1C^1 級で F(a,b)=0F(a,b)=0 かつ Fy(a,b)0F_y(a,b)\ne0 とする。このとき x=ax=a の近くで y=φ(x)y=\varphi(x)C1C^1 級, φ(a)=b\varphi(a)=b)がただ一つ定まり F(x,φ(x))=0F(x,\varphi(x))=0。さらに φ(x)=FxFy.\varphi'(x)=-\frac{F_x}{F_y}.

条件 Fy0F_y\ne0 の意味を掴みましょう。曲線 F=0F=0 の各点で、接線が縦向きでない(垂直でない) なら、その点の近くで xx に対して yy が一意に決まる——これは図を描けば当然です。 円の左右端 (±1,0)(\pm1,0) では Fy=2y=0F_y=2y=0 で接線が縦になり、そこだけ y=φ(x)y=\varphi(x) に解けない (±\pm が合流する)。定理はこの直感を正確に述べ、しかも φ\varphi を求めずに導関数まで与えます。 φ=Fx/Fy\varphi'=-F_x/F_yF(x,φ(x))=0F(x,\varphi(x))=0 を連鎖律で微分すれば即座に出ます。

逆関数定理

同じ精神で「写像が局所的に逆を持つか」を判定できます。

定理 逆関数定理

C1C^1 写像 f:RnRn\mathbf f:\mathbb R^n\to\mathbb R^n が点 a\mathbf aヤコビ行列 Df(a)D\mathbf f(\mathbf a) が正則 (行列式 0\ne0)なら、a\mathbf a の近くで f\mathbf fC1C^1 の逆写像をもち、 D(f1)=(Df)1D(\mathbf f^{-1})=(D\mathbf f)^{-1}

一変数の「f(a)0f'(a)\ne0 なら局所的に逆関数がある」の多変数版。f0f'\ne0 が 「ヤコビ行列が正則(線形近似が可逆)」に置き換わっただけです。線形代数の行列式・逆行列が 微積分の存在定理を動かしている好例で、陰関数定理と逆関数定理は実は互いに導ける双子です。

極値問題:多変数の最大最小

一変数では「f=0f'=0 の点を調べ、2階微分で山か谷か判定」でした。多変数でも骨格は同じです。

定義 臨界点

f(a)=0\nabla f(\mathbf a)=\mathbf 0 となる点 a\mathbf a臨界点という。 (極値をとるなら、そこは必ず臨界点。ただし逆は成り立たない。)

臨界点が山(極大)か谷(極小)か、あるいはどちらでもない鞍点かは、2階微分=ヘッセ行列で判定します。

定義 ヘッセ行列と判定

H=(fxxfxyfyxfyy)H=\begin{pmatrix}f_{xx}&f_{xy}\\ f_{yx}&f_{yy}\end{pmatrix}(シュワルツの定理より対称)。臨界点で

  • HH が正定値(固有値がすべて正)\Rightarrow 極小
  • HH が負定値 \Rightarrow 極大
  • 正負の固有値が混在 \Rightarrow 鞍点

ここで前章の伏線が効きます。ヘッセ行列が対称なのはシュワルツの定理のおかげ、 そして「正定値か負定値か」は線形代数の固有値の符号(第20章相当)で判定する。 2変数なら detH>0\det H>0 かつ fxx>0f_{xx}>0 で極小、という便利な形になります。 微積分の極値問題が、線形代数の二次形式の問題に翻訳されるのです。

条件付き極値:ラグランジュ乗数法

g(x,y)=0g(x,y)=0 という制約のもとで ff を最大化せよ」——束縛付きの最適化は現実に頻出します。 制約を代入して消せない場合の、鮮やかな解法があります。

定理 ラグランジュ乗数法

制約 g=0g=0g0\nabla g\ne\mathbf 0)のもとで ffa\mathbf a で極値をとるなら、ある数 λ\lambda があって f(a)=λg(a).\nabla f(\mathbf a)=\lambda\,\nabla g(\mathbf a).

幾何的な意味がすべてです。制約 g=0g=0 は曲線(等高線)。その上を歩いて ff の値を上げていくと、 ff の等高線と制約曲線が接するところで頭打ちになる。接するとき2つの勾配は平行——それが f=λg\nabla f=\lambda\nabla gλ\lambda(乗数)は「制約を少し緩めたら ff がどれだけ改善するか」の 感度も表します。実際には f=λg\nabla f=\lambda\nabla gg=0g=0 を連立して解きます。

ラグランジュで不等式を出す

制約 x+y=sx+y=sx,y>0x,y>0)で f=xyf=xy を最大化すると、f=(y,x)=λ(1,1)\nabla f=(y,x)=\lambda(1,1) より x=y=s/2x=y=s/2、 最大値 s2/4s^2/4。ここから xy(x+y2)2xy\le\left(\frac{x+y}{2}\right)^2、すなわち相加相乗平均の不等式が出ます。

注意 境界を含む最大最小

有界閉領域での最大最小は、(1) 内部の臨界点、(2) 境界上(境界を制約とみてラグランジュ、または媒介変数化)、 の両方を調べて値を比べる。第5章の「有界閉区間の連続関数は最大最小をもつ」の多変数版で、 コンパクト性が存在を保証している。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 臨界点=極値ではない。 鞍点(f=x2y2f=x^2-y^2 の原点)は f=0\nabla f=0 だが極値でない。ヘッセ行列で必ず判定。
  • 陰関数・逆関数定理は局所の主張。大域的に一意な解や逆写像を保証するわけではない。
  • ラグランジュ乗数法は必要条件。得られた候補が最大か最小か(あるいはどちらでもないか)は別途値を比較する。

この章のまとめ

  • 陰関数定理Fy0F_y\ne0 なら F(x,y)=0F(x,y)=0 は局所的に y=φ(x)y=\varphi(x) に解ける。逆関数定理:ヤコビ行列が正則なら局所的に逆をもつ。どちらも「線形近似が可逆」が本質。
  • 極値は臨界点+ヘッセ行列の符号で判定。ヘッセの対称性(シュワルツ)と固有値(線形代数)が土台。
  • 制約付き最適化はラグランジュ乗数法。「ffgg の等高線が接する=勾配が平行」が幾何的な心。

一変数・多変数の微分が揃いました。次章は多変数の積分——重積分へ進みます。