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第9章 ガロア理論の基本定理

体の世界と群の世界が、鏡のように対応する

ここが体論・ガロア理論の頂点です。ガロア拡大 L/KL/K について、中間体(KK と LL の間の体)の全体と、 ガロア群の部分群の全体が、包含関係を逆にして完全に一対一対応する——これがガロア理論の基本定理です。

体の問い(どんな中間体があるか、その拡大次数は、正規か)が、すべて群の問い(どんな部分群があるか、その指数は、 正規部分群か)に翻訳される。LL という一つの体の内部構造が、有限群 Gal⁡(L/K)\operatorname{Gal}(L/K) という目に見える有限の対象に 丸ごと映されるのです。前章のアルティンの定理(群 → 固定体)と、埋め込みの理論(体 → 群)が噛み合って、この 辞書が完成します。まず対応を体感し、それから証明しましょう。

ガロア対応:中間体 FF ↔ 部分群 Gal⁡(L/F)\operatorname{Gal}(L/F)(包含を逆にした一対一)。[L:F]=∣H∣[L:F]=|H|、正規部分群 ↔ ガロアな中間体。

対応を体感する

下の装置で、2つの束(左=中間体、右=部分群)を見比べてください。ノードをクリックすると、対応する相手が光ります。 包含が上下逆(大きい体 ↔ 小さい群)になっていること、そして S₃ の例では正規部分群だけが Q\mathbb Q 上ガロアな 中間体に対応することを確かめられます。

中間体(体 F)
↔
部分群(H = Gal(L/F))

Q(2,3)/Q\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)/\mathbb Q(群 V4V_4)は可換なので全部分群が正規=すべての中間体がガロア。一方 x3−2x^3-2 の分解体 (群 S3S_3)では、位数 22 の非正規部分群が「Q\mathbb Q 上正規でない中間体」Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2) 等に対応し、正規部分群 A3A_3 が ガロアな中間体 Q(ω)\mathbb Q(\omega) に対応します。この「正規 ↔ 正規」が基本定理の華です。

基本定理

定理 ガロア理論の基本定理

L/KL/K を有限ガロア拡大、G=Gal⁡(L/K)G=\operatorname{Gal}(L/K) とする。次の対応 F ⟼ Gal⁡(L/F)={σ∈G:σ∣F=id},H ⟼ LHF\ \longmapsto\ \operatorname{Gal}(L/F)=\{\sigma\in G:\sigma|_F=\mathrm{id}\},\qquad H\ \longmapsto\ L^H は、中間体 {F:K⊆F⊆L}\{F:K\subseteq F\subseteq L\} と部分群 {H:H≤G}\{H:H\le G\} の間の包含を逆にする一対一対応(ガロア対応)である。さらに:

  1. 次数と位数:[L:F]=∣H∣[L:F]=|H|、[F:K]=[G:H][F:K]=[G:H](H=Gal⁡(L/F)H=\operatorname{Gal}(L/F))。
  2. 正規性:F/KF/K が正規(=ガロア)  ⟺  H=Gal⁡(L/F)\iff H=\operatorname{Gal}(L/F) が GG の正規部分群。このとき Gal⁡(F/K) ≅ G/H.\operatorname{Gal}(F/K)\ \cong\ G/H.

証明

対応が互いに逆:中間体 FF について、L/FL/F もガロア(LL は KK 上分離的多項式の分解体ゆえ FF 上でもそう)なので、 前章の同値条件(4)より LGal⁡(L/F)=FL^{\operatorname{Gal}(L/F)}=F。逆に部分群 HH について、アルティンの定理より Gal⁡(L/LH)=H\operatorname{Gal}(L/L^H)=H。ゆえ F↦Gal⁡(L/F)F\mapsto\operatorname{Gal}(L/F) と H↦LHH\mapsto L^H は互いに逆。包含を逆にするのは定義から明らか (F1⊆F2⇒Gal⁡(L/F2)⊆Gal⁡(L/F1)F_1\subseteq F_2\Rightarrow\operatorname{Gal}(L/F_2)\subseteq\operatorname{Gal}(L/F_1))。

1. 次数と位数:L/FL/F はガロアで ∣Gal⁡(L/F)∣=[L:F]|\operatorname{Gal}(L/F)|=[L:F](前章)、すなわち ∣H∣=[L:F]|H|=[L:F]。塔の公式より [F:K]=[L:K]/[L:F]=∣G∣/∣H∣=[G:H][F:K]=[L:K]/[L:F]=|G|/|H|=[G:H]。

2. 正規性:σ∈G\sigma\in G に対し σ(F)\sigma(F) の対応する部分群は Gal⁡(L/σF)=σHσ−1\operatorname{Gal}(L/\sigma F)=\sigma H\sigma^{-1}(共役)。 F/KF/K が正規   ⟺  \iff 任意の KK-埋め込み(= GG の元)が FF を保つ(第6章)  ⟺  σ(F)=F (∀σ)\iff\sigma(F)=F\ (\forall\sigma)   ⟺  σHσ−1=H (∀σ)  ⟺  H⊴G\iff\sigma H\sigma^{-1}=H\ (\forall\sigma)\iff H\trianglelefteq G。このとき制限写像 G→Gal⁡(F/K), σ↦σ∣FG\to\operatorname{Gal}(F/K),\ \sigma\mapsto\sigma|_F は 全射準同型で核が Gal⁡(L/F)=H\operatorname{Gal}(L/F)=H、第一同型定理(群論)より Gal⁡(F/K)≅G/H\operatorname{Gal}(F/K)\cong G/H。∎

証明を貫くのは、前章までの2つの結果——LGal⁡(L/F)=FL^{\operatorname{Gal}(L/F)}=F(ガロアの特徴づけ)と**Gal⁡(L/LH)=H\operatorname{Gal}(L/L^H)=H** (アルティン)——が互いに逆の対応を与えること。正規性の部分では、第6章の埋め込みによる正規性と 群論の正規部分群がぴたり噛み合い、しかも Gal⁡(F/K)≅G/H\operatorname{Gal}(F/K)\cong G/H が第一同型定理そのもの。 体論・群論の総合力が結実する瞬間です。

対応表

体の世界(中間体 FF)群の世界(部分群 H=Gal⁡(L/F)H=\operatorname{Gal}(L/F))
LL(最大){e}\{e\}(最小)
KK(最小)GG(最大)
[L:F][L:F]$
[F:K][F:K][G:H][G:H](指数)
F/KF/K がガロアH⊴GH\trianglelefteq G(正規)
Gal⁡(F/K)\operatorname{Gal}(F/K)G/HG/H(剰余群)
大きい体小さい群(包含が逆)

例 Q(√2,√3) の中間体をすべて求める

G=Gal⁡(Q(2,3)/Q)≅V4G=\operatorname{Gal}(\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)/\mathbb Q)\cong V_4。V4V_4 の部分群は {e}, ⟨σ⟩,⟨τ⟩,⟨στ⟩, V4\{e\},\ \langle\sigma\rangle,\langle\tau\rangle,\langle\sigma\tau\rangle,\ V_4 のちょうど5個。 基本定理より中間体もちょうど5個:Q(2,3), Q(3),Q(2),Q(6), Q\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3),\ \mathbb Q(\sqrt3),\mathbb Q(\sqrt2),\mathbb Q(\sqrt6),\ \mathbb Q。「群の部分群を数えれば、 中間体が全部わかる」——体の内部構造を、有限群の計算で完全に決定できる。

「中間体を直接探す」のは難しいのに、「有限群 V4V_4 の部分群を列挙する」のは易しい。ガロア対応は、難しい体の問題を 易しい群の問題に変換する翻訳機なのです。この威力が、次章以降の有限体・円分体・可解性で全開になります。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 対応は包含を逆にする。 大きい中間体 ↔ 小さい部分群。L↔{e}L\leftrightarrow\{e\}、K↔GK\leftrightarrow G。「上下が逆の鏡」。
  • [L:F]=∣H∣[L:F]=|H| であって [F:K]=∣H∣[F:K]=|H| ではない。 上側の次数が部分群の位数、下側の次数 [F:K][F:K] が指数 [G:H][G:H]。混同しやすい。
  • 正規部分群 ↔ ガロアな中間体。 H⊴G  ⟺  F/KH\trianglelefteq G\iff F/K ガロア。非正規部分群は「KK 上ガロアでない中間体」(Q(23)\mathbb Q(\sqrt[3]2))。Gal⁡(F/K)≅G/H\operatorname{Gal}(F/K)\cong G/H。
  • 基本定理は有限ガロア拡大で。 無限次では位相(クルル位相)を入れた profinite 群で対応する(発展)。

この章のまとめ

  • ガロア理論の基本定理:有限ガロア拡大 L/KL/K で、中間体 FF ↔ 部分群 Gal⁡(L/F)\operatorname{Gal}(L/F) が包含を逆にして一対一対応。証明は「LGal⁡(L/F)=FL^{\operatorname{Gal}(L/F)}=F」と「アルティン Gal⁡(L/LH)=H\operatorname{Gal}(L/L^H)=H」が互いに逆であること。
  • [L:F]=∣H∣[L:F]=|H|、[F:K]=[G:H][F:K]=[G:H]。正規部分群 H⊴GH\trianglelefteq G ↔ ガロアな中間体 F/KF/K、そのとき Gal⁡(F/K)≅G/H\operatorname{Gal}(F/K)\cong G/H(第一同型定理)。
  • 中間体の決定が、有限群の部分群の列挙に帰着する。難しい体の問題を易しい群の問題に翻訳する。

次章から応用へ。まず、ガロア理論が最も鮮やかに働く有限体を扱います。