第8章 一様収束
「順番を入れ替えてよいか」という、静かな落とし穴
これまで何度も、極限・微分・積分・無限和を扱ってきました。 そして実は、あちこちで極限操作を無意識に入れ替えていました。 「無限和を項ごとに微分する」「極限をとってから積分する」——本当にやっていいのか?
こんな例があります。 を で考える。各点では に収束します。 ところが、各 は連続なのに、極限 は で不連続。 「連続関数の極限は連続」と思いたいのに、崩れてしまった。
原因は収束の「質」です。各点ごとにはちゃんと近づくのに、近づく速さが場所によってバラバラで、 の近くだけいつまでも追いつけない。この差を捉えるのが一様収束です。
各点収束は弱すぎて、連続・微分・積分と相性が悪い。 一様収束なら、これらの操作を安心して入れ替えられる。
各点収束と一様収束
定義 各点収束と一様収束
が各点収束:。
が一様収束:。
違いは の依存先ただ一点。各点収束は が点 ごとに変わってよい。 一様収束は が によらず全点共通。第5章の「連続 vs 一様連続」とまったく同じ構図です ( が点ごとか共通か、が今度は に置き換わっただけ)。
命題 上限ノルムによる特徴づけ
「各点での差」ではなく「差の最大値(上限ノルム)」が に行くこと。 グラフ全体を幅 の帯に閉じ込められる、というイメージです。 の例では のまま( 手前で に迫る)で、 に行かない。だから一様でない。
なぜ一様収束が「効く」のか
定理 連続性の保存
連続関数の列 が に一様収束すれば、 も連続。
証明は有名な「 論法」。 を と3つに割り、 一様収束で両端を ( を全点共通にとれるのがミソ)、真ん中を の連続性で 。 一様だからこそ、 と で同じ が使える——ここが各点収束では真似できない一点です。
定理 項別積分の正当化
が で一様収束し各 が可積分なら、 も可積分で (級数なら 、項別積分が許される。)
これは と、上限ノルムで一撃です。
定理 項別微分の条件
(各点でよい)かつ が一様収束するなら、 は微分可能で 。
微分は繊細で、 自身の一様収束では足りず、導関数 の一様収束が要る。 「近い関数どうしでも、傾きは全然違いうる」(細かく振動する波を思えばよい)ためです。 だからこそ、第4章のべき級数が「収束半径内で自由に項別微分できる」のは特筆すべき御利益でした。
実務の判定法
級数 が一様収束するかを、いちいち上限ノルムで調べるのは大変。 そこで「各項を定数で上から押さえる」だけで済む便利な十分条件があります。
定理 ワイエルシュトラスの M 判定法
( によらない定数)で なら、 は一様(かつ絶対)収束する。
数の級数 の収束(第3章の道具で判定できる)が、関数級数の一様収束を保証してくれる。 たとえば は 、 なので一様収束—— だから連続で、項別積分もできる。難しい一様収束を、易しい数列の収束に丸投げできるのが強みです。
定理 ディニの定理
有界閉区間上で、連続関数列 が連続な に単調に各点収束すれば、収束は自動的に一様。
普通は各点収束から一様収束は出ません。でも「単調+極限も連続+コンパクト」の3条件が揃うと、 落ちこぼれの点が生じ得ず、各点収束が一様に格上げされる。コンパクト性が効く典型例です。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 「各点収束すれば 」は誤り。 型の「動くこぶ」は各点で に 収束するのに積分値は に行かない。極限と積分の交換には一様収束(や後の優収束定理)が要る。
- M 判定法は十分条件にすぎない。 これで引っかからなくても一様収束することはある(アーベル・ディリクレ判定など)。
- 一様収束は定義域に依存する。 は ()では一様収束、 では一様でない。
この章のまとめ
- 各点収束は が点ごと、一様収束は が全点共通。差は上限ノルム で測る。
- 一様収束があれば連続性の保存・項別積分が保証される。項別微分だけは導関数側の一様収束が要る。
- 実務ではM 判定法(数列の収束に帰着)と、コンパクト+単調で効くディニの定理が主力。
一変数と収束の道具が完成しました。次章から舞台を多変数へ移し、 偏微分・全微分で「多変数の傾き」を定義し直します。