第6章 主曲率・ガウス曲率・平均曲率
方向で変わる曲がりを、二つの数に集約する
前章で、面上の法曲率 κn(w) は進む方向 w ごとに変わると分かりました。円柱なら 0 から 1/r まで。
すると「この面の曲がりは?」と一言で答えるには、方向ごとの値をどう要約すればいいでしょう。自然なのは
最大と最小を取ること。いちばん強く曲がる方向と、いちばん緩い方向。この二つが、面の曲がりの骨格です。
法曲率は κn(w)=⟨Spw,w⟩ という、ワインガルテン写像 Sp(対称な線形写像)が作る
二次形式でした。「単位ベクトル上での二次形式の最大・最小」——これは線形代数で学んだ、
対称行列の固有値問題そのものです。曲面の曲がりが、行列の固有値に化ける。
方向ごとの法曲率の最大・最小=主曲率。それはワインガルテン写像(対称)の固有値。曲面の曲がりが固有値問題になる。
主曲率と主方向
定義 主曲率・主方向
ワインガルテン写像 Sp は(第一基本形式に関して)対称なので、実固有値 κ1≥κ2 と、互いに直交する
固有ベクトルをもつ。この固有値 κ1,κ2 を主曲率、対応する固有方向を主方向という。
定理 オイラーの定理
主方向を基準に測った方向 w が主方向 e1 となす角を θ とすると、法曲率は
κn(θ)=κ1cos2θ+κ2sin2θ.とくに κ1,κ2 は法曲率の最大値・最小値で、主方向で達成される。
証明
w=cosθe1+sinθe2(正規直交固有ベクトル)とすると Spei=κiei より
κn=⟨Spw,w⟩=κ1cos2θ+κ2sin2θ。θ で微分して極値を求めると
θ=0(κ1)と θ=π/2(κ2)。∎
∎
オイラーの定理は美しい要約です。たった二つの数 κ1,κ2 が、全方向の曲がりを決める。円柱なら
κ1=1/r(円周方向)、κ2=0(母線方向)で、あいだの方向は cos2θ で補間される。方向という
連続無限の情報が、二つの固有値に凝縮されるのです。
ガウス曲率と平均曲率
二つの主曲率から、二通りの代表的な組み合わせを作ります。積と平均。それぞれが深い意味を持ちます。
定義 ガウス曲率・平均曲率
K=κ1κ2=detSp(<Term>ガウス曲率</Term>),H=2κ1+κ2=21trSp(<Term>平均曲率</Term>).第一・第二基本量では K=EG−F2LN−M2,H=2(EG−F2)EN−2FM+GL。
K は固有値の積=行列式、H は平均=トレースの半分。線形代数の不変量(det,tr)が、そのまま
曲面の幾何量になっています。二つは性格が違います。
- ガウス曲率 K は、面の「内在的な曲がり」を捉える(第7章の驚異の定理で判明)。K の符号が面の形を分類。
- 平均曲率 H は外在的で、H≡0 の面は極小曲面(石鹸膜の形、面積最小)。
ガウス曲率の符号で面を分類する
K=κ1κ2 の符号が、その点での面の形を決めます。二つの主曲率が同符号か、逆符号か、片方ゼロか。
定義 点の分類
- K>0(κ1,κ2 同符号):楕円的点。お椀・ドームのように一方向に膨らむ。面は接平面の片側に。
- K<0(異符号):双曲的点。鞍(サドル)。ある方向は上に、直交方向は下に反る。接平面が面を貫く。
- K=0(少なくとも一方が 0):放物的点。円柱のように一方向だけ曲がり、他方向はまっすぐ。
例 三つの標準例
- 球面(半径 r):κ1=κ2=1/r、K=1/r2>0。どこも楕円的。全方向に同じく膨らむ。
- 円柱(半径 r):κ1=1/r,κ2=0、K=0。放物的。丸めた紙。
- 鞍面(z=x2−y2 の原点):κ1>0>κ2、K<0。双曲的。ポテトチップスの形。
これは直感とよく合います。ボールの表面はどこもお椀型(K>0)、缶の側面は一方向だけ丸い(K=0)、峠の鞍部は
反り返る(K<0)。ガウス曲率の符号は、面の“膨らみか反りか”を数で言い当てているのです。
注意 ここまで外在的、でも次章で反転する
主曲率 κ1,κ2 はワインガルテン写像(法線の動き=外在的)から定義した。だから K=κ1κ2 も
一見外在的——面が空間でどう反るかに依存するはず。ところが次章のガウスの驚異の定理が「K は第一基本形式
(内在的)だけで決まる」と告げる。κ1,κ2 個々は外在的なのに、その積だけは内在的。これが微分幾何
最大の驚き。H=(κ1+κ2)/2 は外在的なまま(円柱と平面で H が違う)——積と和で運命が分かれる。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 曲面の曲率は一つの数ではない。 方向ごとに法曲率が違う。要約が主曲率 κ1,κ2。そこから K,H を作る。
- K は積、H は平均。 K=κ1κ2(符号が形を決める)、H=(κ1+κ2)/2(極小曲面で 0)。役割が全く違う。
- K=0 は「平ら」ではなく「一方向だけ平ら」。 円柱は K=0 だが曲がっている(κ1=0)。K=0 は
放物的(片方の主曲率が 0)の意味。
- 主方向は直交する。 対称作用素の固有ベクトルだから。ただし κ1=κ2(臍点、球面など)では
全方向が主方向になり、方向が定まらない。
この章のまとめ
- 方向で変わる法曲率の最大・最小が主曲率 κ1,κ2=ワインガルテン写像(対称)の固有値。全方向はオイラーの定理 κn=κ1cos2θ+κ2sin2θ で補間される。
- ガウス曲率 K=κ1κ2=detS、平均曲率 H=(κ1+κ2)/2=21trS。線形代数の det,tr が幾何量に。
- K の符号で点を分類:K>0 楕円的(ドーム)、K<0 双曲的(鞍)、K=0 放物的(円柱)。
- 主曲率は外在的だが、その積 K だけは実は内在的——次章のガウスの驚異の定理で判明する。
- 次章は本分野のハイライト。K が第一基本形式だけで決まること(Theorema Egregium)を示し、「面の内側だけで曲率が分かる」ことの意味を掘り下げます。
次章では、ガウスの驚異の定理——ガウス曲率が内在的量であること——を述べ、その意味(地図の測量だけで面の曲がりが分かる)を明らかにします。