数学の作り方 How to make Mathematics

第3章 級数の収束

無限に足す、を安全に扱う

12+14+18+=1\frac12+\frac14+\frac18+\cdots=1。これは納得できます。 では 1+2+3+1+2+3+\cdots は? もちろん無限大。 じゃあ 11+11+1-1+1-1+\cdots は? ——ここで人によって答えが割れます。 (11)+(11)+=0(1-1)+(1-1)+\cdots=0 とも、1(11)(11)=11-(1-1)-(1-1)-\cdots=1 とも見える。

「無限に足す」を素朴にやると、足す順番や括弧の付け方で答えが変わる。 これは前章の「近づく」の曖昧さと同じ病気です。治療法も同じ——極限に帰着させます。

級数 an\sum a_n の値とは、有限和(部分和) SN=n=1NanS_N=\sum_{n=1}^N a_n の極限のこと。 「無限個を一気に足す」のではなく、「有限で足して、極限をとる」と定義し直す。

定義と、いちばん基本の注意

定義 級数の収束

部分和 SN=n=1NanS_N=\sum_{n=1}^{N}a_n が値 SS に収束するとき、級数 an\sum a_n収束n=1an=S\sum_{n=1}^\infty a_n=S と書く。収束しないとき発散という。

命題 収束の必要条件

an\sum a_n が収束すれば an0a_n\to0。(対偶:an↛0a_n\not\to0 なら発散。)

これは an=SnSn1SS=0a_n=S_n-S_{n-1}\to S-S=0 から出ます。ただし逆は成り立たないのが最大の落とし穴。 an=1n0a_n=\frac1n\to0 なのに 1n\sum\frac1n(調和級数)は発散します (13+14>12\frac13+\frac14>\frac1215++18>12\frac15+\cdots+\frac18>\frac12 …と、12\frac12 を無限回足せる)。 「項が 00 に行くから収束するはず」は誤り。ここは全員が一度引っかかります。

正項級数:判定法は「知っている級数と比べる」

項がすべて 0\ge0 のとき、部分和は単調増加。だから前章の単調有界 \Rightarrow 収束が使え、 「収束する     \iff 部分和が上に有界」になります。あとは基準になる級数と比較するだけ。

定理 比較判定法

0anbn0\le a_n\le b_n のとき、bn\sum b_n 収束 an\Rightarrow \sum a_n 収束。 an\sum a_n 発散 bn\Rightarrow \sum b_n 発散。

基準として覚えるべきは2つ。等比級数 rn\sum r^nr<1|r|<1 で収束、 pp 級数 1np\sum \frac1{n^p}p>1p>1 で収束・p1p\le1 で発散。これらと比べるのが実戦です。 比較を極限の形にした極限比較判定法liman/bn\lim a_n/b_n が正の有限値なら同じ挙動)も便利。

定理 ダランベール(比)判定・コーシー(根)判定

L=liman+1an\displaystyle L=\lim\left|\frac{a_{n+1}}{a_n}\right| または L=limann\displaystyle L=\lim\sqrt[n]{|a_n|}L<1L<1 なら収束、L>1L>1 なら発散、L=1L=1 なら判定不能。

どちらも「実質、等比級数と比べている」。比 r=Lr=L の等比級数に化けるからです。 L=1L=1 で無力なのは、pp 級数がすべて L=1L=1 になり収束・発散が混在するため。

定理 積分判定法

ff が正・単調減少で an=f(n)a_n=f(n) のとき、an\sum a_n1fdx\int_1^\infty f\,dx は同時に収束・発散する。

和を「棒グラフの面積」、積分を「曲線の下の面積」とみて挟む発想。pp 級数の判定はこれで一発 (1xpdx\int_1^\infty x^{-p}dxp>1p>1 で収束)。

符号が揺れるとき:交項級数と絶対収束

正項級数の話は「単調増加の部分和」に頼っていました。符号が揺れると使えません。 まず、揺れの中でも特別扱いできるのが交項級数です。

定理 ライプニッツの判定法

bn0b_n\ge0 が単調減少で bn0b_n\to0 なら、交項級数 (1)n1bn\sum(-1)^{n-1}b_n は収束する。

部分和が「行って戻って」を幅を狭めながらくり返し、区間縮小法で一点に挟まる、というのが証明の心。 これで 112+1314+1-\frac12+\frac13-\frac14+\cdots=ln2=\ln2)は収束します。1n\sum\frac1n は発散したのに、 符号を交互にしただけで収束する——符号の助けを借りた、きわどい収束です。

定義 絶対収束と条件収束

an\sum|a_n| が収束するとき an\sum a_n絶対収束する。 an\sum a_n は収束するが an\sum|a_n| は発散するとき条件収束するという。

定理 絶対収束 ⇒ 収束

an\sum|a_n| が収束すれば an\sum a_n も収束する。

これは完備性(コーシー列)から出ます。n=mkann=mkan|\sum_{n=m}^k a_n|\le\sum_{n=m}^k|a_n| なので、 an\sum|a_n| のコーシー性が an\sum a_n のコーシー性を運んでくれる。 絶対収束は「符号の助けなしで収まる、丈夫な収束」。上の ln2\ln2 の級数は条件収束(きわどい方)です。

なぜ区別するのか:リーマンの再配列定理

ここで章の冒頭の「順番で答えが変わる」問題が戻ってきます。

定理 リーマンの再配列定理

条件収束する級数は、項の順番を並べ替えることで任意の実数に収束させられる±\pm\infty も、発散も可能)。 一方、絶対収束級数はどう並べ替えても和が変わらない。

条件収束は、正の項だけ・負の項だけを集めるとどちらも +,+\infty,-\infty に発散する状態。 だから「正を少し足しては目標を超え、負を少し足しては下回り…」と綱引きすれば、狙った値に寄せられる。 足し算の交換法則は、無限では絶対収束のときしか信用できない——これがこの章の一番大事な教訓です。

注意 発展:アーベル・ディリクレの判定法

anbn\sum a_n b_n の形で、an\sum a_n の部分和が有界・bnb_n が単調で 00 へ、といった条件で収束を言う判定法。 ライプニッツを一般化したもので、フーリエ級数の収束などで効きます(詳細は別章で)。

この章のまとめ

  • 級数は「無限に足す」ではなく部分和の極限an0a_n\to0 は必要条件にすぎず、十分ではない(調和級数)。
  • 正項級数は単調有界に帰着。判定は結局等比級数・pp 級数と比較しているだけ。
  • 絶対収束=丈夫な収束、条件収束=符号頼みのきわどい収束。並べ替えて和が保たれるのは絶対収束だけ。

次章は、各項が xx の関数である特別な級数——べき級数で、関数を無限次多項式として扱います。