数学の作り方 How to make Mathematics

第4章 べき級数

多項式は使いやすい。なら無限に伸ばしたい

多項式 a0+a1x+a2x2++anxna_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_nx^n は、数学でいちばん扱いやすい関数です。 微分も積分も足し算のように機械的にできる。値も四則だけで計算できる。

一方で sinx\sin xexe^x は、そのままでは「xx を入れて値を出す」のが大変です。 そこで欲が出ます。これらの関数も、無限に続く多項式で書けないか?

ex=1+x+x22!+x33!+e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots

こういう「無限次の多項式」をべき級数と呼びます。 うまくいけば、難しい関数を「ほぼ多項式」として扱えます。 ただし無限に足す以上、前章の教訓——どこで収束するのか——を最初に押さえる必要があります。

収束するのは「区間」になる

定義 べき級数

n=0cn(xa)n\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} c_n (x-a)^n の形の級数を、aa を中心とするべき級数という。

不思議なことに、べき級数が収束する xx の範囲は、必ず中心 aa のまわりの対称な区間になります。 バラバラの点で収束、とはならない。その半径を収束半径と呼びます。

定理 収束半径の存在

各べき級数には 0R0\le R\le\infty が定まり、xa<R|x-a|<R で(絶対)収束、xa>R|x-a|>R で発散する。 この RR収束半径という。

なぜ区間になるのか。カギは「ある一点 x0x_0 で収束すれば、より内側 xa<x0a|x-a|<|x_0-a| では 絶対収束する」こと。収束するなら cn(x0a)n0c_n(x_0-a)^n\to0 で有界、そこから内側は等比級数 Mrn\sum M\,r^n(r<1r<1)で上から押さえられるからです。前章の比較判定がここで効きます。

定理 コーシー–アダマールの公式

1R=lim supncnn.\frac{1}{R} = \limsup_{n\to\infty} \sqrt[n]{|c_n|}.

これは前章の根判定法をべき級数に適用しただけ。cn(xa)nn=xacnn\sqrt[n]{|c_n(x-a)^n|}=|x-a|\sqrt[n]{|c_n|}11 未満なら収束、という条件を xa|x-a| について解くと上の式になります。 比の形 R=limcn/cn+1R=\lim|c_n/c_{n+1}| が使えることも多い(exe^x なら cn=1/n!c_n=1/n!R=R=\infty、全実数で収束)。

注意 端点は別途調べる

xa=R|x-a|=R ちょうど(区間の端)は、収束することも発散することもあり、個別判定が必要。 例:xn/n\sum x^n/nR=1R=1 で、x=1x=-1 は収束(交項)、x=1x=1 は発散(調和級数)。

ご褒美:中では多項式のように微分・積分できる

べき級数の一番おいしい性質がこれです。

定理 項別微分・項別積分

収束半径 RR のべき級数 f(x)=cn(xa)nf(x)=\sum c_n(x-a)^n は、xa<R|x-a|<R の内部で何回でも微分でき、 微分・積分は項ごとに行ってよい:

f(x)=n=1ncn(xa)n1,f=C+n=0cnn+1(xa)n+1.f'(x)=\sum_{n=1}^\infty n\,c_n(x-a)^{n-1},\qquad \int f = C+\sum_{n=0}^\infty \frac{c_n}{n+1}(x-a)^{n+1}.

しかも項別微分・積分をしても収束半径 RR は変わらない

普通、「無限和の微分」は各項を微分して足したものと一致する保証がありません (これは第8章の一様収束が要る、繊細な問題です)。ところがべき級数は、 収束半径の内側では自動的に一様収束が効くので、多項式と全く同じ気軽さで微積分できる。 これがべき級数を特別扱いする最大の理由です。

項別操作の威力

11x=n=0xn (x<1)\dfrac{1}{1-x}=\sum_{n=0}^\infty x^n\ (|x|<1) を項別積分すると

ln(1x)=n=0xn+1n+1=x+x22+x33+.-\ln(1-x)=\sum_{n=0}^\infty \frac{x^{n+1}}{n+1}=x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}+\cdots.

同様に 11+x2=(1)nx2n\dfrac{1}{1+x^2}=\sum(-1)^n x^{2n} を積分して arctanx=xx33+x55\arctan x = x-\dfrac{x^3}{3}+\dfrac{x^5}{5}-\cdots。 既知の級数を微積分するだけで、新しい関数の展開が量産できます。

端で何が起きるか:アーベルの連続性定理

収束半径の内側では話が綺麗でした。では、端点 x=Rx=R で級数が収束するとき、 そこでの値は内側からの極限とつながっているのか?——これを保証するのがアーベルです。

定理 アーベルの連続性定理

cnRn\sum c_n R^n が収束するなら、f(x)=cnxnf(x)=\sum c_n x^n は端点まで込めて連続、すなわち limxRf(x)=n=0cnRn\displaystyle\lim_{x\to R^-} f(x)=\sum_{n=0}^\infty c_n R^n

これは「端点での値を、内側の連続関数の極限として正当に受け取ってよい」というお墨付き。

ライプニッツ級数の和を確定する

arctanx=xx33+x55\arctan x=x-\frac{x^3}{3}+\frac{x^5}{5}-\cdotsx=1x=1 でも(交項級数として)収束する。 アーベルの定理より

π4=arctan1=limx1arctanx=113+1517+.\frac{\pi}{4}=\arctan 1=\lim_{x\to1^-}\arctan x = 1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots.

内側でしか保証のなかった等式を、端点まで延長して有名な公式が得られました。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 「収束半径内なら端も収束」ではない。 端点は毎回個別に調べる。
  • 「テイラー級数が収束すれば元の関数に戻る」とは限らない。 f(x)=e1/x2f(x)=e^{-1/x^2}f(0)=0f(0)=0)は 00 で全微分係数が 00、テイラー級数は恒等的に 00 なのに ff00 でない。 「無限回微分できる」と「べき級数で表せる(解析的)」は別物。この溝は複素解析で綺麗に解消します。

この章のまとめ

  • べき級数は「無限次の多項式」。収束する範囲は中心のまわりの区間で、半径 RR は根判定=コーシー–アダマールで決まる。
  • 収束半径の内側では多項式と同じ気軽さで項別微分・積分ができる(半径も不変)。これが最大の御利益。
  • 端点は個別判定。端での連続はアーベルの定理が保証し、有名な級数和の確定に使える。

ここまでで「無限を足す」道具が揃いました。次章からは関数そのものの性質—— 連続関数と微分に戻り、平均値定理という主役を導入します。