数学の作り方 How to make Mathematics

第5章 連続関数と平均値定理

「つながっている」だけで、こんなに言える

第1章で連続を「入力の小さな変化 → 出力の小さな変化」と定義しました。 一見あたりまえのこの性質から、驚くほど強い結論が出ます。

たとえば——気温は連続に変化します。朝 55{}^\circC、昼 2020{}^\circC だったなら、 その間にちょうど 1313{}^\circC だった瞬間が必ずある。飛び越えることはできない。 これを数学にしたのが中間値の定理です。「つながっている」を認めるだけで、 「途中の値を必ず取る」「有界閉区間なら最大最小がある」といった存在が保証されます。

この章のテーマは存在定理。値を計算せずに「必ずある」と言える。 その燃料は、第2章で仕込んだ実数の連続性です。

中間値の定理

定理 中間値の定理

ff が閉区間 [a,b][a,b] で連続で f(a)f(b)f(a)\ne f(b) のとき、f(a)f(a)f(b)f(b) の間の任意の値 γ\gamma に対し、 f(c)=γf(c)=\gamma となる c(a,b)c\in(a,b) が存在する。

証明の心は区間縮小法(第2章)。γ\gamma より下にある区間半分を選び続けると、 「下と上の境目」の一点に挟まる。連続性より、その点の値がちょうど γ\gamma になる。 応用として、奇数次の実係数多項式は必ず実根をもつ(±\pm\infty で符号が逆だから途中で 00 を通る)。

最大値・最小値の定理

定理 最大値・最小値の定理(ワイエルシュトラス)

ff有界閉区間 [a,b][a,b] で連続なら、ff は最大値と最小値をとる。

「有界閉区間」という条件が命です。開区間 (0,1)(0,1)f(x)=xf(x)=x は上限 11 に達しないし、 f(x)=1/xf(x)=1/x は上に非有界。端を含む・区間が有限でないと最大最小は保証されません。 証明は「値域が上に有界であること」+ボルツァーノ–ワイエルシュトラスで到達点をつかまえる。

一様連続とハイネの定理

連続は「各点ごとに δ\delta をとる」定義でした。点によって必要な δ\delta が変わってよい。 ところが「区間全体で共通の δ\delta」がとれると、話がぐっと強くなります。

定義 一様連続

ε>0, δ>0, x,y, xy<δ    f(x)f(y)<ε\forall\varepsilon>0,\ \exists\delta>0,\ \forall x,y,\ |x-y|<\delta\implies|f(x)-f(y)|<\varepsilon を満たすとき、ff一様連続という。

普通の連続との違いは δ\delta の置き場所。連続は「点 xx を決めてから δ\delta」、 一様連続は「先に δ\delta を決めれば全点で通用」。f(x)=1/xf(x)=1/x(0,1)(0,1) で連続だが一様連続でない (00 に近いほど急で、共通の δ\delta がとれない)。ところが——

定理 ハイネの定理

有界閉区間で連続な関数は、そこで一様連続である。

「有界閉区間ではコンパクト性が効いて、各点の δ\delta たちの中から共通の一つがとれる」。 この定理は第7章でリーマン積分の存在を示すときに、静かに、しかし決定的に効きます。

微分の主役:平均値定理

ここから微分。まず特別な場合から。

定理 ロルの定理

ff[a,b][a,b] で連続・(a,b)(a,b) で微分可能・f(a)=f(b)f(a)=f(b) なら、f(c)=0f'(c)=0 となる c(a,b)c\in(a,b) が存在する。

「両端が同じ高さなら、途中に山か谷(傾き 00)がある」。最大最小の定理で内部に極値点があり、 そこでは微分が 00——という筋です。これを傾ければ一般の平均値定理になります。

定理 平均値の定理

ff[a,b][a,b] で連続・(a,b)(a,b) で微分可能なら、

f(b)f(a)ba=f(c)(c(a,b)).\frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)\quad(\exists c\in(a,b)).

左辺は「平均の傾き(両端を結ぶ直線)」、右辺は「どこかの瞬間の傾き」。 平均の速さは、途中のどこかで実際の速さと一致する。旅行で平均時速 6060km なら、 どこかで瞬間時速もちょうど 6060km だった、というあれです。

平均値定理は「ff' の情報から ff の情報を引き出す」変換器です。ここから 「f>0f'>0 なら増加」「f=0f'=0 なら定数」といった、微分の直感的な事実がすべて証明されます。 高校で天下り的に使っていた事実の根拠が、ここにあります。

定理 コーシーの平均値定理

f,gf,g が上の条件を満たし g0g'\ne0 のとき、f(b)f(a)g(b)g(a)=f(c)g(c)\dfrac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\dfrac{f'(c)}{g'(c)} となる cc がある。

g(x)=xg(x)=x とすれば普通の平均値定理。2つの関数の変化を「比」で結ぶこの形が、次のロピタルを生みます。

ロピタルの定理

定理 ロピタルの定理

xax\to a00\frac00 または \frac{\infty}{\infty} の不定形になるとき、適当な条件下で limxaf(x)g(x)=limxaf(x)g(x).\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)}.

00\frac00 の場合、f(a)=g(a)=0f(a)=g(a)=0 とみてコーシーの平均値定理を使うと f(x)g(x)=f(c)g(c)\frac{f(x)}{g(x)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}ccaaxx の間)となり、xax\to a で右辺が極限に寄る。 **「比の極限を、微分係数の比に置き換える」**というカラクリで、コーシー平均値定理の直接の応用です。

注意 つまずきポイント

  • ロピタルは不定形にしか使えない23\frac{2}{3} のような確定値に適用すると誤答する。
  • 平均値定理の cc存在するだけで、具体的な位置は分からない。「存在」を使う定理だと割り切る。
  • 中間値・最大最小は連続だけで成り立つ。微分可能性は不要。条件を混同しない。

この章のまとめ

  • 連続だけから中間値・最大最小という存在定理が出る。燃料は実数の連続性、条件は「有界閉区間」。
  • 一様連続δ\delta を全区間で共通にとれる強い連続。有界閉区間の連続なら自動(ハイネ)。
  • 平均値定理は「ff' から ff を読む」変換器。増減・ロピタルなど微分の常識はすべてここから証明される。

次章は、平均値定理を高次に一般化したテイラー展開——関数を多項式で近似します。