第4章 曲面と第一基本形式
曲線から曲面へ:パラメータが2つになる
曲線は 1 本のパラメータ t で動く点でした。曲面は**2 本のパラメータ** (u,v) で動く点——地図の緯度・経度の
ように、二つの数で面上の位置を指定します。地球儀に緯線・経線を引くのと同じ発想です。
定義 正則曲面(パラメータ表示)
開集合 D⊆R2 から R3 への C∞ 写像 x(u,v) が、各点で
偏微分 xu=∂x/∂u と xv=∂x/∂v が一次独立(xu×xv=0)
であるとき、その像を正則曲面片という。x を局所座標(パラメータ表示)という。
xu,xv は「u を動かす向き」「v を動かす向き」の速度ベクトル。これらが一次独立であることが、
面がその点で 2 次元的に広がっている(つぶれていない)条件です。曲線の「正則性 γ′=0」の曲面版。
例 はじめの曲面
- 平面 x(u,v)=p+ua+vb(a,b 一次独立)。
- 球面 x(u,v)=(cosucosv, cosusinv, sinu)(u が緯度、v が経度)。
- グラフ曲面 x(u,v)=(u,v,f(u,v)):関数 f のグラフ。xu=(1,0,fu),xv=(0,1,fv) は常に一次独立。
接平面:曲面を「その点で平らに近似する」
曲線に接線があったように、曲面には接平面があります。xu,xv が張る平面が、その点で曲面に
ぴったり寄り添う 2 次元の平面です。
定義 接平面・法線
点 p=x(u0,v0) での接平面 TpS は xu,xv の張る 2 次元部分空間。これに直交する
単位ベクトル
n=∣xu×xv∣xu×xvを単位法線ベクトルという。
接平面上のベクトル(接ベクトル)は、すべて axu+bxv の形。面の上を動く曲線の速度は必ず接平面に
乗ります。だから「面の上の幾何」は、この接平面上のベクトルの長さや角度をどう測るかで決まる——それが次の
第一基本形式です。
第一基本形式:面の上の物差し
面の上に住むアリになったつもりで考えましょう。アリは 3 次元空間を見ず、面の上の距離しか測れない。
パラメータ (u,v) が少し (du,dv) 動いたとき、面上で実際に進む距離はいくらか。接ベクトル
dx=xudu+xvdv の長さの 2 乗を計算すると、
∣dx∣2=(xudu+xvdv)⋅(xudu+xvdv)=Edu2+2Fdudv+Gdv2.
この E,F,G が、面の上のすべての測定(長さ・角度・面積)を司ります。
定義 第一基本形式
E=xu⋅xu,F=xu⋅xv,G=xv⋅xvを第一基本量、I=Edu2+2Fdudv+Gdv2 を第一基本形式(計量)という。
これは接平面上の内積 ⟨a,b⟩=a⋅b を (u,v) 座標で表した係数(対称行列
(EFFG))にほかならない。
第一基本形式さえ分かれば、面の上の幾何がすべて計算できます。
定理 第一基本形式で測れるもの
- 曲線の長さ:面上の曲線 (u(t),v(t)) の長さは ∫Eu′2+2Fu′v′+Gv′2dt。
- 交わる角度:二つの接ベクトルのなす角は cosθ=∣a∣∣b∣⟨a,b⟩ を E,F,G で表して計算。
- 面積:∬D∣xu×xv∣dudv=∬DEG−F2dudv。
証明
面積の式だけ確認する。ラグランジュの恒等式 ∣xu×xv∣2=∣xu∣2∣xv∣2−(xu⋅xv)2=EG−F2。よって面積要素は EG−F2dudv。長さ・角は内積 ⟨⋅,⋅⟩ の定義から直ちに。∎
∎
例 球面の計量
半径 1 の球面 x=(cosucosv,cosusinv,sinu) で計算すると E=1, F=0, G=cos2u。
第一基本形式は I=du2+cos2udv2。緯度 u が高い(極に近い)ほど cos2u が小さく、経度方向の
実距離が縮む——地図で極付近が引き伸ばされる理由がこの計量に表れている。
内在的量という考え方——ここが微分幾何の分水嶺
第一基本形式は「面の上のアリが測れる量」だけで決まっています。3 次元空間にどう埋まっているかを見なくても、
面の上の距離を測るだけで E,F,G が分かる。こういう量を内在的(intrinsic)といいます。逆に、面が
空間の中でどう曲がって埋まっているかに依存する量を外在的(extrinsic)といいます。
注意 内在的 vs 外在的——第7章への伏線
第一基本形式 E,F,G は内在的。一方、次章の第二基本形式(法線方向への曲がり)は、面が空間でどう反るかを
見るので外在的に見える。ところが第7章で衝撃の事実が待つ——曲がり具合の本質(ガウス曲率)は、外在的に
定義したのに実は内在的に決まる(ガウスの驚異の定理)。「アリは自分の世界の距離を測るだけで、宇宙から見た
曲がりを知る」。この対比を今から意識しておくと、驚異の定理の衝撃が倍になる。
平面を筒(円柱)に丸めても、紙の上の距離は変わりません(破らず曲げただけ)。だから平面と円柱は第一基本形式が
同じ=内在的には同一。でも空間での見た目(外在的な曲がり)は違う。第一基本形式は「破らずに曲げても変わらない
情報」を捉えているのです。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 第一基本形式は「計量=内積の座標表示」。 新しい謎の量ではなく、接平面の内積を (u,v) 座標で書いた
(EFFG)。長さ・角度・面積の全部の源。
- E,F,G はパラメータの取り方に依存する。 座標を変えれば E,F,G は変わる。でも「長さ」など測定結果は不変。
座標依存の係数と、座標によらない幾何を区別する。
- EG−F2>0 が正則性。 これは xu×xv=0 と同値(面がつぶれていない)。面積要素 EG−F2 が
正であることを保証。
- 内在的と外在的を混同しない。 第一基本形式は内在的(面上で測れる)。空間への埋め込み方に依らない情報だけを
持つ。次章の第二基本形式は逆。
この章のまとめ
- 曲面は 2 パラメータ x(u,v) で表し、xu,xv が一次独立(正則)で接平面を張る。法線は n=xu×xv/∣⋯∣。
- 第一基本形式 I=Edu2+2Fdudv+Gdv2(E,F,G=xu⋅xu, xu⋅xv, xv⋅xv)は接平面の内積の座標表示。これだけで面上の長さ・角度・面積が測れる。
- 第一基本形式は内在的(面上で測れる、破らず曲げても不変)。空間での埋まり方を見る外在的な量との対比が、驚異の定理(第7章)の伏線。
- 次章では、面が空間の中でどう反り返るかを測る第二基本形式(法線方向への曲がり)を導入し、法曲率を定義します。
次章では、単位法線の動き(ガウス写像)を通して、面の外在的な曲がり——第二基本形式と法曲率——を捉えます。