第12章 群の構成 — 直積・半直積・表示
群を「分解する」から「組み立てる」へ
ここまで、与えられた群を部分群・剰余群・組成因子へと分解して調べてきました。最終章では逆に、 小さい群から大きい群を組み立てる方法を扱います。シロー理論(第8章)で「正規シロー部分群が 見つかれば群が分解できる」と言いましたが、その分解を精密にするのが直積と半直積です。
そして群を指定する究極の方法——生成元と関係式による表示を導入します。「 と で生成され、 を満たす群」と書けば、それだけで二面体群 が一意に定まる。この表示は、群を最も簡潔に記述する言語であり、 位相幾何学の基本群(空間の穴を群で表す)へと直結します。分解の理論を組み立ての理論で 締めくくり、群論の全体像を完成させます。
直積・半直積で群を組み立て、生成元と関係式で群を簡潔に表示する。分解と組み立てで群論が閉じる。
直積
定義 外部直積と内部直積
群 の外部直積 は成分ごとの演算をもつ群。 逆に、群 が部分群 をもち、(1)、(2)、(3) を満たすとき、 は の内部直積で ( の元は可換に振る舞う)。
命題 直積の判定
上の(1)(2)(3) が成り立つとき、写像 は同型。
証明
と両者の正規性から、 に対し 、つまり (可換)。 これで ゆえ準同型。全射は(3)、単射は(2)から。∎
証明の要点は「両方正規+交わりが自明 ⇒ 元が可換」。位数 の群が になった(第8章)のは これでした。ただし、片方しか正規でない場合は可換にならず、より一般の構成が要ります。
半直積
正規部分群 と、それに「作用する」部分群 から群を組み立てるのが半直積です。非可換群を作る主要な道具です。
定義 半直積
群 が部分群 をもち、(1)、(2)、(3) のとき、 は 内部半直積 。外部的には、準同型 ( が に作用)を与え、 集合 に積 を入れたものを外部半直積 という。 が自明なら直積 に戻る。
直積との違いは、 が にねじれて作用する()点。この作用が非可換性を生みます。
例 二面体群は半直積
。(回転、正規)、(鏡映)、 作用は (鏡映で回転が逆向きになる、)。この非自明な作用が の非可換性の正体。 なら 。
例 四元数群は半直積でない
は非可換で位数 だが、半直積に分解できない。すべての部分群が正規(ハミルトン群)で、 位数 の部分群 が唯一の位数 部分群のため、 となる補群 がとれない。 と は「同じ位数 ・非可換」でも本質的に異なる群——半直積で作れるか否かが一つの区別。
の例は、「群の組み立て方は直積・半直積だけではない」ことを教えます(より一般には群の拡大論・ ホモロジー代数の が拡大を分類します)。
自由群と生成元・関係式
群を記述する最も柔軟な方法が、生成元と、それらが満たすべき関係式による表示です。まず「関係式が何もない」自由な群から。
定義 自由群
集合 上の自由群 は、 の元とその逆元からなる「既約な語」( 等を消した文字列)全体で、 連結を演算とする群。 の元の間にいかなる関係も課さない最も自由な群で、次の普遍性をもつ:任意の群 と 写像 は、一意に準同型 に延びる。
定義 生成元と関係式による表示
とは、自由群 を、関係語 が生成する正規部分群で割った剰余群 。「 で生成され、 の関係だけを満たす群」を意味する。
例 表示の例
- ( だけを課す巡回群)。
- ()。
- ( を課す=可換な自由群)。
- 自由群 (関係なし、非可換で無限)。
たった数個の記号で群が完全に指定できます。ただし表示には落とし穴もあり、「2つの表示が同じ群か」 「表示された群の位数は何か」を判定する一般アルゴリズムは存在しません(語の問題の決定不能性、 計算可能性理論と接続)。表示は強力だが、そこから群の性質を読むのは一般に難しいのです。
注意 位相幾何学への扉
生成元と関係式は位相幾何学の基本群で本質的な役割を果たす。空間のループ(穴の周りの回り方)を 生成元、関係を「縮められるループ」とみなすと、空間の「穴の構造」が群の表示として現れる。円周の基本群は 、トーラスは 。群論と幾何がここで出会う。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 直積は両方正規、半直積は片方だけ正規。 直積 半直積(自明な作用)。 も正規なら直積、 が正規でなく作用がねじれると非可換半直積。
- 半直積で全ての群が作れるわけではない。 のように直積・半直積のどちらでも作れない群がある(群の拡大はより広い)。
- 表示から群の性質を読むのは難しい。 語の問題(2つの語が同じ元か)は一般に決定不能。表示は簡潔だが万能の判定手段ではない。
この章のまとめ
- 直積 は両者正規・交わり自明・積が全体(元が可換)。半直積 は 正規で が にねじれて作用(非可換群の主要な作り方)。。
- は半直積に分解できない——群の組み立ては直積・半直積だけでは尽きない(拡大論へ)。
- 自由群は関係なしの最も自由な群。生成元と関係式 が群を簡潔に表示し、基本群を通じて位相幾何学と繋がる。語の問題は決定不能。
これで群論は一区切りです。対称性の抽象化から始め、ラグランジュ・同型定理・群作用・シロー理論・単純性・ 分類・組み立てまで——「対称性の科学」の全体を辿りました。ここで培った剰余・作用・分解の視点は、 環論・体論・ガロア理論・表現論へとそのまま受け継がれていきます。おつかれさまでした。