数学の作り方 How to make Mathematics

第3章 フェイエールの定理と総和法

「平均をとる」という魔法

前章で、ディリクレ核 DND_N が負に潜り L¹ ノルムが発散するせいで、フーリエ級数の各点収束が脆いと知りました。 連続関数でさえ発散しうる。困りました。ところが、驚くほど簡単な工夫でこれが救われます——部分和を、 そのまま足すのでなく、平均するのです。

数列が振動して収束しないときも、その平均(チェザロ平均)なら落ち着くことがあります。たとえば 1,0,1,0,1,0,1,0,\dots は 収束しませんが、平均 S0++SN1N\frac{S_0+\cdots+S_{N-1}}N12\frac12 に収束する。この「平均で総和する」発想を フーリエ部分和に当てると、悪かった核が素直な非負の核に化けるのです。

部分和 S0,,SN1S_0,\dots,S_{N-1} の平均(チェザロ総和)をとると、ディリクレ核が非負のフェイエール核に変わり、収束が救われる。

フェイエール核——非負の“良い”核

定義 チェザロ平均とフェイエール核

フーリエ部分和の平均

σNf(x)=1N+1k=0NSkf(x)=12πππf(xt)FN(t)dt\sigma_N f(x)=\frac1{N+1}\sum_{k=0}^{N}S_k f(x)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x-t)\,F_N(t)\,dt

チェザロ平均という。ここで

FN(t)=1N+1k=0NDk(t)=1N+1(sin(N+1)t2sint2)2 0F_N(t)=\frac1{N+1}\sum_{k=0}^{N}D_k(t)=\frac1{N+1}\left(\frac{\sin\frac{(N+1)t}2}{\sin\frac t2}\right)^2\ \ge 0

フェイエール核という。

決定的なのは FN(t)0F_N(t)\ge0——二乗の形だから常に非負。ディリクレ核が正負に暴れたのと対照的です。下で 二つの核を見比べてください。

朱のディリクレ核 DND_N は激しく振動して負に潜り、絶対量(L¹ ノルム)が NN とともに増え続けます。一方、 藍のフェイエール核 FNF_N は下側の塗りが示すとおり**常に 0\ge0**で、総積分は 2π2\pi のまま、NN を増やすと 原点にきれいに集中していく。この FNF_N は「近似単位元」——理想の核が満たすべき三条件を満たします。

定理 フェイエール核は近似単位元

FNF_N は次をみたす(近似単位元/良い核の条件)。

  1. 12πππFN(t)dt=1\dfrac1{2\pi}\displaystyle\int_{-\pi}^\pi F_N(t)\,dt=1(総質量 11)。
  2. FN(t)0F_N(t)\ge0(非負)。ゆえに 12πFN=1\dfrac1{2\pi}\int|F_N|=1(L¹ ノルムが発散しない)。
  3. δ>0\delta>0δtπFN(t)dt0\displaystyle\int_{\delta\le|t|\le\pi}F_N(t)\,dt\to0NN\to\infty、原点外の質量が消える)。

条件 2 が命です。ディリクレ核で発散した L¹ ノルムが、フェイエール核では恒等的に 11。だから平均化が 安定して効きます。

フェイエールの定理

近似単位元との畳み込みは、連続関数を一様に近似します。これがフェイエールの定理です。

定理 フェイエールの定理

ff が周期 2π2\pi で連続なら、チェザロ平均 σNf\sigma_N fff一様収束する:

σNffN0.\|\sigma_N f-f\|_\infty\xrightarrow{N\to\infty}0.

証明

12πFN=1\frac1{2\pi}\int F_N=1 より σNf(x)f(x)=12πππ[f(xt)f(x)]FN(t)dt\sigma_Nf(x)-f(x)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^\pi[f(x-t)-f(x)]F_N(t)\,dtff は連続かつ周期的ゆえ一様連続:任意の ε>0\varepsilon>0δ\delta があり t<δf(xt)f(x)<ε|t|<\delta\Rightarrow|f(x-t)-f(x)|<\varepsilon。 積分を t<δ|t|<\deltatδ|t|\ge\delta に分ける。前者は FN0, 12πFN=1F_N\ge0,\ \frac1{2\pi}\int F_N=1 より ε\le\varepsilon。後者は f(xt)f(x)2f|f(x-t)-f(x)|\le2\|f\|_\infty と条件 3(原点外の質量が消える)より 0\to0。合わせて一様に <2ε<2\varepsilon。∎

証明で効いたのは近似単位元の三条件、とくに非負性(前者の積分を ε\varepsilon で抑えるのに使う)。ディリクレ核 では負の部分のせいでこの評価ができませんでした。「平均をとる」だけで、核が非負になり、連続関数がもれなく 一様近似できる——総和法の威力です。

副産物:ワイエルシュトラスの近似定理

フェイエールの定理から、解析学の基本定理が一つ、ほぼ無料で出てきます。σNf\sigma_Nf は三角多項式なので——

定理 ワイエルシュトラスの三角近似定理

連続な周期関数は、三角多項式で一様に近似できる。(区間 [a,b][a,b] 上の連続関数は多項式で一様近似できる、という 古典的ワイエルシュトラス近似定理も同様に従う。)

σNf\sigma_Nfcoskx,sinkx\cos kx,\sin kx の有限和=三角多項式で、ff に一様収束する。だから連続周期関数はいくらでも 三角多項式で近似できる。これは関数解析で「三角関数系が L2L^2完全(稠密)」だと 主張したことの、具体的で構成的な証明にもなっています——抽象論の完全性が、フェイエール核という具体物で 裏づけられました。

注意 総和法は“発散を飼いならす”一般技法

チェザロ総和は、発散級数に意味ある値を与える「総和法」の一種。フーリエ解析では、収束しない(かもしれない) 部分和列を平均で飼いならす。同じ精神はアーベル総和(anrn\sum a_n r^nr1r\to1)にもあり、ポアソン核という 別の近似単位元を生む。「悪い核を良い核で置き換える」という発想は、超関数の正則化(第10章)まで一貫する。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • フェイエール(σN\sigma_N)とディリクレ(SNS_N)は別物。 σN\sigma_N は部分和の平均。連続関数で一様収束 するのは σN\sigma_N。素の SNS_N は連続でも発散しうる(前章)。
  • 一様収束するのは連続関数に対して。 フェイエールは強力だが、ff の連続性は要る。不連続点では跳びの中点へ (やはりギブス現象は起きないのが σN\sigma_N の長所)。
  • 非負性が近似単位元の心臓。 総質量 11・非負・原点集中の三点セット。とくに非負が L¹ ノルムを 11 に保ち、 評価を可能にする。
  • 総和法は元の級数の収束を主張しない。 「平均が収束する」であって「部分和が収束する」ではない。意味を 弱めて(平均で)収束を取り戻している。

この章のまとめ

  • 部分和の平均(チェザロ総和 σN\sigma_N)をとると、ディリクレ核が非負のフェイエール核 FNF_N に変わる。FNF_N近似単位元(総質量 11・非負・原点集中)で L¹ ノルムが 11 のまま。
  • フェイエールの定理:連続な周期関数で σNf\sigma_N fff一様収束。非負性のおかげで、ディリクレ核で崩れた評価が通る。
  • 副産物としてワイエルシュトラスの近似定理(連続関数は三角多項式・多項式で一様近似)。三角関数系の L2L^2 完全性の構成的証明。
  • 各点収束は諦めても、平均なら一様収束する。次章はもう一つの収束——L2L^2 収束とパーセバル、そしてギブス現象を扱います。

次章では、L2L^2 の意味での収束(完全性)とパーセバルの等式、そして不連続点で消えないギブス現象を見ます。