第8章 ガロア拡大とガロア群
体の「対称性の群」を取り出す
いよいよガロア理論の中心概念です。群論で対称性を群として抜き出したように、体の拡大 の 「対称性」—— を固定したまま を自分自身に写す入れ替え——を群として取り出します。これがガロア群です。
なら、 の2つの入れ替えがガロア群 。 この群が、拡大の構造を完全に映します。ただし、ガロア群が拡大次数ぶんの大きさ()をもつには、 正規(第6章)かつ分離(第7章)——ガロア拡大であることが必要十分。この章で ガロア群を定義し、その大きさを決定し、次章の基本定理(中間体 ↔ 部分群の完全対応)への舞台を整えます。
ガロア拡大 = 正規かつ分離な有限拡大。そのとき で、 の -固定体は ちょうど。
ガロア群
定義 K-自己同型・ガロア群
拡大 の-自己同型とは、 を固定する体自己同型 ()。 -自己同型全体は合成で群をなし、自己同型群 という。 がガロア拡大(後述)のとき、これをガロア群 と書く。
-自己同型 は、 をその共役(同じ最小多項式の根)へ写します()。 だから の大きさは、根の入れ替えの数——前章の埋め込みの個数で上から抑えられます。
命題 自己同型群の大きさ
有限拡大 について 。
証明
-自己同型 は、特に -埋め込み (像が に収まるもの)ゆえ、その個数は埋め込みの個数 以下。 前章より 。∎
等号 はいつ成り立つか。分離性()に加えて、埋め込みがすべて に収まる =正規性(第6章)が要ります。この2条件を満たすのがガロア拡大です。
ガロア拡大
定義 ガロア拡大
有限拡大 がガロア拡大とは、正規かつ分離であること。同値な条件: 。このとき と書く。
定理 ガロア拡大の同値条件
有限拡大 について、次は同値:
- は正規かつ分離(ガロア)。
- 。
- は 上の分離的多項式の分解体。
- ( の全元が固定する元は だけ)。
証明
条件 (4) が実用的です。「固定体がちょうど 」——群の作用で動かない元が基礎体だけ、というのがガロア拡大の 本質的な特徴。これを保証するのがアルティンの定理です。
固定体とアルティンの定理
定義 固定体
の自己同型の群 に対し、 の全元が固定する元の集合 を 固定体という( の部分体)。
定理 アルティンの定理
を体、 を の自己同型のなす有限群とする。 とおくと、 はガロア拡大で
証明
(要点。):任意の に対し、軌道 (相異なる元 、)から を作ると、 は で不変ゆえ係数が にあり、 の 上最小多項式は を割る分離多項式で 次数 。ゆえ各元は 上次数 で、 は分離・正規(共役が全て軌道内= 内)で 。 逆 : の相異なる 個の自己同型が 上一次独立(デデキントの補題:相異なる指標は一次独立)ゆえ 。合わせて 。 かつ大きさが で一致。∎
アルティンの定理は「群 から出発して固定体 をとれば、 がちょうど をガロア群にもつガロア拡大になる」 と言います。群 → 体の方向の対応を確立するもので、次章の基本定理(中間体と部分群の一対一対応)の 決定的な半分です。とくに「」がガロア対応の“次数=位数”を保証します。
例 ガロア群の計算例
- :。
- : の独立な選択で 。次数 。
- の分解体 : つの根の置換で 。次数 。 これらの束構造は次章のインタラクティブで可視化する。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- ガロア拡大=正規+分離。 片方だけでは不十分。 は分離だが非正規ゆえ非ガロア()。標数 では分離は自動なので、実質「正規=ガロア」。
- ガロア群の元は を固定し、根を共役に写す。 は 係数を動かさず、 を同じ最小多項式の根へ。
- はガロアのときだけ。 一般は 。等号がガロアの定義(同値条件の一つ)。
- アルティン:群から固定体をとると必ずガロア。 。デデキントの補題(指標の一次独立)が下からの評価の鍵。
この章のまとめ
- -自己同型群 は を固定し根を共役へ写す。。
- ガロア拡大 = 正規かつ分離 分離的多項式の分解体 。標数 では正規=ガロア。
- アルティンの定理:自己同型の有限群 から 、。群 → 固定体の対応を確立(次章の基本定理の半分)。
いよいよ次章は、この分野の頂点——ガロア理論の基本定理(中間体と部分群の完全な対応)を証明します。