数学の作り方 How to make Mathematics

第7章 楕円型の正則性

ここまでで「弱解は存在する」ことは示しました。でも弱解は H1H^1 の関数——せいぜい一階の弱微分を持つだけで、 連続かどうかも怪しい代物です。ところが楕円型方程式には驚くべき性質があります。弱解は、方程式のおかげで 勝手に滑らかになる。右辺 ff が滑らかなら、弱解 uu は何回でも微分できる古典解に化ける。「存在は弱く示して、 滑らかさは方程式から回収する」——この二段構えが発展 PDE の完成形です。

直感:ラプラシアンは「二階分の情報」を握っている

なぜ滑らかになるのか。Δu=f-\Delta u=f を眺めます。左辺は uu二階微分の総和。もし右辺 ffL2L^2 に 入っていれば、「uu の二階微分の(ある種の)組み合わせが L2L^2」という情報が得られる。楕円型の要点は、 Δ\Delta が二階微分すべてを制御していること——一部の組み合わせだけでなく、iju\partial_i\partial_j u の 全成分が ff と同じ良さ(L2L^2)を持つと結論できるのです。これを不等式で書いたのが楕円型評価です。

定理 楕円型評価(内部・L² 版)

Δu=f-\Delta u=f を(弱い意味で)満たし fL2(Ω)f\in L^2(\Omega) ならば、uu は局所的に H2H^2 に属し、 ΩΩ\Omega'\Subset\Omega(内部にすっぽり入る領域)上で uH2(Ω)C(fL2(Ω)+uL2(Ω)).\|u\|_{H^2(\Omega')}\le C\big(\|f\|_{L^2(\Omega)}+\|u\|_{L^2(\Omega)}\big). つまり「右辺の良さ fL2f\in L^2 が、解の二階微分の良さ uH2u\in H^2そっくり移る」。

「方程式の右辺が kk 階分滑らかなら、解は k+2k+2 階分滑らか」。二階の楕円型作用素が、微分を二階分 持ち上げてくれる。この「+2+2」が正則性理論のエンジンです。

仕組み:差分商で微分を一段持ち上げる

なぜ二階微分まで L2L^2 に入ると言えるのか。証明の心臓は差分商という技法です。微分そのものを扱う代わりに、 ずらし商 Dhku(x)=u(x+hek)u(x)hD_h^k u(x)=\dfrac{u(x+he_k)-u(x)}{h}(差分による近似微分)を考えます。差分商は「本物の微分」ではないので uu が滑らかでなくても計算でき、しかも次の便利な性質を持ちます。

  • 有界性から微分可能性へ。 もし DhkuL2\|D_h^k u\|_{L^2}h0h\to0 で一様に有界なら、uukk 方向の弱微分 kuL2\partial_k u\in L^2 を持つ(弱コンパクト性で DhkukuD_h^k u\rightharpoonup\partial_k u)。「差分商が暴れずに有界なら、 本物の微分が生まれる」。
  • 部分積分と相性が良い。 差分商は離散版の部分積分規則を満たすので、弱形式にそのまま代入できる。

証明

弱形式 uφ=fφ\int\nabla u\cdot\nabla\varphi=\int f\varphi で、試験関数を φ=Dhk(ζ2Dhku)\varphi=-D_h^{-k}(\zeta^2 D_h^k u)ζ\zetaΩ\Omega' に台を持つ切り取り関数)と選ぶ。左辺を差分商の部分積分で整理すると ζ2Dhku2\int\zeta^2|D_h^k\nabla u|^2 という正の量が主要項として現れ、右辺は fL2\|f\|_{L^2}uL2\|\nabla u\|_{L^2} で 上から抑えられる。ヤングの不等式で吸収すると、hh によらず DhkuL2(Ω)C(fL2+uL2).\|D_h^k\nabla u\|_{L^2(\Omega')}\le C(\|f\|_{L^2}+\|u\|_{L^2}). 差分商が一様有界だから、u\nabla u はもう一階弱微分を持つ、すなわち uHloc2u\in H^2_{\mathrm{loc}}。各方向 kk で 繰り返して全二階微分を得る。

からくりを一言で。「弱形式に差分商をテスト関数として代入すると、解の一段上の微分の L2L^2 ノルムが右辺で 抑えられる。差分商が有界だから、本物の微分が一段生える」。楕円型(強圧性)が主要項を正に保つのが効いています。

ブートストラップ:滑らかさを無限に持ち上げる

一段持ち上げられるなら、それを繰り返せばよい。これがブートストラップ(自分の靴ひもで 自分を持ち上げる)と呼ばれる論法です。

定理 内部正則性(ブートストラップ)

Δu=f-\Delta u=f の弱解について、fHlockf\in H^k_{\mathrm{loc}} ならば uHlock+2u\in H^{k+2}_{\mathrm{loc}}。 とくに fCf\in C^\infty ならば uCu\in C^\infty(内部で)。

証明

fL2f\in L^2 から上の評価で uH2u\in H^2。方程式を一階微分すると Δ(iu)=if-\Delta(\partial_i u)=\partial_i fifL2\partial_i f\in L^2fH1f\in H^1 のとき)だから、同じ評価を iu\partial_i u に適用して iuH2\partial_i u\in H^2、すなわち uH3u\in H^3ff の滑らかさが許す限りこれを繰り返し、fHkuHk+2f\in H^k\Rightarrow u\in H^{k+2}kk を上げ続け、ソボレフ埋め込み (第3章:階数が次元の半分を超えれば連続)で uCu\in C^\infty

「一段上げる評価」+「方程式を微分してまた適用」の反復で、滑らかさが天井知らずに上がっていく。前章で H1H^1 の弱解として存在だけを保証したものが、この章で古典解に格上げされる。存在証明と正則性理論、 二つを合わせて初めて「古典的な意味での解が確かに在る」と言い切れます。

ワイルの補題:調和なら文句なしに滑らか

正則性のいちばん鮮やかな特別ケースを紹介します。

定理 ワイルの補題

uLloc1(Ω)u\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)ΩuΔφdx=0\int_\Omega u\,\Delta\varphi\,dx=0φCc\forall\varphi\in C_c^\infty)を満たすなら、 uu は(ほとんどいたるところ)CC^\infty の調和関数に等しい。

「超関数の意味でラプラス方程式を満たす」だけの、微分できるかも怪しい uu が、実は CC^\infty の正真正銘の 調和関数だった——これは第4章で「調和関数は自動で CC^\infty」と述べたことの、弱解版の精密化です。証明は f=0f=0 のブートストラップ、あるいは軟化子 uρεu*\rho_\varepsilon が平均値性から uu 自身に一致することを使います。

楕円型に特有であること——境目を知る

この「解が右辺より二階滑らか」という現象は楕円型に固有です。次章以降の熱方程式(放物型)は時間方向には 一階分しか滑らかさを持ち上げず、空間方向でだけ平滑化する。波動方程式(双曲型)にいたっては 滑らかさを一切上げない——初期値の角はそのまま特異性として伝わっていきます(第10章)。

注意 つまずきポイント

  • 正則性は「内部」と「境界まで」で難易度が違う。上の話は内部正則性。境界まで滑らかにするには境界の 滑らかさとトレースの扱いが要る(境界正則性)。まず内部で押さえるのが常道。
  • 差分商は「本物の微分の代用品」。滑らかでない uu にも使え、有界性を通して本物の微分を生む。微分を 直接扱えないときの迂回路。
  • 正則性は方程式の型に依存。「解は右辺より滑らか」は楕円型の特権。放物型・双曲型では平滑化の効き方が まるで違う——型の違いはここに集約される。

この章のまとめ

  • 楕円型では弱解が自動的に滑らかになる:右辺 ffkk 階滑らかなら解は k+2k+2 階滑らか。Δ\Delta が 二階微分すべてを制御するのが源。
  • 仕組みは差分商:弱形式に差分商をテスト関数として代入し、一段上の微分の L2L^2 評価を得る。差分商の 有界性が本物の微分を生む。
  • ブートストラップ(一段評価+方程式を微分して反復)で滑らかさを無限に持ち上げ、fCuCf\in C^\infty\Rightarrow u\in C^\infty。存在(前章)+正則性(本章)で古典解の存在が完成。
  • ワイルの補題はその調和版。正則性は楕円型に固有で、放物型・双曲型とは平滑化の様子が本質的に異なる。

楕円型の物語(存在・一意・正則性)はこれで一巡しました。次章は楕円型のもう一つの顔——グリーン関数で 解を積分表示し、ラプラシアンのスペクトル(固有値・固有関数)を調べます。有限次元の対角化が無限次元へ拡張します。