数学の作り方 How to make Mathematics

第6章 正規拡大

「片方の根だけ」では対称性が壊れる

Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2) を考えます。これは x32x^3-2 の根 23\sqrt[3]2 を含みますが、他の2根 ω23,ω223\omega\sqrt[3]2,\omega^2\sqrt[3]2(複素数)は 含みません。すると困ったことが起きる——「23ω23\sqrt[3]2\mapsto\omega\sqrt[3]2」という根の入れ替えは、行き先が体の外なので 自己同型にならない。片方の根しか無いと、体の対称性(ガロア群)が痩せてしまうのです。

ガロア理論がうまく働くには、「KK 係数の既約多項式が根を一つ含むなら、全部の根を含む」という条件が要ります。 これが正規拡大です。正規性は「分解体である」ことと同値で、「どんな埋め込みも体を自分自身に写す」とも言い換えられる。 次章の分離性とあわせて、正規かつ分離な拡大=ガロア拡大第8章)が、理論の主役になります。

正規拡大 =「KK 上既約な多項式が LL に根を1つもてば、LL で完全分解する」= ある多項式族の分解体。

正規拡大の定義

定義 正規拡大

代数拡大 L/KL/K正規とは、LL に根を1つでももつ K[x]K[x] の既約多項式が、LL 内で完全に一次式に分解すること。 (= LL の各元の KK 上共役がすべて LL に入る。)

「1つ根が入れば、共役の根も全部入る」——Q(2)\mathbb Q(\sqrt2)x22x^2-2 の両根 ±2\pm\sqrt2 を含むので正規、 Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2)x32x^3-2 の1根しか含まないので正規でない。有限拡大では、正規性は「分解体であること」と一致します。

定理 正規性 ⇔ 分解体

有限拡大 L/KL/K について、次は同値:

  1. L/KL/K は正規。
  2. LL はある多項式 fK[x]f\in K[x] の(KK 上の)分解体。

証明

(1)⇒(2)L=K(α1,,αn)L=K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)(有限拡大ゆえ有限生成、各 αi\alpha_i 代数的)。各 αi\alpha_i の最小多項式 mim_i は 正規性より LL で完全分解する。f=m1mnf=m_1\cdots m_n とおくと、ffLL で分解し、その根が LL を生成する(αi\alpha_i を含む)ので、 LLff の分解体。 (2)⇒(1)LLff の分解体とし、pK[x]p\in K[x] 既約が LL に根 α\alpha をもつとする。pp の別の根 β\beta(代数閉包内)をとり、 L(β)L(\beta) を考える。第2章の共役同型 σ:K(α)K(β), αβ\sigma:K(\alpha)\to K(\beta),\ \alpha\mapsto\beta を、第4章の同型延長定理σ~:L(α)L(β)\tilde\sigma:L(\alpha)\to L(\beta)== 分解体どうし)に延ばす。σ~\tilde\sigmaff の根の集合を保つので σ~(L)=L\tilde\sigma(L)=L、 ゆえ β=σ~(α)σ~(L)=L\beta=\tilde\sigma(\alpha)\in\tilde\sigma(L)=L。よって pp の全根が LL に入り、L/KL/K は正規。∎

証明の (2)⇒(1) が第4章の同型延長定理を使う要所です。「分解体は同型で自分に写る」ことが、 「根が1つ入れば全部入る」を保証する。この論法が次の埋め込みによる特徴づけに繋がります。

埋め込みによる特徴づけ

正規性を「KK-埋め込み(KK を固定する体の準同型)」の言葉で言い換えると、ガロア群の議論に直結します。

定理 正規性 ⇔ 埋め込みが安定

代数拡大 L/KL/KK\overline K を代数閉包)について、次は同値:

  1. L/KL/K は正規。
  2. KK を固定する任意の埋め込み σ:LK\sigma:L\to\overline K は、σ(L)=L\sigma(L)=LLL を自分自身に写す)。

証明

(1)⇒(2)σ:LK\sigma:L\to\overline KKK-埋め込みとする。αL\alpha\in L の最小多項式 mm について、σ(α)\sigma(\alpha)mm の根 (σ\sigmaKK 係数を固定するので m(σα)=σ(m(α))=0m(\sigma\alpha)=\sigma(m(\alpha))=0)。正規性より mm の全根は LL にあるので σ(α)L\sigma(\alpha)\in L。 ゆえ σ(L)L\sigma(L)\subseteq L、次数が等しいので σ(L)=L\sigma(L)=L(2)⇒(1)pK[x]p\in K[x] 既約が LL に根 α\alphaK\overline K に別の根 β\beta をもつとする。共役同型 K(α)K(β)KK(\alpha)\to K(\beta)\subseteq\overline KLKL\to\overline K の埋め込み σ\sigma に延ばすと(同型延長)、σ(α)=β\sigma(\alpha)=\beta。仮定 (2) より σ(L)=L\sigma(L)=L なので βL\beta\in L。 ゆえ pp の全根が LL、正規。∎

KK を固定するどんな埋め込みも LL を外へ出さない」——正規拡大では、LKL\to\overline K の埋め込みが実は LL自己同型になります。これがガロア群 Gal(L/K)\mathrm{Gal}(L/K) の元の供給源です(第8章)。正規でないと、 埋め込みが LL を外の共役体へ運んでしまい、自己同型が足りなくなります。

正規・非正規の例

  • Q(2)/Q\mathbb Q(\sqrt2)/\mathbb Q:正規(x22x^2-2 の分解体)。埋め込みは id\mathrm{id}22\sqrt2\mapsto-\sqrt2 で、両方 LL 内。
  • Q(23)/Q\mathbb Q(\sqrt[3]2)/\mathbb Q非正規23ω23\sqrt[3]2\mapsto\omega\sqrt[3]2 の埋め込みは LL を複素数の共役体 Q(ω23)\mathbb Q(\omega\sqrt[3]2) へ運ぶ(LL の外)。
  • Q(23,ω)/Q\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega)/\mathbb Q:正規(x32x^3-2 の分解体、全根を含む)。Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2) の正規性の“欠落”を補った体。

正規閉包

非正規な拡大も、共役をすべて添加すれば正規にできます。

定義 正規閉包

有限拡大 L/KL/K に対し、LL を含む最小の KK 上正規な拡大 NN正規閉包という(L=K(α1,,αn)L=K(\alpha_1,\dots,\alpha_n) なら mαi\prod m_{\alpha_i} の分解体)。Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2) の正規閉包は Q(23,ω)\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega)

正規閉包は「足りない共役根を全部足して正規にした最小の体」。非正規な中間拡大を扱うとき(基本定理で 非正規部分群に対応)、正規閉包が背後で効きます。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 正規性は「分解体である」こと。 一つの既約多項式でなく、族でもよいが、有限なら一つの多項式の分解体。「根が1つ入れば全部入る」。
  • Q(23)/Q\mathbb Q(\sqrt[3]2)/\mathbb Q は非正規。 実根だけで複素根を欠く。ガロア群が痩せる原因。正規閉包 Q(23,ω)\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega) で補う。
  • 正規性は推移しない。 M/LM/L 正規かつ L/KL/K 正規でも M/KM/K 正規とは限らない(QQ(2)Q(24)\mathbb Q\subset\mathbb Q(\sqrt2)\subset\mathbb Q(\sqrt[4]2):各段正規だが Q(24)/Q\mathbb Q(\sqrt[4]2)/\mathbb Q は非正規、虚根 i24i\sqrt[4]2 を欠く)。
  • 正規+分離=ガロア第8章)。正規だけではガロアでない(分離性も要る、次章)。

この章のまとめ

  • 正規拡大 =「KK 上既約な多項式が LL に根を1つもてば LL で完全分解」。有限拡大では**「ある多項式の分解体」と同値**。
  • 埋め込みによる特徴づけ:KK を固定する任意の埋め込み σ:LK\sigma:L\to\overline Kσ(L)=L\sigma(L)=L(自己同型になる)。ガロア群の元の供給源。
  • Q(2)/Q\mathbb Q(\sqrt2)/\mathbb Q は正規、Q(23)/Q\mathbb Q(\sqrt[3]2)/\mathbb Q は非正規(複素根を欠く)。共役を補った最小の正規拡大が正規閉包。正規性は推移しない。

次章は、もう一つのガロアの条件——重根をもたない分離拡大完全体を扱います。