第10章 有限アーベル群の基本定理
可換な有限群は、完全に分類できる
一般の有限群の分類は途方もなく難しい(有限単純群の分類は数千ページを要した20世紀の金字塔)。ところが 可換(アーベル)に限ると、状況は一変します。有限アーベル群は、巡回群の直積として完全に、一意に書き下せる。 位数を決めれば、その位数のアーベル群を全部リストアップできるのです。
たとえば位数 のアーベル群は 、、 のちょうど3種類。 この完全な分類定理は、それ自体美しいだけでなく、線形代数のジョルダン標準形や 加群論の構造定理と同じ定理の一つの顔であることが分かります。バラバラに見えた分類が、 一つの原理(PID 上の加群の構造定理)に統一される——その入り口です。
有限アーベル群は巡回群の直積に一意分解される。位数を決めれば全部列挙できる。加群論・線形代数と同根。
直積と直和
定義 アーベル群の直積
アーベル群 の直積 は、成分ごとの演算をもつ群。加法的に 直和 とも書く。。
分解の第一段は、群を素数ごとの部分に割ること。整数の素因数分解に対応します。
定理 準素分解
有限アーベル群 ()は、その -シロー部分群 の直和に一意分解される:。
証明
アーベル群では全部分群が正規で、位数の互いに素な部分群 は交わりが 、和が (中国剰余定理に相当)。 各 について、 を法とした係数で ()と一意に分解できる。∎
これで問題は「 群(位数が べきのアーベル群)の分類」に帰着します。
基本定理:2つの標準形
定理 有限アーベル群の基本定理
任意の有限アーベル群 は、次の2通りの標準形で巡回群の直積に一意分解される:
(初等因子形)素数べき位数の巡回群の直積 (不変因子形) となる整数を用いて
証明
(存在の要点。)準素分解で 群に帰着。 群 については、最大位数の元 をとると が 直和因子として分離でき()、 に帰納法を適用して巡回群の直和 を得る。 初等因子をまとめ直すと不変因子形になる。一意性は、各 と各べき について「位数 以上の元が張る部分の ( 次元)」が同型不変量として初等因子を復元することから従う。∎
2つの標準形は同じ群の別表現で、初等因子を「各素数のべきを大きさ順にまとめて掛ける」と不変因子に変換できます。
例 位数 8 と位数 360 の分類
位数 :初等因子形は // の3通り( の分割 に対応)。 位数 : 部分が3通り、 部分()が / の2通り、 部分が1通り。 計 種類。各素数べきの分割の個数の積がアーベル群の総数。
「位数 のアーベル群は何種類か」が、 の各素因数のべきの分割数の積で即座に分かる。分類が 組合せの問題(自然数の分割)に完全に翻訳されるのです。
加群論・線形代数との統一
注意 同じ定理の3つの顔
この統一は抽象代数の醍醐味です。「なぜアーベル群とジョルダン標準形が似ているのか」——それは同じ定理だから。 一段抽象化する(加群として見る)と、別々の現象が一つの原理に収まります。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 初等因子形と不変因子形は同じ群の別表示。 (不変因子 )。 は不変因子 でまとめる()。互いに変換できる。
- (中国剰余定理)。互いに素でないと巡回にならない()。
- 基本定理は有限(またはねじれ有限生成)アーベル群の話。 一般の無限アーベル群( など)はこの形に分解できない。
この章のまとめ
- 有限アーベル群は準素分解で 群の直和に、さらに巡回群の直積に一意分解される(基本定理)。初等因子形(素数べき巡回群)と不変因子形()の2標準形。
- 位数 のアーベル群の個数は、各素因数べきの分割数の積。分類が自然数の分割に翻訳される。
- これは PID 上の加群の構造定理の特殊例で、 上ならアーベル群分類、 上ならジョルダン標準形——同じ定理の二つの顔。
次章は、群を「単純な部品」に分解する視点——**可解群・べき零群と組成列(ジョルダン–ヘルダー)**へ進みます。