第5章 ガウス写像と第二基本形式
曲面の「曲がり」はどこに現れるか
前章の第一基本形式は、面の上の距離を測る物差しでした。でもそれは「面を平らに広げたときの測り方」で、 面が空間の中でどう反り返っているか——ボールのように膨らむのか、鞍のように反るのか——は捉えていません。 平面も円柱も第一基本形式は同じでしたね。曲面の「外から見た曲がり」を測る新しい道具が要ります。
鍵は法線ベクトル の動きです。平らな面なら、どこでも法線は同じ向きを指す。曲がった面なら、 場所ごとに法線の向きが変わる。だから「動くにつれて法線がどれだけ向きを変えるか」が曲がりを教えてくれます。 これは第2章で曲線の曲率を「接ベクトル の回転速度」で測ったのと完全に同じ発想です。
面の曲がり=進むにつれて法線 の向きがどれだけ変わるか。曲線で の回転を見たのと同じ手を、面で に使う。
ガウス写像
法線ベクトルは単位ベクトルなので、その先端は必ず単位球面 上にあります。面の各点に、その点の法線の 向き( 上の点)を対応させる——これがガウス写像です。
定義 ガウス写像
向き付けられた曲面 の各点 に、単位法線 を対応させる写像
をガウス写像という。
ガウス写像がどれだけ「速く動くか」が、面の曲がりの度合い。平面ではガウス写像は一点に潰れる(法線が動かない)。 球面では面全体を法線がまんべんなく指すのでガウス写像は を覆う。この「法線の動き」を微分で捉えます。
定義 ワインガルテン写像(形作用素)
ガウス写像の微分 を考える。 は に直交する平面で、これは と同一視できる(どちらも に直交)。そこで
をワインガルテン写像(形作用素)という。接平面から接平面への線形写像。
マイナス符号は、後で「膨らむ側を正の曲率」とする慣習に合わせるための約束です。 は「接ベクトル方向に 進んだとき、法線がどう傾くか」を表す線形写像。これが曲面の曲がりの本体です。
第二基本形式:法線方向への曲がり
面の上を接ベクトル方向に進むと、面は法線方向へ反っていく。その反りの量を測るのが第二基本形式です。 定義は「法線の動き」を接平面の内積で測る形になります。
定義 第二基本形式
接ベクトル に対し
を第二基本形式という。 を基底に係数を
とおくと 。
係数の形 に注目してください。二階微分 (面の反り)を法線方向へ射影したもの。 「面がどれだけ法線側へ加速するか」=反りの量です。 の が入るぶん、これは 外在的(法線=空間への埋まり方に依存)な量——前章の内在的な第一基本形式と対をなします。
注意 なぜ $L=\bm x_{uu}\cdot\bm n$ が $-d\bm N$ と一致するか
(法線は接ベクトルに直交)を で微分すると 、 つまり 。二つの定義(二階微分の射影と 法線微分)が一致する。 も同様。だから第二基本形式は「面の反り」と「法線の動き」の両面から書ける。
法曲率——面上の曲線の曲率の“縦成分”
第二基本形式の幾何的意味を、曲線に引き戻して掴みましょう。面上を単位接ベクトル の向きに走る曲線を考え、 その曲率のうち法線方向の成分を取り出したものが法曲率です。
定義 法曲率
単位接ベクトル 方向の法曲率を
で定める。面上を 方向に走る曲線の曲率ベクトル を法線 に射影した値 に等しい(ムニエの定理)。
つまり、面上を進む曲線の「曲がり」は二つに分かれます——面が空間で反っているせいの曲がり(法曲率 、 法線方向)と、面の上で経路が曲がっているせいの曲がり(測地的曲率 、接平面内、第8章)。法曲率は 「面そのものの反り」だけを取り出した量で、進む方向 ごとに値が変わります。
例 円柱の法曲率
半径 の円柱面。円周方向に進むと法曲率 (円のように曲がる)、母線(まっすぐな縦)方向に進むと 法曲率 (まっすぐ)。方向によって から まで変わる。「方向ごとに曲がりが違う」——だから曲面の曲率は 一つの数では足りず、方向の関数になる。この方向依存性を次章で主曲率として整理する。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 第一基本形式(内在的)と第二基本形式(外在的)は役割が違う。 第一=面上の距離、第二=空間への反り。 記号 が第一の と対になる。混同しない( は第二基本量、第一の とは別物)。
- 法曲率は方向 に依存する。 曲面の「曲率」は一つの数ではない。方向ごとに が変わる。この事実が 主曲率・ガウス曲率(次章)の出発点。
- ワインガルテン写像は接平面上の線形写像。 ガウス写像の像は だが、その微分は から への 写像とみなせる(両接平面が で一致)。この同一視が鍵。
- 法曲率と曲線の曲率は別。 面上の曲線の曲率 のうち、法線方向成分だけが 。残りは接平面内の 測地的曲率。ムニエの定理がこの分解を言う。
この章のまとめ
- 曲面の外在的な曲がりは、法線 の動き(ガウス写像 )で捉える。曲線で接線 の回転を見たのと同じ発想。
- その微分 (ワインガルテン写像/形作用素)が接平面上の線形写像として曲がりを表す。
- 第二基本形式 ( 等)は法線方向への反り。外在的な量。
- 法曲率 は方向ごとに変わる面の反り(ムニエの定理)。方向依存性が次章の主題。
- 次章では、方向を変えたとき法曲率が最大・最小になる方向(主方向)と値(主曲率)を求め、ガウス曲率・平均曲率を定義します。
次章では、ワインガルテン写像の固有値=主曲率を通して、ガウス曲率 と平均曲率 を定義し、面の点の分類を行います。