第3章 フェイエールの定理と総和法
「平均をとる」という魔法
前章で、ディリクレ核 が負に潜り L¹ ノルムが発散するせいで、フーリエ級数の各点収束が脆いと知りました。 連続関数でさえ発散しうる。困りました。ところが、驚くほど簡単な工夫でこれが救われます——部分和を、 そのまま足すのでなく、平均するのです。
数列が振動して収束しないときも、その平均(チェザロ平均)なら落ち着くことがあります。たとえば は 収束しませんが、平均 は に収束する。この「平均で総和する」発想を フーリエ部分和に当てると、悪かった核が素直な非負の核に化けるのです。
部分和 の平均(チェザロ総和)をとると、ディリクレ核が非負のフェイエール核に変わり、収束が救われる。
フェイエール核——非負の“良い”核
定義 チェザロ平均とフェイエール核
フーリエ部分和の平均
をチェザロ平均という。ここで
をフェイエール核という。
決定的なのは ——二乗の形だから常に非負。ディリクレ核が正負に暴れたのと対照的です。下で 二つの核を見比べてください。
朱のディリクレ核 は激しく振動して負に潜り、絶対量(L¹ ノルム)が とともに増え続けます。一方、 藍のフェイエール核 は下側の塗りが示すとおり**常に **で、総積分は のまま、 を増やすと 原点にきれいに集中していく。この は「近似単位元」——理想の核が満たすべき三条件を満たします。
定理 フェイエール核は近似単位元
は次をみたす(近似単位元/良い核の条件)。
- (総質量 )。
- (非負)。ゆえに (L¹ ノルムが発散しない)。
- 各 で (、原点外の質量が消える)。
条件 2 が命です。ディリクレ核で発散した L¹ ノルムが、フェイエール核では恒等的に 。だから平均化が 安定して効きます。
フェイエールの定理
近似単位元との畳み込みは、連続関数を一様に近似します。これがフェイエールの定理です。
定理 フェイエールの定理
が周期 で連続なら、チェザロ平均 は に一様収束する:
証明
より 。 は連続かつ周期的ゆえ一様連続:任意の に があり 。 積分を と に分ける。前者は より 。後者は と条件 3(原点外の質量が消える)より 。合わせて一様に 。∎
証明で効いたのは近似単位元の三条件、とくに非負性(前者の積分を で抑えるのに使う)。ディリクレ核 では負の部分のせいでこの評価ができませんでした。「平均をとる」だけで、核が非負になり、連続関数がもれなく 一様近似できる——総和法の威力です。
副産物:ワイエルシュトラスの近似定理
フェイエールの定理から、解析学の基本定理が一つ、ほぼ無料で出てきます。 は三角多項式なので——
定理 ワイエルシュトラスの三角近似定理
連続な周期関数は、三角多項式で一様に近似できる。(区間 上の連続関数は多項式で一様近似できる、という 古典的ワイエルシュトラス近似定理も同様に従う。)
は の有限和=三角多項式で、 に一様収束する。だから連続周期関数はいくらでも 三角多項式で近似できる。これは関数解析で「三角関数系が で完全(稠密)」だと 主張したことの、具体的で構成的な証明にもなっています——抽象論の完全性が、フェイエール核という具体物で 裏づけられました。
注意 総和法は“発散を飼いならす”一般技法
チェザロ総和は、発散級数に意味ある値を与える「総和法」の一種。フーリエ解析では、収束しない(かもしれない) 部分和列を平均で飼いならす。同じ精神はアーベル総和( で )にもあり、ポアソン核という 別の近似単位元を生む。「悪い核を良い核で置き換える」という発想は、超関数の正則化(第10章)まで一貫する。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- フェイエール()とディリクレ()は別物。 は部分和の平均。連続関数で一様収束 するのは 。素の は連続でも発散しうる(前章)。
- 一様収束するのは連続関数に対して。 フェイエールは強力だが、 の連続性は要る。不連続点では跳びの中点へ (やはりギブス現象は起きないのが の長所)。
- 非負性が近似単位元の心臓。 総質量 ・非負・原点集中の三点セット。とくに非負が L¹ ノルムを に保ち、 評価を可能にする。
- 総和法は元の級数の収束を主張しない。 「平均が収束する」であって「部分和が収束する」ではない。意味を 弱めて(平均で)収束を取り戻している。
この章のまとめ
- 部分和の平均(チェザロ総和 )をとると、ディリクレ核が非負のフェイエール核 に変わる。 は近似単位元(総質量 ・非負・原点集中)で L¹ ノルムが のまま。
- フェイエールの定理:連続な周期関数で は に一様収束。非負性のおかげで、ディリクレ核で崩れた評価が通る。
- 副産物としてワイエルシュトラスの近似定理(連続関数は三角多項式・多項式で一様近似)。三角関数系の 完全性の構成的証明。
- 各点収束は諦めても、平均なら一様収束する。次章はもう一つの収束—— 収束とパーセバル、そしてギブス現象を扱います。
次章では、 の意味での収束(完全性)とパーセバルの等式、そして不連続点で消えないギブス現象を見ます。