数学の作り方 How to make Mathematics

第8章 収束の諸相 — エゴロフとルジン

「近づく」にも種類がある

前章で「fnff_n\to f」を当たり前のように使いましたが、実は関数列の「近づき方」には流儀がいくつもあります。 各点でバラバラに近づくのか、全体が足並みそろえて近づくのか、平均値として近づくのか——。これらは別物で、 どれかが成り立ってもほかは成り立たないことがある。この章では、その関係を整理する地図を描き、離れた流儀を 橋渡しする二つの美しい定理(エゴロフ・ルジン)を手に入れます。

まず四つの流儀を、意味から導入します。

定義 収束の四つの流儀

測度空間上の可測関数列 fnf_nff について、

  • 各点収束:各 xxfn(x)f(x)f_n(x)\to f(x)。点ごとに勝手なペースでよい。
  • 一様収束supxfn(x)f(x)0\sup_x|f_n(x)-f(x)|\to0。全点が足並みそろえて近づく(いちばん強い)。
  • 測度収束:任意の ε>0\varepsilon>0μ({x:fn(x)f(x)ε})0\mu(\{x:|f_n(x)-f(x)|\ge\varepsilon\})\to0。 「大きくズレる点の“面積”が消える」。
  • L1L^1 収束(平均収束)fnfdμ0\int|f_n-f|\,d\mu\to0。ズレの総量(面積)が消える。

一様収束がいちばん強く、そこから各点収束は明らか。難しいのは残り——各点・測度・L1L^1 の三者の関係です。

収束の地図:どれがどれを導くか

結論を先に地図で示します(有限測度・a.e. などの但し書きに注意)。

定理 収束の相互関係

  1. 一様収束 \Rightarrow 各点収束。有限測度なら一様収束 L1\Rightarrow L^1 収束。
  2. L1L^1 収束 \Rightarrow 測度収束(チェビシェフの不等式)。
  3. 測度収束 \Rightarrow ある部分列が a.e. 各点収束。
  4. どれも一般には逆が成り立たない(下の反例)。各点収束は測度収束すら導かない(無限測度では)。

(2) の証明は一行で、しかも頻用の道具です。

定理 チェビシェフ(マルコフ)の不等式

f0f\ge0 可測、λ>0\lambda>0 に対し

μ({x:f(x)λ})  1λfdμ.\mu(\{x: f(x)\ge\lambda\})\ \le\ \frac1\lambda\int f\,d\mu.

証明

A={fλ}A=\{f\ge\lambda\} 上で fλf\ge\lambda だから fAfλμ(A)\int f\ge\int_A f\ge\lambda\,\mu(A)。両辺を λ\lambda で割る。∎

これを fnf|f_n-f| に当てると、μ({fnfε})1εfnf0\mu(\{|f_n-f|\ge\varepsilon\})\le\frac1\varepsilon\int|f_n-f|\to0。つまり L1L^1 収束すれば測度収束。「平均のズレが消えれば、大きくズレる面積も消える」——自然な含意です。

注意 逆が破れる反例のカタログ

  • 各点収束するが L1L^1 収束しない:前章の逃げる山 fn=1[n,n+1]f_n=\mathbf{1}_{[n,n+1]}。各点 0\to0 だが fn=1\int|f_n|=1
  • L1L^1 収束するが各点収束しない[0,1][0,1] 上の「歩き回る区間」1[j/2k,(j+1)/2k]\mathbf{1}_{[j/2^k,(j+1)/2^k]}kk ごとに 並べた列。0\int\to0L1L^1 収束)だが、どの点も 0011 を無限回とり各点収束しない。ただし 部分列は a.e. 収束((3) の実例)。
  • 測度収束するが a.e. 収束しない:上と同じ列。だが部分列を選べば a.e. 収束する。

エゴロフの定理:各点収束は「ほとんど一様」

各点収束は一様収束より弱い。でも有限測度なら、ほんの少し(測度 ε\varepsilon だけ)集合を捨てれば、残りでは一様 収束にできる——これがエゴロフの驚きです。各点のバラバラなペースは、ごく小さな“悪い集合”に押し込められる。

定理 エゴロフの定理

μ(X)<\mu(X)<\infty とし、fnff_n\to f a.e. とする。任意の ε>0\varepsilon>0 に対し、可測集合 EEμ(XE)<ε\mu(X\setminus E)<\varepsilon かつ EE 上で fnff_n\to f一様収束となるものが存在する。

証明

En,k={x:fj(x)f(x)<1/k (jn)}E_{n,k}=\{x:|f_j(x)-f(x)|<1/k\ (\forall j\ge n)\} とおく。各 kk を固定すると nn につれ En,kE_{n,k}\uparrow で、 a.e. 収束より μ(XnEn,k)=0\mu\big(X\setminus\bigcup_n E_{n,k}\big)=0μ(X)<\mu(X)<\infty ゆえ上からの連続性で、nkn_k を大きく 選べば μ(XEnk,k)<ε/2k\mu(X\setminus E_{n_k,k})<\varepsilon/2^k にできる。E=kEnk,kE=\bigcap_k E_{n_k,k} とおくと、劣加法性で μ(XE)kε/2k=ε\mu(X\setminus E)\le\sum_k\varepsilon/2^k=\varepsilonEE 上では、任意の kkjnkfjf<1/kj\ge n_k\Rightarrow|f_j-f|<1/k が全点一斉に成り立つので一様収束。∎

またしても ε/2k\varepsilon/2^k の割り振り(第3章)が主役。「各 kk ごとの悪い集合を ε/2k\varepsilon/2^k に抑え、可算個を 合計 ε\varepsilon に収める」。μ(X)<\mu(X)<\infty が上からの連続性に必要で、無限測度では成り立ちません(逃げる山が反例)。

ルジンの定理:可測関数は「ほとんど連続」

もう一つの橋渡し。可測関数は連続とは限らない(ディリクレ関数!)のに、ほんの少し集合を捨てれば、残りでは 連続にできる。「可測 = ほとんど連続」という、可測関数の正体を突く定理です。

定理 ルジンの定理

f:[a,b]Rf:[a,b]\to\mathbb{R} を可測(有限値 a.e.)とする。任意の ε>0\varepsilon>0 に対し、コンパクト集合 K[a,b]K\subseteq[a,b]μ([a,b]K)<ε\mu([a,b]\setminus K)<\varepsilon かつ fKf|_K連続となるものが存在する。

証明の筋は、単関数近似(第5章)でまず階段関数に、正則性(第4章)で各段の台を閉集合で内側近似し、エゴロフで 一様収束にして連続性を残す集合へ落とす、という合わせ技です。三つの定理が一本に編まれる、この分野の総合問題の ような結果です。

注意 ディリクレ関数で味わう

ディリクレ関数 DD は至る所不連続。だが有理数全体は測度 00 だから、それを(開集合で)ほんの少し捨てれば、 残りの無理数上で D0D\equiv0——連続。「可測なら、悪い所は小さな集合に隔離できる」というルジンの心が、ここに 凝縮されている。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 各点収束 ≠ 一様収束 ≠ L1L^1 収束 ≠ 測度収束。 四つは別物。逆向きの含意はたいてい偽(反例カタログを参照)。
  • 測度収束から得られるのは「部分列の a.e. 収束」。 列そのものが a.e. 収束するとは限らない(歩き回る区間)。
  • エゴロフ・ルジンは有限測度(or 有界区間)が前提。 無限測度では捨てきれない悪さが残る。μ(X)<\mu(X)<\infty が 上からの連続性に効く。
  • 「ほとんど一様/ほとんど連続」の“ほとんど”は測度の意味。 捨てる集合は測度 ε\varepsilon で小さいが、点の 個数としては非可算のことも(測度と濃度は別、第4章)。

この章のまとめ

  • 収束には**各点・一様・測度・L1L^1**の四流儀。一様が最強、L1L^1\Rightarrow測度(チェビシェフ)、測度\Rightarrow部分列がa.e.収束。逆は概ね偽。
  • チェビシェフの不等式μ({fλ})1λf\mu(\{f\ge\lambda\})\le\frac1\lambda\int f。収束の含意も裾の評価も生む万能道具。
  • エゴロフ:有限測度で各点収束は「ε\varepsilon だけ捨てれば一様収束」。ルジン:可測関数は「ε\varepsilon だけ捨てれば連続」。可測性の正体は“ほとんど良い”。
  • Part II(関数と積分)はここまで。次章から Part III の応用編——まず多重積分を測度論で立て直し、積分順序の交換を保証するフビニ–トネリの定理へ。

次章では、二つの測度空間の「積」を作り、二重積分を逐次積分に分解してよい条件——フビニ–トネリの定理——を証明します。