数学の作り方 How to make Mathematics

第2章 曲率と捩率・フルネ–セレの公式

曲率=向きの変わる速さ

前章で、弧長パラメータ ss(速さ 1\equiv1)で走ると、速度 γ(s)\gamma'(s) が純粋な「向き」を表す単位ベクトルになる、と 見ました。この単位接ベクトルを T(s)=γ(s)T(s)=\gamma'(s) と書きます。曲線が「急に曲がる」とは、進むにつれて TT向きが すばやく変わること。まっすぐな道では TT は一定、きついカーブでは TT がくるくる回る。だから曲がり具合は TT の変化率 T(s)=γ(s)T'(s)=\gamma''(s) の大きさで測れます。

定義 曲率

弧長パラメータ表示 γ(s)\gamma(s)曲率

κ(s)=T(s)=γ(s)\kappa(s)=|T'(s)|=|\gamma''(s)|

で定める。単位接ベクトル T=γT=\gamma' の回転する速さ。κ=0\kappa=0 は「まっすぐ」を意味する。

なぜ γ\gamma'' が曲がりを表し、加速の“強さ”ではないのか。速さが 11 に固定されているから、γ\gamma'' には 「速くなる/遅くなる」成分が入り込めず、純粋に向きを変える成分だけが残るのです。実際 T2=1|T|^2=1 を微分すると TT=0T\cdot T'=0、つまり TT'TT と直交——加速は必ず「横向き(曲がる向き)」になります。

曲率 κ=γ\kappa=|\gamma''| は単位接ベクトルの回転速度。速さを 11 に固定したから、加速度はまるごと「曲がり」を表す。

接触円で曲率を体感する

曲率にはもう一つ、直感的な意味があります。曲線の各点に「最もよくフィットする円」を当てると、その円の半径 RRR=1/κR=1/\kappa。急カーブ(κ\kappa 大)ほど円は小さく、ゆるいカーブ(κ\kappa 小)ほど円は大きく、まっすぐ(κ=0\kappa=0) なら半径は無限大=直線になります。この円を接触円(曲率円)、R=1/κR=1/\kappa曲率半径と いいます。下で動かしてみましょう。

PP を動かすと、接触円と、進む向き TT・曲がる向き NN(次に定義)が追従します。楕円なら尖った両端で円が最小 (曲率最大)、サインカーブなら変曲点で円が消える(κ=0\kappa=0)。「曲率=接触円の半径の逆数」という感覚をここで 掴んでおくと、以降の式がぜんぶ絵として読めます。

フルネ標構——曲線に張りつく座標系

曲がりを完全に記述するには、曲線の各点に動く座標系を立てるのが強力です。進む向き TT、曲がる向き NN、 そして(空間曲線では)それらに直交する BB。この三本組を曲線に沿って持ち運びます。

定義 フルネ標構(TNB)

κ>0\kappa>0 の空間曲線に対し、

T=γ,N=TT=Tκ,B=T×NT=\gamma',\qquad N=\frac{T'}{|T'|}=\frac{T'}{\kappa},\qquad B=T\times N

単位接ベクトル主法線従法線といい、正規直交な三本組 {T,N,B}\{T,N,B\}フルネ標構という。NN の張る向きは「曲がっていく側」、BB は曲線が乗る平面(T,NT,N の張る接触平面)の法線。

TT=0T\cdot T'=0 より NTN\perp TB=T×NB=T\times N は両者に直交。だから {T,N,B}\{T,N,B\} は各点で R3\mathbb R^3 の 正規直交基底になります。曲線に貼りついて一緒に動く「機上の座標系」だと思ってください。パイロットにとっての 機首(TT)・翼(NN)・天井(BB)。

捩率——平面からの浮き上がり

平面曲線なら T,NT,N だけで足ります。空間曲線で新しく現れるのが、接触平面からどれだけ捻れて浮き上がるかBB が回転する速さがそれを測ります。BB の変化を調べると、BB'NN 方向を向くことが分かり、その大きさを捩率と 呼びます。

定義 捩率

B(s)=τ(s)N(s)B'(s)=-\tau(s)\,N(s) で定まる τ\tau捩率という。τ\tau は曲線が接触平面から捻れて立体的に ねじれる度合い。τ0\tau\equiv0 は「曲線が一枚の平面に乗っている」ことと同値。

BNB'\parallel N となるのは:BB=1B\cdot B=1 より BBB'\perp B、かつ B=T×NB=T\times N を微分して TT 成分が消えるから (下の証明で確認)。曲率 κ\kappa が「面内でどれだけ曲がるか」、捩率 τ\tau が「面からどれだけ捻れるか」——この二つで 空間曲線の形は言い尽くせます(次章の基本定理)。

フルネ–セレの公式

三本組 T,N,BT,N,B の変化率を、T,N,BT,N,B 自身で表す。これがフルネ–セレの公式です。

定理 フルネ–セレの公式

弧長パラメータのもとで

T=κN,N=κT+κN+τB,B=κTτN.\begin{aligned} T' &= \phantom{-}\kappa N,\\ N' &= -\kappa T \phantom{{}+\kappa N} + \tau B,\\ B' &= \phantom{-\kappa T} -\tau N. \end{aligned}

行列で書けば dds(TNB)=(0κ0κ0τ0τ0)(TNB)\dfrac{d}{ds}\begin{pmatrix}T\\N\\B\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&\kappa&0\\-\kappa&0&\tau\\0&-\tau&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}T\\N\\B\end{pmatrix}。係数行列が反対称なのがポイント。

証明

T=κNT'=\kappa NNN の定義そのもの。B=τNB'=-\tau N は捩率の定義。残りは N=B×TN=B\times T を微分して N=B×T+B×T=(τN)×T+B×(κN)=τ(N×T)+κ(B×N)N'=B'\times T+B\times T'=(-\tau N)\times T+B\times(\kappa N)=-\tau(N\times T)+\kappa(B\times N)。 正規直交右手系の外積関係 N×T=B, B×N=TN\times T=-B,\ B\times N=-T を使うと N=τBκTN'=\tau B-\kappa T。∎ (BB'NN 方向のみになる根拠:BBB'\perp B かつ BT=0B\cdot T=0 を微分し BT=BT=κBN=0B'\cdot T=-B\cdot T'=-\kappa\,B\cdot N=0 ゆえ BTB'\perp T。よって BNB'\parallel N。)

係数行列が反対称なのは偶然ではありません。{T,N,B}\{T,N,B\} が正規直交であり続ける(長さ 11・互いに直交を保つ) ことが、変化率の行列を反対称にします——「正規直交系の回転は反対称行列で生成される」という、線形代数の 回転(歪対称行列)と同じ構造。フルネ標構は κ,τ\kappa,\tau に導かれて回転する剛体なのです。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 曲率 κ\kappa は「加速の強さ」ではなく「向きの変化率」。 弧長パラメータ(速さ 11)だからこそ γ\gamma'' が 純粋な曲がりになる。一般パラメータの γ|\gamma''| を曲率と勘違いしない。
  • NNκ>0\kappa>0 でしか定義されない。 直線(κ=0\kappa=0)では T=0T'=0 で「曲がる向き」が定まらず、N,BN,B が 決まらない。フルネ標構は κ>0\kappa>0 が前提。
  • κ0\kappa\ge0(大きさ)、τ\tau は符号つき。 空間曲線の曲率は絶対値。捩率は右ねじ/左ねじの向きを持つので 符号あり。平面曲線では「符号つき曲率」を使う流儀もある(次章)。
  • τ=0    \tau=0\iff 平面曲線。 捩率ゼロは「接触平面が動かない=一枚の平面に乗る」。捩率は立体性の指標。

この章のまとめ

  • 曲率 κ=γ\kappa=|\gamma''| は単位接ベクトル TT の回転速度。接触円の半径 R=1/κR=1/\kappa で可視化できる(急カーブほど小さい円)。
  • 曲線に張りつく正規直交なフルネ標構 {T,N,B}\{T,N,B\}(進む・曲がる・捻れの法線)を立てる。
  • 捩率 τ\tau は接触平面からの捻れ(τ=0\tau=0 が平面曲線)。
  • フルネ–セレの公式 T=κN, N=κT+τB, B=τNT'=\kappa N,\ N'=-\kappa T+\tau B,\ B'=-\tau N:標構の回転を κ,τ\kappa,\tau が支配し、係数行列は反対称(剛体回転の構造)。
  • 次章では、この κ,τ\kappa,\tau が曲線を(位置・向きの違いを除いて)完全に決めてしまうこと(曲線論の基本定理)と、平面曲線の大域的な性質を見ます。

次章では、曲率と捩率が曲線を一意に定める「曲線論の基本定理」と、平面曲線の回転数・全曲率という大域量を扱います。