数学の作り方 How to make Mathematics

第2章 巡回群と生成

一つの元だけで、群はどこまで作れるか

群の中で一つの元 aa を選び、それを繰り返しかけていくとどうなるでしょう。 a, a2, a3,a,\ a^2,\ a^3,\dots、そして逆向きに a1,a2,a^{-1},a^{-2},\dots、それに e=a0e=a^0。これらだけで すでに一つの群(部分群)ができます。たった一つの元から生成される群——これが巡回群、 最も単純で、最も基本的な群です。

時計を思い浮かべてください。1212 時から 11 時間ずつ進めると一周して戻る。この「一周する加法」が 巡回群 Zn\mathbb Z_n です。単純ですが侮れません。すべてのアーベル群は巡回群の組み合わせで作れ(第10章)、 巡回群の生成元の個数は数論のオイラー関数そのもの。群論と初等整数論が最初に出会う場所です。

巡回群 = 一つの元 aa の累乗だけからなる群 a\langle a\rangle。時計算術 Zn\mathbb Z_n と無限巡回群 Z\mathbb Z の2種類しかない。

生成される部分群と元の位数

定義 生成される巡回部分群

aGa\in G に対し a={an:nZ}\langle a\rangle=\{a^n:n\in\mathbb Z\}GG の部分群で、aa を含む最小の部分群 (a が生成する巡回部分群)。G=aG=\langle a\rangle となる aa があるとき GG巡回群という。

前章の「元の位数」が、この部分群の大きさに一致します。

命題 位数と巡回部分群

ord(a)=n<\mathrm{ord}(a)=n<\infty なら a={e,a,a2,,an1}\langle a\rangle=\{e,a,a^2,\dots,a^{n-1}\}a=n|\langle a\rangle|=n。 このとき am=e    nma^m=e\iff n\mid mord(a)=\mathrm{ord}(a)=\infty なら ai (iZ)a^i\ (i\in\mathbb Z) はすべて相異なり aZ\langle a\rangle\cong\mathbb Z

証明

n=ord(a)n=\mathrm{ord}(a) とする。ai=aj (0i<j<n)a^i=a^j\ (0\le i<j<n) なら aji=ea^{j-i}=e0<ji<n0<j-i<n、位数の最小性に反する。よって e,,an1e,\dots,a^{n-1} は相異なる nn 個。任意の ama^mm=qn+r (0r<n)m=qn+r\ (0\le r<n) と割り算して am=(an)qar=ara^m=(a^n)^q a^r=a^r なので a\langle a\rangle はこの nn 個で尽きる。am=e    ar=e    r=0    nma^m=e\iff a^r=e\iff r=0\iff n\mid m。∎

元の位数=その元が生成する部分群の大きさ。この一致が、次章のラグランジュの定理で「元の位数が群の位数を割る」 という美しい結論を生みます。証明の道具は割り算(m=qn+rm=qn+r)——巡回群の理論は整数の割り算の理論とほぼ同じです。

巡回群の分類

定理 巡回群の分類

巡回群は同型を除いて、無限なら Z\mathbb Z(整数の加法群)、位数 nn なら Zn\mathbb Z_nmodn\bmod\,n の加法群)のみ。

証明

G=aG=\langle a\rangle とし、写像 φ:ZG, φ(k)=ak\varphi:\mathbb Z\to G,\ \varphi(k)=a^k を考える。φ(k+l)=ak+l=akal=φ(k)φ(l)\varphi(k+l)=a^{k+l}=a^ka^l=\varphi(k)\varphi(l) ゆえ 準同型(次章)で全射。ord(a)=\mathrm{ord}(a)=\infty なら単射でもあり GZG\cong\mathbb Zord(a)=n\mathrm{ord}(a)=n なら φ(k)=e    nk\varphi(k)=e\iff n\mid k なので、 φ\varphiZnG\mathbb Z_n\to G の同型を誘導し GZnG\cong\mathbb Z_n。∎

「一つの元で生成される」という条件だけで、群は本質的に2種類(Z\mathbb ZZn\mathbb Z_n)に決まってしまう。 抽象的な群が、なじみ深い整数の世界に完全に翻訳されるのです。

巡回群の部分群

巡回群の部分群は、驚くほど整然としています。整数 Z\mathbb Z の部分群がすべて nZn\mathbb Znn の倍数)だったことの反映です。

定理 巡回群の部分群

巡回群の部分群はすべて巡回群。とくに Zn=a\mathbb Z_n=\langle a\rangle の部分群は、nn の各約数 dd に対し 位数 dd のものがちょうど一つ an/d\langle a^{n/d}\rangle ずつ、それで全部。

証明

部分群 HaH\le\langle a\rangle{e}\{e\} でないとする。HH に含まれる aka^k のうち k>0k>0 が最小のものを ama^m とする。 任意の akHa^k\in Hk=qm+r (0r<m)k=qm+r\ (0\le r<m) と割ると ar=ak(am)qHa^r=a^k(a^m)^{-q}\in H、最小性より r=0r=0、つまり mkm\mid k。 ゆえに H=amH=\langle a^m\rangle(巡回)。位数の対応(nn の約数 dd ↔ 部分群 an/d\langle a^{n/d}\rangle、位数 dd)も同様に出る。∎

「約数の個数だけ部分群があり、各サイズにきっかり一つ」——Z12\mathbb Z_{12} なら位数 1,2,3,4,6,121,2,3,4,6,12 の部分群が 一つずつ。部分群の格子が約数の格子とそっくりになります。

生成元の個数

Zn\mathbb Z_n を生成する元(ak=Zn\langle a^k\rangle=\mathbb Z_n となる aka^k)はいくつあるでしょう。ここで数論が顔を出します。

命題 生成元と互いに素

Zn=a\mathbb Z_n=\langle a\rangle において、aka^kZn\mathbb Z_n を生成する     gcd(k,n)=1\iff \gcd(k,n)=1。 ゆえに生成元の個数はオイラーのトーシェント関数 φ(n)\varphi(n)nn 以下で nn と互いに素な数の個数)。

証明

aka^k の位数は n/gcd(k,n)n/\gcd(k,n)(ak)m=e    nkm    ngcd(k,n)m(a^k)^m=e\iff n\mid km\iff \frac{n}{\gcd(k,n)}\mid m)。これが nn に等しい     gcd(k,n)=1\iff\gcd(k,n)=1。 このとき ak\langle a^k\rangle は位数 nn で全体。∎

Z12\mathbb Z_{12} の生成元は gcd(k,12)=1\gcd(k,12)=1 となる k=1,5,7,11k=1,5,7,114=φ(12)4=\varphi(12) 個。群論の問い(生成元の数)が、 そのまま整数論の関数 φ(n)\varphi(n) になりました。この橋は代数的整数論環論へ続きます。

生成系

一つの元で足りなければ、複数の元で群を「張り」ます。線形代数の生成系の群版です。

定義 生成系

SGS\subseteq G に対し、SS を含む最小の部分群を S\langle S\rangle と書き、SS生成系G=SG=\langle S\rangle のとき「SSGG を生成する」という。S\langle S\rangleSS の元と逆元の有限積すべてからなる。

例:SnS_n は互換(2つを入れ替える置換)で生成される(第9章)。DnD_n は回転 rr と鏡映 ss の2元で生成される。 有限生成でない群(Q\mathbb Q の加法群など)もあります。生成元だけでなく「生成元が満たす関係」まで指定して群を定めるのが、 第12章の生成元と関係式による表示です。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 元の位数と群の位数は別(だが関係する)。 元の位数=その元が生成する巡回部分群の大きさ。次章でこれが群の位数を割ると分かる。
  • 巡回群は必ず可換だが、逆は偽。 Z2×Z2\mathbb Z_2\times\mathbb Z_2(クラインの四元群)は可換だが巡回でない(位数4の元が無い)。
  • am=ea^m=e は「mm が位数」ではなく「位数が mm を割る」。 ord(a)m\mathrm{ord}(a)\mid m。位数は最小の正の指数。

この章のまとめ

  • 巡回群 a\langle a\rangle は一元生成。元の位数=生成する巡回部分群の大きさで、am=e    ord(a)ma^m=e\iff\mathrm{ord}(a)\mid m。分類は Z\mathbb ZZn\mathbb Z_n のみ。
  • 巡回群の部分群はすべて巡回で、Zn\mathbb Z_n では各約数 dd に位数 dd の部分群がちょうど一つ。生成元の個数は φ(n)\varphi(n)(数論との接点)。
  • 複数元で張るのが生成系。生成元+関係式で群を表示する道(第12章)へ繋がる。

次章は、部分群が群を等しい大きさに分割することを示し、群論最初の大定理——ラグランジュの定理を証明します。