第10章 二階線形PDEの分類と波動方程式
二階PDEには、3つの「性格」がある
自然界の基本法則の多くは、二階の偏微分方程式です。波の伝播(波動方程式)、熱の拡散(熱方程式)、静電場や 定常状態(ラプラス方程式)——これら3つが二階線形PDEの代表選手です。そして驚くべきことに、二階線形PDEは たった3つの型に分類されます:双曲型・放物型・楕円型。
この分類は二次形式の分類(正定値・不定符号…)とまったく同じ原理——係数の判別式で決まります。 そして型が違えば、解の性質も、適切な境界条件も、解法も、根本的に異なる。波動(双曲)は情報を有限速度で運び振動を 保つ、熱(放物)はなめらかに拡散する、ラプラス(楕円)は最も滑らかな平衡状態。型を見れば、方程式の“性格”が 分かるのです。この章では分類の原理を示し、双曲型の代表——波動方程式のダランベール解を導きます。
二階線形PDEは判別式 で双曲・放物・楕円の3型に分類(二次形式と同じ)。型が解の性格を決める。
分類
定義 二階線形PDEの分類
2変数二階線形PDE を、判別式 の符号で分類する( は係数):
- :双曲型(hyperbolic)——波動方程式 。
- :放物型(parabolic)——熱方程式 。
- :楕円型(elliptic)——ラプラス方程式 。
この分類が二次形式と同じなのは偶然ではありません。主要部 は、記号的に 行列 の二次形式 に 対応し、その行列の固有値の符号(=シルヴェスターの慣性法則)が型を決めるからです。固有値が 異符号なら双曲(円錐曲線でいう双曲線)、片方 なら放物、同符号なら楕円——円錐曲線の分類との名前の一致も ここから来ます。
例 3つの型の性格
| 型 | 代表 | 性格 |
|---|---|---|
| 双曲 | 波動 | 有限速度で伝播、振動を保つ、特性線あり |
| 放物 | 熱 | 無限速度で拡散、瞬時に滑らかに、不可逆 |
| 楕円 | ラプラス | 平衡状態、最も滑らか、最大値原理 |
型ごとに、適切な境界条件も違います。波動・熱(時間発展)は初期条件、ラプラス(平衡)は境界値。型を 取り違えた条件を課すと、解が存在しなかったり一意でなかったりする(適切性、発展的PDE)。
波動方程式とダランベール解
双曲型の代表、波動方程式 (弦の振動、音波、光)を解きます。特性線を使った鮮やかな解法があります。
定理 ダランベールの公式
無限に長い弦の波動方程式 ()に、初期条件 、 を課すと、解は
証明
波動作用素は因数分解できる:。特性座標 に 変換すると、方程式は になる。これを積分すると (右進行波+左進行波)。 初期条件 、 を解いて を定めると上の公式。∎
「波動方程式の解は、右へ進む波 と左へ進む波 の重ね合わせ」。波動作用素が と因数分解でき、各因子が前章の輸送方程式(速度 )だからです。 初期の変位 は半分ずつ左右に分かれて進み、初速 は積分の形で広がる。
注意 有限伝播速度と特性線
点 の解は、初期時刻の区間 (依存領域)だけで決まる。すなわち情報は速度 を超えて 伝わらない(有限伝播速度)——双曲型の本質的な性質で、相対論の因果律とも響き合う。特性線 一定 が 情報の伝わる道。放物型(熱)が無限速度で拡散するのと対照的。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 型は判別式 で決まる。 二次形式の固有値の符号と同じ。双曲(異符号)・放物(片方 )・楕円(同符号)。円錐曲線の名前の由来。
- 型ごとに適切な境界条件が違う。 波動・熱は初期値問題、ラプラスは境界値問題。取り違えると適切性が崩れる。
- 波動方程式は左右の進行波の和。 ダランベール 。作用素の因数分解=輸送方程式の積。
- 双曲型は有限伝播速度。 依存領域 。情報が を超えない。熱(放物)は無限速度で対照的。
この章のまとめ
- 二階線形PDEは判別式 で 双曲・放物・楕円 に分類(二次形式の固有値の符号と同じ原理)。型が解の性格・適切な境界条件・解法を決める。
- 双曲型(波動)は有限速度伝播・振動保持、放物型(熱)は無限速度拡散・平滑化、楕円型(ラプラス)は最も滑らかな平衡。
- 波動方程式 は作用素の因数分解でダランベール解 (左右の進行波)。依存領域による有限伝播速度。
次章は、放物型(熱方程式)と楕円型(ラプラス方程式)の性質——平滑化・最大値原理・平均値性を扱います。