数学の作り方 How to make Mathematics

第3章 外測度とカラテオドリの拡張

どうやって測度を「作る」のか

前章で測度の公理は決めました。でも肝心の——R\mathbb{R} 上で区間 [a,b][a,b] に長さ bab-a を与える、あの ルベーグ測度——を実際に構成するにはどうすればいいでしょう。可測集合の家族もまだ手元にありません。

素朴なアイデアから始めましょう。集合 AA の大きさを測りたい。ならば、AAたくさんの区間で外から覆い、 その区間の長さの合計を見る。覆い方はいろいろあるので、**いちばん無駄のない覆い(下限)**をその集合の大きさと 呼ぶことにする。これはどんな集合 AA にも定義できます。これが外測度です。

定義 ルベーグ外測度

R\mathbb{R} の任意の部分集合 AA に対し、AA を可算個の開区間 Ik=(ak,bk)I_k=(a_k,b_k) で覆う覆い方すべてにわたる下限

μ(A)=inf{k=1(bkak) : Ak=1Ik}\mu^*(A)=\inf\Big\{\sum_{k=1}^\infty (b_k-a_k)\ :\ A\subseteq\bigcup_{k=1}^\infty I_k\Big\}

AAルベーグ外測度という。(Rn\mathbb{R}^n なら区間を「箱」に、長さを「体積」に置き換える。)

外測度の長所は「すべての集合に定義できる」こと。短所は「加法性が壊れる」こと。互いに素な A,BA,B でも μ(AB)=μ(A)+μ(B)\mu^*(A\cup B)=\mu^*(A)+\mu^*(B) が一般には成り立たず、\le(劣加法性)しか言えません。第4章のヴィタリ集合が、 まさにこの等号を破る犯人です。だから外測度はまだ「測度」ではありません。加法性を回復させる工夫が要ります。

外測度=「外から覆う最小コスト」。全集合に定義できるが、可算加法性が壊れている。これを直すのが次の一手。

外測度がもつ性質

まず外測度が最低限の良い性質をもつことを確認します。これらは定義から素直に出ます。

定理 外測度の性質

ルベーグ外測度 μ\mu^* は次をみたす。

  1. μ()=0\mu^*(\varnothing)=0
  2. 単調性ABμ(A)μ(B)A\subseteq B\Rightarrow\mu^*(A)\le\mu^*(B)
  3. 可算劣加法性μ(nAn)nμ(An)\mu^*\big(\bigcup_n A_n\big)\le\sum_n\mu^*(A_n)
  4. 区間については μ([a,b])=ba\mu^*([a,b])=b-a(長さと一致)。

証明

(2) BB の覆いは AA の覆いでもあるから、下限をとる範囲が広い分 μ(A)μ(B)\mu^*(A)\le\mu^*(B)(3) 任意の ε>0\varepsilon>0 に対し、各 AnA_n を長さ和が μ(An)+ε/2n\mu^*(A_n)+\varepsilon/2^n 以下の区間列で覆う。 それら全部を合わせれば An\bigcup A_n の覆いになり、長さ和は μ(An)+ε\sum\mu^*(A_n)+\varepsilon 以下。ε0\varepsilon\downarrow0 で結論。 (4) 覆いをうまく取れば ba\le b-a。逆向き(\ge)はコンパクト性(有限被覆に落とす、ハイネ・ボレル)を使い、 覆う区間の長さ和が bab-a を下回れないことを示す。∎

(3) の証明に出た「ε/2n\varepsilon/2^n を各項に割り振り、合計を ε\varepsilon に収める」——これは測度論の 万能テクニックです。可算個の誤差を、等比級数 ε/2n=ε\sum \varepsilon/2^n=\varepsilon で吸収する。今後何度も現れます。

カラテオドリの妙手:可測性を「割り方」で定義する

さて、外測度から加法性を回復させ、「良い集合」だけを選び出したい。カラテオドリのアイデアは驚くほど巧妙です。

EE が良い集合とは、どんな相手 AA を持ってきても、EEAA を過不足なくきれいに二分する ことだ」——つまり EE の内側と外側で AA を割ったとき、外測度が足し算になる、と定義するのです。

定義 カラテオドリ可測

集合 ERE\subseteq\mathbb{R} が(μ\mu^* に関して)可測であるとは、任意の集合 AA(テスト集合)に対して

μ(A)=μ(AE)+μ(AEc)\mu^*(A)=\mu^*(A\cap E)+\mu^*(A\cap E^c)

が成り立つこと。可測集合全体を M\mathcal{M} と書く。

劣加法性から \le は常に成り立つので、実質は \ge、すなわち「EE で割っても外測度が水増しされない」が条件です。 直感的には、EE の境界が“ギザギザ過ぎず”、どんな集合もきれいに内外へ切り分けられる、ということ。

なぜこの定義がうまくいくのか。天下り的に見えますが、狙いは明快です——この条件をみたす集合だけ集めれば、 自動的にσ-加法族になり、その上で μ\mu^* が可算加法的になる。加法性が壊れていた外測度を、加法性が回復する 集合だけに制限する。その「制限してよい集合」を選ぶ物差しが、上の割り方条件なのです。

カラテオドリの拡張定理

定理 カラテオドリの拡張定理

μ\mu^* を外測度、M\mathcal{M} をカラテオドリ可測集合の全体とする。このとき

  1. M\mathcal{M}σ-加法族である。
  2. μ\mu^*M\mathcal{M} に制限した μ:=μM\mu:=\mu^*|_{\mathcal{M}}測度である(可算加法的)。
  3. μ(N)=0\mu^*(N)=0 なる集合 NN は必ず M\mathcal{M} に属する(完備性:零集合の部分集合も可測)。

証明の骨格だけ追います(各段が「割り方条件」を機械的に使うだけで進むのが気持ちよいところ)。

証明

M\mathcal{M} は補集合で閉じる:定義が EEEcE^c について対称だから明らか。M\varnothing\in\mathcal{M} も明らか。

有限和で閉じるE1,E2ME_1,E_2\in\mathcal{M} とする。テスト集合 AAE1E_1 の割り方条件、続いて各片に E2E_2 の割り方条件を 当てはめて整理すると、μ(A)=μ(A(E1E2))+μ(A(E1E2)c)\mu^*(A)=\mu^*(A\cap(E_1\cup E_2))+\mu^*(A\cap(E_1\cup E_2)^c) が出て E1E2ME_1\cup E_2\in\mathcal{M}。 帰納法で有限和・有限交叉で閉じる(差も)。よって M\mathcal{M}有限加法族

互いに素な有限和で加法性E1,,EnME_1,\dots,E_n\in\mathcal{M} が互いに素なら、テスト集合を E1E_1 で割る操作を繰り返して μ(AknEk)=knμ(AEk)\mu^*\big(A\cap\bigcup_{k\le n}E_k\big)=\sum_{k\le n}\mu^*(A\cap E_k) を得る(A=RA=\mathbb{R} で通常の有限加法性)。

可算和で閉じる+可算加法性:互いに素な E1,E2,ME_1,E_2,\dots\in\mathcal{M}(一般の和は前章のように素へ組み替え)に対し、 Sn=knEk, S=kEkS_n=\bigcup_{k\le n}E_k,\ S=\bigcup_k E_k とおく。SnMS_n\in\mathcal{M} と上の有限加法性から、任意の AA

μ(A)=μ(ASn)+μ(ASnc)  knμ(AEk)+μ(ASc)\mu^*(A)=\mu^*(A\cap S_n)+\mu^*(A\cap S_n^c)\ \ge\ \sum_{k\le n}\mu^*(A\cap E_k)+\mu^*(A\cap S^c)

SncScS_n^c\supseteq S^c と単調性を使った)。nn\to\infty とし、右辺の和に劣加法性を逆用すると μ(A)μ(AS)+μ(ASc)μ(A)\mu^*(A)\ge\mu^*(A\cap S)+\mu^*(A\cap S^c)\ge\mu^*(A)。よって等号成立で SMS\in\mathcal{M}。さらに A=SA=S とおけば μ(S)=kμ(Ek)\mu^*(S)=\sum_k\mu^*(E_k)、すなわち可算加法性

完備性μ(N)=0\mu^*(N)=0 とする。任意の AA に対し単調性より μ(AN)μ(N)=0\mu^*(A\cap N)\le\mu^*(N)=0、また μ(ANc)μ(A)\mu^*(A\cap N^c)\le\mu^*(A)。よって μ(AN)+μ(ANc)μ(A)\mu^*(A\cap N)+\mu^*(A\cap N^c)\le\mu^*(A) で、逆は劣加法性。NMN\in\mathcal{M}。∎

要点は「SnS_n で割る不等式を積み上げ、nn\to\infty で締める」一箇所。有限で成り立つ加法性を、極限で可算加法性に 持ち上げる——測度を“作る”ときの典型的な運びです。この定理のおかげで、私たちは外測度さえ用意すれば、 可測集合の家族(σ-加法族)と可算加法的な測度を同時に・自動で手に入れられます。

注意 完備性という嬉しいおまけ

(3) の完備性は地味だが重要。「大きさ 00 の集合の中身は、どの部分集合も測れて大きさ 00」。これにより 「ほとんどいたるところ(測度 00 の例外を除いて)」という言い回し(第5章)が安全に使える。ボレル集合族だけだと この完備性が保証されず、そこを補ったのがルベーグ可測集合族 M\mathcal{M}(次章)。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • カラテオドリ条件の AA は「任意のテスト集合」。 E,EcE,E^c という特定の相手ではなく、あらゆる AA で割り算が 成り立つことを要求する。この「任意の相手できれいに割れる」強さが、σ-加法族と加法性を生む。
  • 外測度は測度ではない。 全集合に定義できるが可算加法性がない。可測集合に制限して初めて測度になる。
  • 劣加法性 \le はタダ、等号 == が本質。 可測性の証明は毎回「\ge を示せば ==」に帰着する。\le は外測度が 最初から持っている。
  • ε/2n\varepsilon/2^n 分割は覚える価値がある。 可算個の誤差を有限に抑える万能技。劣加法性・正則性・後の稠密性で頻出。

この章のまとめ

  • 外測度 μ\mu^*:集合を可算個の区間で外から覆う最小コスト。全集合に定義できるが可算加法性が壊れている。単調性・可算劣加法性をもつ。
  • カラテオドリ可測:「任意のテスト集合 AAEE で割ると外測度が足し算になる」。この物差しで良い集合を選ぶ。
  • カラテオドリの拡張定理:可測集合の全体 M\mathcal{M} は自動的にσ-加法族になり、μM\mu^*|_\mathcal{M} は可算加法的な測度、しかも完備。外測度から測度が“生える”。
  • 次章は、この一般論を Rn\mathbb{R}^n に適用してルベーグ測度を確定させ、正則性を調べ、そして「測れない集合」ヴィタリ集合を実際に作ります。

次章では、区間の長さから生まれるルベーグ測度の姿(正則性・平行移動不変性)を確かめ、選択公理が生む非可測集合と対面します。