数学の作り方 How to make Mathematics

第15章 独立性 — L・強制法・巨大基数

「証明も反証もできない」を、証明する

カントールは問いました——無限集合の大きさに、0\aleph_0202^{\aleph_0} の間はあるか? 「無い」(20=12^{\aleph_0}=\aleph_1)というのが 連続体仮説(CH)です。カントールは生涯これを解こうとして果たせませんでした。20世紀、答えは衝撃的な形で出ます—— CH は ZFC から証明も反証もできない(独立)。

第13章のゲーデル文は人工的に作った自己言及文でしたが、CH は数学者が心から知りたかった自然な問題です。 それが「決定不能」だと証明された。この章は、その二方向の証明技法——ゲーデルの構成可能集合 L(CH を否定できないことを示す)と、 コーエンの強制法(CH を証明できないことを示す)——を追います。集合論が「唯一の真理」ではなく、 複数の無矛盾な宇宙を扱う学問だと明らかになる、この分野のクライマックスです。

CH は ZFC から独立。L が「CH は反証できない」を、強制法が「CH は証明できない」を示す。

相対無矛盾性

第13章より ZFC は自分の無矛盾性 Con(ZFC)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}) を証明できません。だから「ZFC+CH\mathrm{ZFC}+\mathrm{CH} は無矛盾」を絶対的には示せない。 代わりに示すのは相対無矛盾性です。

定義 相対無矛盾性と独立性

Con(ZFC)Con(ZFC+φ)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC})\Rightarrow\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}+\varphi)」を「φ\varphi は ZFC に対し相対的に無矛盾」という (ZFC が無矛盾なら φ\varphi を足しても矛盾しない)。φ\varphi¬φ\lnot\varphiともに相対的に無矛盾なとき、φ\varphi は ZFC から独立という。

CH の独立性を示すには、「ZFC+CH\mathrm{ZFC}+\mathrm{CH}」と「ZFC+¬CH\mathrm{ZFC}+\lnot\mathrm{CH}」の両方が相対的に無矛盾だと言えばよい。 その道具が、モデルを作る2つの技法です。

構成可能集合 L

ゲーデル(1938)のアイデアは「集合の宇宙を、定義可能なものだけに絞る」こと。恣意的な集合を排し、 一段ずつ論理式で定義できる集合だけを積み上げます。

定義 構成可能宇宙 L

L0=L_0=\emptysetLα+1={XLα:X は Lα 上のパラメータ付き論理式で定義可能}L_{\alpha+1}=\{X\subseteq L_\alpha: X\ \text{は}\ L_\alpha\ \text{上のパラメータ付き論理式で定義可能}\}、 極限で Lλ=α<λLαL_\lambda=\bigcup_{\alpha<\lambda}L_\alphaL=αLαL=\bigcup_\alpha L_\alphaLL構成可能宇宙という。 公理「V=LV=L(すべての集合は構成可能)」を考えられる。

累積階層 VV(前章)が各段で「LαL_\alphaすべての部分集合」を取ったのに対し、LL は「定義できる部分集合」だけを取ります。 LLVV の内部モデル(内部モデル)で、次の著しい性質をもちます。

定理 Lの性質(ゲーデル)

LL は ZFC のすべての公理を満たす(LZFCL\models\mathrm{ZFC})。さらに L(V=L)L\models(V=L)LACL\models\mathrm{AC}、そして LGCHL\models\mathrm{GCH}(一般連続体仮説 2α=α+12^{\aleph_\alpha}=\aleph_{\alpha+1}、特に CH)。

証明の心は「LL が定義可能なものだけからなるので、部分集合が“少なく”、P(α)\mathcal P(\aleph_\alpha) が ちょうど α+1\aleph_{\alpha+1} で収まる」こと(凝縮補題による)。ここから相対無矛盾性が出ます。

AC と CH は反証できない

ZFC が無矛盾なら、LLZFC+AC+GCH\mathrm{ZFC}+\mathrm{AC}+\mathrm{GCH} のモデルを与えるので、 Con(ZFC)Con(ZFC+AC+CH)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC})\Rightarrow\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}+\mathrm{AC}+\mathrm{CH})。すなわち ZFC から ¬CH\lnot\mathrm{CH}¬AC\lnot\mathrm{AC}証明できない

これで CH の半分(「反証できない」)が片付きました。LL はまた、選択公理が集合論の他の公理と衝突しないこと(AC の相対無矛盾性)も示し、 AC への疑念に決着をつけました。残るは「CH は証明できるか?」——ここでゲーデルは止まり、四半世紀後にコーエンが答えます。

強制法

コーエン(1963、フィールズ賞)の強制法(forcing)は、既存のモデル MM新しい集合を付け加えて、 狙った性質をもつ拡大モデル M[G]M[G] を作る技法です。CH を壊す202^{\aleph_0} を大きくする)ために使います。

定義 強制法の概要

ZFC の可算推移的モデル MM基礎モデル)と、MM 内の半順序 P\mathbb P強制概念:近似の集まり)をとる。 MM の外から P\mathbb P 上のジェネリックフィルター GGMM の稠密集合すべてと交わる“十分一般的”な選び方)をとり、 M[G]M[G] を「MMGG から構成される最小の ZFC モデル」とする。M[G]ZFCM[G]\models\mathrm{ZFC} で、GG が新しい集合を導入する。

イメージは「無限に続く近似 p0p1p_0\le p_1\le\dots を、MM の中のあらゆる要求(稠密集合)を満たすように選び切って、 新しい対象 GG を作る」。MM は可算なので稠密集合も可算個、それらを1つずつ満たしていけば GG が作れます (存在はベールのカテゴリー的な議論)。決定的なのは強制関係 pφp\Vdash\varphi——「近似 ppφ\varphi を強制する」——が MM の内部で定義できM[G]φ    M[G]\models\varphi\iff ある pGp\in Gpφp\Vdash\varphi、が成り立つこと。これで拡大モデルの性質を 基礎モデルから制御できます。

定理 CHの否定の無矛盾性(コーエン)

2\aleph_2 個の新しい実数を付け加える強制概念で M[G]202M[G]\models 2^{\aleph_0}\ge\aleph_2、すなわち M[G]¬CHM[G]\models\lnot\mathrm{CH}。 基数 1,2\aleph_1,\aleph_2 が拡大で潰れない(基数保存)ことを、強制概念の可算鎖条件で保証する。 ゆえに Con(ZFC)Con(ZFC+¬CH)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC})\Rightarrow\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}+\lnot\mathrm{CH})

定理 連続体仮説の独立性

LL(ゲーデル)と強制法(コーエン)を合わせ、CH\mathrm{CH} は ZFC から独立:ZFC が無矛盾なら、 ZFC+CH\mathrm{ZFC}+\mathrm{CH}ZFC+¬CH\mathrm{ZFC}+\lnot\mathrm{CH} も無矛盾。

強制法は連続体問題を超えて、集合論の独立性証明の万能技法になりました(マーティンの公理、スーサ問題、 さまざまな基数不変量の独立性…)。基礎モデルに“ダイヤルを回して”作りたい宇宙を設計する——集合論が 「複数の可能な宇宙(多宇宙)」を扱う学問になった転換点です。

巨大基数

独立命題を決める“追加公理”の最有力候補が巨大基数公理です。「途方もなく大きい基数の存在」を要請します。

定義 巨大基数の階層

到達不能基数:正則かつ極限で、λ<κ2λ<κ\lambda<\kappa\Rightarrow2^\lambda<\kappa(下からの操作で届かない)。 その上にマーロ基数可測基数κ\kappa 上の非自明な2値測度がある=初等埋め込み j:VMj:V\to M の臨界点)、 ウッディン基数、超コンパクト基数…と、強さの順に一直線に並ぶ階層をなす。

定理 巨大基数と無矛盾性の強さ

到達不能基数 κ\kappa があれば VκZFCV_\kappa\models\mathrm{ZFC} なので Con(ZFC)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}) が従う。第13章より ZFC は Con(ZFC)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}) を証明できないから、ZFC は到達不能基数の存在を証明できない。巨大基数公理は無矛盾性の強さを 真に増やしていく(各々が下の理論の無矛盾性を証明する)。

巨大基数は「無矛盾性の強さの目盛り」として、あらゆる数学的主張の強さを測る標準物差しの役割を果たします。 驚くべきことに、集合論から遠く離れた組合せ論や解析の命題の強さも、この物差しの上に位置づけられます。

決定性公理

選択公理を否定する代わりに、良い性質をもたらす公理もあります。

定義 決定性公理 AD

2人が自然数を交互に無限に選ぶ無限ゲームで、勝敗集合 ANNA\subseteq\mathbb N^{\mathbb N} を決める。AA決定的とは、 どちらかに必勝戦略があること。「すべての AA が決定的」を主張するのが決定性公理(AD)。

注意 AD の帰結と AC との関係

AD は AC と矛盾する(AC を使うと決定的でないゲームが作れる)。だが AD のもとでは、すべての実数集合がルベーグ可測で、 ベールの性質・完全集合性をもつ——測度論の“病的な集合”(ヴィタリ集合)が消える、非常に“行儀の良い”世界になる。 AD 自体は VV 全体では採らないが、L(R)L(\mathbb R)(実数から構成可能な宇宙)では、十分な巨大基数(無限個のウッディン基数)が あれば L(R)ADL(\mathbb R)\models\mathrm{AD} が成り立つ。巨大基数・決定性・内部モデルが深く絡み合う、現代集合論の中心テーマ。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 独立=「真偽が無い」ではない(立場次第)。 形式的には ZFC から決まらないだけ。CH が“本当は”真か偽かは哲学的立場(プラトニズム対形式主義)で見解が分かれる。
  • 強制法は基礎モデルを壊さない。 MM はそのまま、M[G]M[G]外側に作る。MM が可算だから外にジェネリック GG が取れる。
  • 巨大基数は「大きいから存在する」ではない。 存在は ZFC から証明できず、追加公理として要請する。その見返りが無矛盾性の強さと独立命題への決着。
  • L は「本当の宇宙」ではない。 V=LV=L は採用可能な追加公理の一つ。多くの集合論者は巨大基数と両立しない V=LV=L を採らない。

この章のまとめ

  • 第13章より Con(ZFC)\mathrm{Con}(\mathrm{ZFC}) は証明できないので、示すのは相対無矛盾性φ,¬φ\varphi,\lnot\varphi がともに相対的に無矛盾なら φ\varphi独立
  • 構成可能宇宙 L(定義可能な集合だけ)は ZFC+AC+GCH\mathrm{ZFC}+\mathrm{AC}+\mathrm{GCH} のモデルで、CH と AC が反証できないことを示す(ゲーデル)。
  • 強制法は基礎モデルにジェネリック集合を付け加えて拡大モデルを作り、¬CH\lnot\mathrm{CH}証明できないことを示す(コーエン)。合わせて CH は独立
  • 巨大基数は無矛盾性の強さの物差しで、その存在は ZFC で証明できない。決定性公理 AD は AC と矛盾するが、実数集合をすべて可測にする“行儀の良い”宇宙を与え、巨大基数と結びつく。

最終章は、証明とプログラムを同一視する型理論と、定理を証明強度で分類する構成的数学・逆数学へ進みます。