数学の作り方 How to make Mathematics

第6章 交叉理論

写像度は「写像 ff が、点 yy の逆像として何回覆うか」を符号付きで数えました。これを二つの部分多様体の 交わりへ一般化します。空間内で曲線と曲面が交わる点、平面上で二曲線が交わる点——それを符号付きで 数えた交叉数は、位置を動かしても変わらない不変量になり、写像度を特別な場合として含みます。 そして「多様体を自分自身と交わらせる」自己交叉数から、ベクトル場の零点勘定(次章)への橋が架かります。

交叉数:符号付きで交点を数える

前章の横断性を思い出します。向き付き多様体 NnN^n の中の、向き付きコンパクト部分多様体 Xx,ZzX^x, Z^z相補次元 x+z=nx+z=n で横断的に交わるとき、XZX\cap Z00 次元コンパクト=有限個の点。各交点で符号を付けます。

定義 交叉数

x+z=nx+z=nXZX\pitchfork Z とする。交点 pXZp\in X\cap Z では横断性より TpXTpZ=TpNT_pX\oplus T_pZ=T_pN(相補次元なので直和)。 この直和で定まる向きが NN の向きと一致すれば sgn(p)=+1\operatorname{sgn}(p)=+1、逆なら 1-1交叉数

XZ=pXZsgn(p) ZX\cdot Z=\sum_{p\in X\cap Z}\operatorname{sgn}(p)\ \in\mathbb{Z}

で定める。(一方が向き付け不可能などでは mod2\bmod 2X2Z{0,1}X\cdot_2 Z\in\{0,1\}。)

「交点で二つの接空間の向きを並べ、周りの向きと合うかどうか」で ±1\pm1。写像度のときの「dfxdf_x が向きを保つか」と 同じ発想で、今度は二つの部分多様体の接空間を突き合わせています。そして写像度と同じ論法で不変です。

定理 交叉数のホモロジー不変性

XZX\cdot Z は、XX(や ZZ)をホモトピー/ボルディズムで動かしても変わらない。したがって X,ZX, Z の ホモロジー類のみで定まる。非横断的な配置でも、摂動して横断的にしてから数えれば、同じ値になる。

証明はまたも「一次元上げて端点勘定」。XX を動かすホモトピー XtX_t の描く跡と ZZ の交わりが、符号付き 11 次元多様体になり、その符号付き境界(=X0Z=X_0\cdot ZX1ZX_1\cdot Z の差)が 00。第4–5章で確立した 端点勘定の原理が、ここでも不変性を生みます。前章までを貫く一つの技法が、写像度・交叉数を統一的に支えています。

注意 写像度は交叉数の特別な場合

f ⁣:MnNnf\colon M^n\to N^n の写像度は、ffグラフ Γf={(x,f(x))}M×N\Gamma_f=\{(x,f(x))\}\subset M\times N と、 M×{y}M\times\{y\} の交叉数に一致する:deg(f)=Γf(M×{y})\deg(f)=\Gamma_f\cdot(M\times\{y\})。「ffyy を覆う回数」= 「グラフが水平スライスと交わる回数」。写像度・交叉数・(後述の)零点数は、すべて同じ符号付き点勘定の 別の顔なのです。

自己交叉数とオイラー類

XZX\cdot ZZ=XZ=X とすると何が起きるか。XX を自分自身と交わらせる——もちろんそのままでは全体で 重なってしまうので、XX を少し押しずらした XX'(横断的なコピー)との交叉を数えます。これが自己交叉数です。

定義 自己交叉数とオイラー数

コンパクト向き付き XkX^k が向き付き N2kN^{2k} に埋め込まれているとき、XX の摂動コピー XX' との交叉数 XXX\cdot X自己交叉数という。とくに XXNN の中で押しずらす方向は法束で決まり、 XXX\cdot X は法束のオイラー数(オイラー類の値)に等しい。

自己交叉数は「XX を自分からどれだけ引き離せるか、引き離せない度合い」を測ります。押しずらしたコピーと 必ず交わってしまうなら、その符号付き個数が“ねじれ”の量。もっとも重要な場合が、 **接束の切断(ベクトル場)**を考えたときです。

定理 オイラー数=零点勘定

コンパクト向き付き多様体 MM 上のなめらかなベクトル場 VV(=接束 TMTM の切断)を、零切断 (=ゼロベクトル場)と横断的にすると、VV の零点は孤立し、符号付きの零点数は MM の対角線の自己交叉数=接束のオイラー数に等しく、VV の取り方に依らない。

言い換えると、「ベクトル場の零点を符号付きで数えた総和」は、ベクトル場をどう選んでも同じ——多様体 MM の 形だけで決まる不変量(接束のオイラー数)です。ここで前章までの交叉理論が、次章の主役 「ベクトル場の零点」へまっすぐ接続します。零点の符号(=指数)を数えると、それが多様体の オイラー標数に一致する——それが次章のポアンカレ–ホップの定理です。

ポアンカレ双対との関係

交叉理論には、位相幾何のポアンカレ双対という代数的な裏の顔があります。 向き付きコンパクト nn 次元多様体で、kk 次元部分多様体 XX(nk)(n-k) 次コホモロジー類 [X][X]^\vee(その ポアンカレ双対)を定め、交叉数はカップ積の積分になります:

XZ=N[X][Z].X\cdot Z=\int_N [X]^\vee\smile[Z]^\vee.

「幾何的な交わりの点勘定」=「コホモロジー環でのカップ積」。微分位相の幾何的な交叉数と、代数トポロジーの 代数的なカップ積が、同じ整数を与える。第5章の「写像度= fω\int f^*\omega」と同じく、離散の幾何と連続の代数が 一致する構図で、微分位相幾何と代数トポロジーが二枚の鏡のように対応していることを示しています。

注意 つまずきポイント

  • 交叉数は相補次元 x+z=nx+z=n でこそ整数。 次元が余れば交わりは正次元の多様体になり「個数」でなく 「ボルディズム類」を考える必要がある。ちょうど足りるときだけ点勘定。
  • 自己交叉は「押しずらしたコピー」との交叉。 XX そのものと XX は全体で重なるので摂動が必須。押しずらす 方向=法束が自己交叉数(オイラー数)を決める。曲線が平面内なら法束は自明で自己交叉 00、曲面内の曲線だと 0\ne0 もある。
  • 向きが無ければ mod2\bmod 2 向き付け不可能な舞台では符号が定まらず、交叉数は偶奇 mod2\bmod 2 でしか 意味を持たない(第4章と同じ事情)。

この章のまとめ

  • 交叉数 XZ=sgn(p)X\cdot Z=\sum\operatorname{sgn}(p):相補次元 x+z=nx+z=n で横断的に交わる二つの向き付き部分多様体の交点を、 接空間の向きの整合で符号付きに数える。ホモロジー不変(端点勘定)。
  • 写像度は交叉数の特別な場合(グラフと水平スライスの交叉)。写像度・交叉数・零点数は同じ符号付き点勘定の別の顔。
  • 自己交叉数=押しずらしたコピーとの交叉=法束のオイラー数。とくにベクトル場(接束の切断)の 符号付き零点数は MM の形だけで決まる——次章ポアンカレ–ホップへの橋。ポアンカレ双対でカップ積とも一致。

交叉理論が「ベクトル場の零点数は多様体の不変量」を示唆しました。次章はその不変量の正体を突き止めます—— 零点の符号(指数)の総和は、多様体のオイラー標数に等しい。毛玉の定理を完全に証明します。