⟐ 数学の作り方 How to make Mathematics

↑ ↓ 移動 Enter 開く Esc 閉じる

第3章 剰余類とラグランジュの定理

部分群は、群をきれいに“タイル張り”する

群論で最初に現れる、そして最も使う定理がラグランジュの定理です。主張は驚くほど単純—— 部分群の大きさは、群全体の大きさを必ず割り切る。位数 1212 の群に、位数 55 の部分群は存在しえない。

なぜこんなことが言えるのか。カギは、部分群 HH が群 GG を等しい大きさのかけら(剰余類)に分割することです。 GG が HH と同じサイズのタイルで隙間なく敷き詰められるなら、∣G∣|G| は ∣H∣|H| の倍数になる——直感的にはこれだけ。 この「タイル張り」を厳密にするのが剰余類の理論で、そこから元の位数の制約、さらには数論のフェルマーの小定理まで、 一気に流れ出します。

部分群 HH は GG を ∣H∣|H| 個ずつの剰余類に分割する。ゆえに ∣H∣|H| は ∣G∣|G| を割る(ラグランジュ)。

剰余類

定義 左剰余類・右剰余類

H≤GH\le G と a∈Ga\in G に対し、aH={ah:h∈H}aH=\{ah:h\in H\} を aa を含む左剰余類、Ha={ha:h∈H}Ha=\{ha:h\in H\} を右剰余類という。

左剰余類 aHaH は「HH を aa で平行移動したかけら」。これらが GG をきれいに分割することを示します。

補題 剰余類は G を分割する

左剰余類の全体は GG の分割をなす:(a)各 aa は aHaH に属す(a=aea=ae)。(b)2つの左剰余類は一致するか、交わらない。 (c)どの左剰余類も ∣H∣|H| と同じ大きさ。

証明

(b)aH∩bH≠∅aH\cap bH\ne\emptyset とし ah1=bh2ah_1=bh_2 とする。すると a=bh2h1−1∈bHa=bh_2h_1^{-1}\in bH、任意の ah∈aHah\in aH は ah=bh2h1−1h∈bHah=bh_2h_1^{-1}h\in bH なので aH⊆bHaH\subseteq bH。対称に bH⊆aHbH\subseteq aH、よって aH=bHaH=bH。交われば一致する。 (c)写像 H→aH, h↦ahH\to aH,\ h\mapsto ah は全射で、消去律(ah=ah′⇒h=h′ah=ah'\Rightarrow h=h')より単射。ゆえに全単射で ∣aH∣=∣H∣|aH|=|H|。∎

証明の心臓は2つ。「交われば一致」((b))が分割を保証し、「h↦ahh\mapsto ah が全単射」((c)、消去律が効く)が 各かけらが同じ大きさを保証する。これで GG が ∣H∣|H| サイズのタイルで敷き詰められました。下で確かめてください。 部分群 ⟨g⟩\langle g\rangle を選ぶと、GG が等しい大きさの色ブロック(剰余類)に分かれます。

ラグランジュの定理

定義 指数

H≤GH\le G の左剰余類の個数を HH の指数 [G:H][G:H] という。

定理 ラグランジュの定理

有限群 GG と部分群 H≤GH\le G について ∣G∣=[G:H]⋅∣H∣.|G|=[G:H]\cdot|H|. とくに ∣H∣|H| は ∣G∣|G| を割り切る。

証明

左剰余類は GG を分割し(補題(a)(b))、どれも大きさ ∣H∣|H|(補題(c))。剰余類が [G:H][G:H] 個あるので、 それらの和集合= GG の要素数は [G:H]⋅∣H∣[G:H]\cdot|H|。∎

たった数行。剰余類が「同じ大きさで分割する」ことさえ言えれば、割り算の関係は自動です。 なお、左剰余類の個数と右剰余類の個数は等しい(aH↦Ha−1aH\mapsto Ha^{-1} が全単射)ので、指数は左右で同じです。

元の位数への帰結

ラグランジュを元の位数(第2章)に適用すると、強力な制約が出ます。

系 元の位数は群の位数を割る

有限群 GG の任意の元 aa について、ord(a)\mathrm{ord}(a) は ∣G∣|G| を割り切る。したがって a∣G∣=ea^{|G|}=e。

証明

ord(a)=∣⟨a⟩∣\mathrm{ord}(a)=|\langle a\rangle|(第2章)で、⟨a⟩≤G\langle a\rangle\le G だからラグランジュより ord(a)∣∣G∣\mathrm{ord}(a)\mid|G|。 ∣G∣=ord(a)⋅k|G|=\mathrm{ord}(a)\cdot k と書けば a∣G∣=(aord(a))k=ea^{|G|}=(a^{\mathrm{ord}(a)})^k=e。∎

系 素数位数の群は巡回群

∣G∣=p|G|=p(素数)なら GG は巡回群 Zp\mathbb Z_p。特に単純(自明でない部分群をもたない)。

証明

e≠a∈Ge\ne a\in G をとると ord(a)∣p\mathrm{ord}(a)\mid p かつ ord(a)>1\mathrm{ord}(a)>1 なので ord(a)=p\mathrm{ord}(a)=p。よって ⟨a⟩\langle a\rangle は位数 p=∣G∣p=|G|、 すなわち G=⟨a⟩≅ZpG=\langle a\rangle\cong\mathbb Z_p。部分群の位数は pp の約数 1,p1,p しかないので自明なものだけ。∎

「位数が素数なら、群の形は一つに決まる」。群の位数を素因数分解して構造を絞る——この戦略が、第8章のシロー理論で 本格化します。ラグランジュはその第一歩です。

数論への応用:フェルマーの小定理

抽象的なラグランジュの定理から、整数論の古典的定理が転がり出ます。

定理 オイラーの定理・フェルマーの小定理

nn と互いに素な整数 aa について aφ(n)≡1(modn)a^{\varphi(n)}\equiv1\pmod n(オイラー)。特に pp が素数で p∤ap\nmid a なら ap−1≡1(modp)a^{p-1}\equiv1\pmod p(フェルマーの小定理)。

証明

 mod  n\bmod\,n で可逆な剰余類全体 (Z/nZ)×(\mathbb Z/n\mathbb Z)^\times は、乗法について位数 φ(n)\varphi(n) の群をなす(第2章の φ\varphi)。 aa が nn と互いに素なら aa の類はこの群の元で、系「a∣G∣=ea^{|G|}=e」より aφ(n)≡1(modn)a^{\varphi(n)}\equiv1\pmod n。 n=pn=p なら φ(p)=p−1\varphi(p)=p-1。∎

フェルマーの小定理——RSA暗号の土台でもある——が、「元の位数は群の位数を割る」の一例にすぎないと分かります。 整数の合同という一見別世界の話が、群の言葉で一行に収まる。抽象化のご利益です。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • ラグランジュの逆は成り立たない。 「d∣∣G∣d\mid|G| なら位数 dd の部分群がある」は一般には偽(位数 1212 の交代群 A4A_4 に位数 66 の部分群は無い)。存在を保証するのはアーベル群やシロー部分群など特別な場合。
  • 剰余類は部分群とは限らない。 aHaH が部分群になるのは a∈Ha\in H(= aH=HaH=H)のときだけ。剰余類は「HH をずらしたかけら」。
  • 左剰余類と右剰余類は一般に違う。 aH≠HaaH\ne Ha でありうる。一致するのが正規部分群(次章)。個数(指数)は左右で等しい。

この章のまとめ

  • 部分群 HH は GG を等しい大きさの剰余類に分割する(交われば一致+消去律で同サイズ)。ゆえに ∣G∣=[G:H]⋅∣H∣|G|=[G:H]\cdot|H|(ラグランジュの定理)。
  • 帰結:元の位数は群の位数を割る(a∣G∣=ea^{|G|}=e)、素数位数の群は巡回で単純。位数の素因数分解で構造を絞る戦略の起点。
  • 応用としてフェルマーの小定理・オイラーの定理が (Z/nZ)×(\mathbb Z/n\mathbb Z)^\times への系として出る。

次章は、左右の剰余類が一致する特別な部分群——正規部分群と、それで割って作る剰余群を扱います。