第11章 可解群とべき零群
群を「単純な部品」に分解する
物質を原子に分解するように、群をそれ以上分解できない部品に分解できないか。前章のアーベル群は 巡回群という部品にきれいに分かれました。一般の群では、正規部分群で次々に割っていき、各段の剰余群が 単純群(第9章の のような、これ以上割れない群)になるまで分解します。これが組成列です。
そして分解の“素性”によって群を分類します。各部品がすべて可換(アーベル)で済むなら可解群—— 方程式がべき根で解けることに対応する、特別に扱いやすいクラスです。さらに強い条件を満たすのがべき零群。 この章では、これらの分解の理論を整え、ジョルダン–ヘルダーの定理(分解が本質的に一意)を証明します。 ガロア理論で「方程式が解けるか」を判定する言葉が、ここで用意されます。
群を正規部分群で分解し、各剰余が可換なら可解群。分解の部品(組成因子)は本質的に一意(ジョルダン–ヘルダー)。
交換子群と可解群
群がどれだけ「非可換か」を測るのが交換子です。
定義 交換子・交換子群・導来列
を交換子という()。交換子すべてで生成される部分群 を交換子群(導来部分群)という。 で、 は最大の可換剰余群 (アーベル化)。導来列を で定める。
は「非可換性の源」を集めた部分群で、それで割ると可換になります( がアーベルなのは、 交換子が でつぶれるから)。導来列は「非可換性を繰り返し剥ぎ取る」操作です。
定義 可解群
導来列がいつか自明群に達する(ある で )とき、 を可解群という。 同値: で各剰余 がアーベルとなる列がある。
「非可換性を有限回で剥ぎ取れる」群が可解群。アーベル群は なので当然可解。可解性は部分群・剰余群・拡大で 保たれます(次の命題)。
命題 可解性の遺伝
が可解 正規部分群 とその剰余群 がともに可解。部分群も可解。
例 可解な群・可解でない群
- は可解(、各剰余が でアーベル)。
- ()は可解でない: が非可換単純(第9章)ゆえ 、導来列が縮まない。
- 有限 群はすべて可解(次のべき零性から)。
「 が可解でない」——第9章の の単純性がここで効き、ガロア理論を通じて 5次方程式の解の公式の不存在につながります。可解群は「べき根で解ける方程式」の群論的な正体なのです。
べき零群
可解性より強い条件が、べき零性です。中心を繰り返し剥ぐ操作で測ります。
定義 降中心列・べき零群
降中心列を で定める。ある で となるとき をべき零群という。べき零 可解。
定理 有限 p 群はべき零
位数 の群はべき零。したがって可解。
証明
第6章より 群の中心 は非自明。 もより小さい 群なのでその中心も非自明…と 中心を次々に剥いでいくと(上中心列 が真に増加し)有限回で に達する。 これはべき零性と同値。∎
群のべき零性は、その豊かな構造(正規部分群が多い、極大部分群が正規で指数 、など)の源です。 「 群の中心が非自明」(類等式の帰結)が、ここでも効いています。べき零群は「 群の直積」に近い、 特に行儀の良いクラスです。
組成列とジョルダン–ヘルダーの定理
群を「これ以上割れない部品」まで分解する標準的な列を定めます。
定義 組成列・組成因子
で、各剰余 が単純群(自明でない正規部分群なし) であるものを組成列、剰余 を組成因子という。有限群には必ず組成列がある。
組成因子が「群を構成する原子(単純群)」です。分解の仕方(列の取り方)は一通りではありませんが——
定理 ジョルダン–ヘルダーの定理
有限群の任意の2つの組成列は、長さが等しく、組成因子の多重集合が(順序と同型を除いて)一致する。
証明
(要点。)2つの組成列の長さに関する帰納法。第二同型定理(第5章)を使うシュライアーの細分定理 ——「任意の2つの(正規部分群による)列は、同型な細分をもつ」——を示し、組成列は既にこれ以上細分できないので、 2つの組成列は互いに同型な並べ替えになる、と結論する。∎
ジョルダン–ヘルダーは「群の素因数分解の一意性」に相当します。整数が素数の積に一意分解されるように、 有限群は組成因子(単純群)に一意分解される。だからこそ有限単純群の分類が「すべての有限群を理解する」ための 基礎工事になったのです(それが20世紀の巨大プロジェクトでした)。可解群は、この言葉で特徴づけられます。
系 可解群の特徴づけ
有限群 が可解 その組成因子がすべて素数位数の巡回群 。
「組成因子がすべて (可換な単純群)」が可解、「組成因子に非可換単純群( など)が現れる」が非可解。 は組成因子に を含むので可解でない——第9章と第11章がここで結ばれます。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 可解 ⊋ べき零 ⊋ アーベル。 アーベル ⇒ べき零 ⇒ 可解だが、逆は成り立たない( は可解だがべき零でない)。 群はべき零。
- 組成因子は単純群。 剰余が単純になるまで分解する。組成因子の一意性(ジョルダン–ヘルダー)は「群の素因数分解」。
- 可解性は「べき根で解ける」に対応(ガロア)。 群論的な可解性が、方程式論の可解性の正体。 の単純性=非可解性が5次方程式の壁。
この章のまとめ
- 交換子群 で割ると最大の可換剰余(アーベル化)。導来列が自明群に達する群が可解群(同値:アーベル剰余の正規列をもつ)。部分群・剰余・拡大で保たれる。
- 降中心列が自明群に達する群がべき零群(アーベル ⇒ べき零 ⇒ 可解)。有限 群はべき零(中心の非自明性から)。
- 組成列は群を単純群(組成因子)に分解し、ジョルダン–ヘルダーで組成因子は一意(群の素因数分解)。可解 組成因子がすべて 。 を含む は非可解。
最終章は、群を組み立てる操作——直積・半直積と、生成元と関係式による群の表示を扱います。