第3章 級数の収束
無限に足す、を安全に扱う
。これは納得できます。 では は? もちろん無限大。 じゃあ は? ——ここで人によって答えが割れます。 とも、 とも見える。
「無限に足す」を素朴にやると、足す順番や括弧の付け方で答えが変わる。 これは前章の「近づく」の曖昧さと同じ病気です。治療法も同じ——極限に帰着させます。
級数 の値とは、有限和(部分和) の極限のこと。 「無限個を一気に足す」のではなく、「有限で足して、極限をとる」と定義し直す。
定義と、いちばん基本の注意
定義 級数の収束
部分和 が値 に収束するとき、級数 は収束し と書く。収束しないとき発散という。
命題 収束の必要条件
が収束すれば 。(対偶: なら発散。)
これは から出ます。ただし逆は成り立たないのが最大の落とし穴。 なのに (調和級数)は発散します (、 …と、 を無限回足せる)。 「項が に行くから収束するはず」は誤り。ここは全員が一度引っかかります。
正項級数:判定法は「知っている級数と比べる」
項がすべて のとき、部分和は単調増加。だから前章の単調有界 収束が使え、 「収束する 部分和が上に有界」になります。あとは基準になる級数と比較するだけ。
定理 比較判定法
のとき、 収束 収束。 発散 発散。
基準として覚えるべきは2つ。等比級数 は で収束、 級数 は で収束・ で発散。これらと比べるのが実戦です。 比較を極限の形にした極限比較判定法( が正の有限値なら同じ挙動)も便利。
定理 ダランベール(比)判定・コーシー(根)判定
または が なら収束、 なら発散、 なら判定不能。
どちらも「実質、等比級数と比べている」。比 の等比級数に化けるからです。 で無力なのは、 級数がすべて になり収束・発散が混在するため。
定理 積分判定法
が正・単調減少で のとき、 と は同時に収束・発散する。
和を「棒グラフの面積」、積分を「曲線の下の面積」とみて挟む発想。 級数の判定はこれで一発 ( が で収束)。
符号が揺れるとき:交項級数と絶対収束
正項級数の話は「単調増加の部分和」に頼っていました。符号が揺れると使えません。 まず、揺れの中でも特別扱いできるのが交項級数です。
定理 ライプニッツの判定法
が単調減少で なら、交項級数 は収束する。
部分和が「行って戻って」を幅を狭めながらくり返し、区間縮小法で一点に挟まる、というのが証明の心。 これで ()は収束します。 は発散したのに、 符号を交互にしただけで収束する——符号の助けを借りた、きわどい収束です。
定義 絶対収束と条件収束
が収束するとき は絶対収束する。 は収束するが は発散するとき条件収束するという。
定理 絶対収束 ⇒ 収束
が収束すれば も収束する。
これは完備性(コーシー列)から出ます。 なので、 のコーシー性が のコーシー性を運んでくれる。 絶対収束は「符号の助けなしで収まる、丈夫な収束」。上の の級数は条件収束(きわどい方)です。
なぜ区別するのか:リーマンの再配列定理
ここで章の冒頭の「順番で答えが変わる」問題が戻ってきます。
定理 リーマンの再配列定理
条件収束する級数は、項の順番を並べ替えることで任意の実数に収束させられる( も、発散も可能)。 一方、絶対収束級数はどう並べ替えても和が変わらない。
条件収束は、正の項だけ・負の項だけを集めるとどちらも に発散する状態。 だから「正を少し足しては目標を超え、負を少し足しては下回り…」と綱引きすれば、狙った値に寄せられる。 足し算の交換法則は、無限では絶対収束のときしか信用できない——これがこの章の一番大事な教訓です。
注意 発展:アーベル・ディリクレの判定法
の形で、 の部分和が有界・ が単調で へ、といった条件で収束を言う判定法。 ライプニッツを一般化したもので、フーリエ級数の収束などで効きます(詳細は別章で)。
この章のまとめ
- 級数は「無限に足す」ではなく部分和の極限。 は必要条件にすぎず、十分ではない(調和級数)。
- 正項級数は単調有界に帰着。判定は結局等比級数・ 級数と比較しているだけ。
- 絶対収束=丈夫な収束、条件収束=符号頼みのきわどい収束。並べ替えて和が保たれるのは絶対収束だけ。
次章は、各項が の関数である特別な級数——べき級数で、関数を無限次多項式として扱います。