数学の作り方 How to make Mathematics

第4章 収束の諸相

前章の終わりで Xˉnμ\bar X_n\to\mu と書きました。しかし XnX_n は数ではなく関数(確率変数)。関数列が 「近づく」には、測度論の第8章で見たとおり、いくつもの意味があります。確率論でも同じ問題が起き、 どの意味で収束するかで定理の強さが変わります。まずこの「近づき方の地図」を手に入れましょう。

四つの「近づく」

XnXX_n\to X(確率変数の列がある確率変数へ)に、次の四つの意味があります。

定義 収束の四つの様式

  1. 概収束ほとんど確実な収束、a.s.):P({ω:Xn(ω)X(ω)})=1P\big(\{\omega : X_n(\omega)\to X(\omega)\}\big)=1。 「例外の ω\omega は確率 00 の集まりしかない」。各見本の道すじがほぼ確実に収束。記号 Xna.s.XX_n\xrightarrow{a.s.}X
  2. 確率収束:任意の ε>0\varepsilon>0 に対し P(XnXε)0P(|X_n-X|\ge\varepsilon)\to 0。 「nn を大きくすれば、XX から ε\varepsilon 以上ずれる確率がいくらでも小さくなる」。記号 XnPXX_n\xrightarrow{P}X
  3. LpL^p 収束E[XnXp]0\mathbb{E}[|X_n-X|^p]\to 0。平均的なずれ(の pp 乗)が消える。p=2p=2 なら二乗平均収束
  4. 分布収束法則収束、weak):分布関数が FXn(x)FX(x)F_{X_n}(x)\to F_X(x)FXF_X の連続点で)。 XnX_n 自身ではなく、その分布の形が近づく。記号 XndXX_n\xrightarrow{d}X

違いを一言で。概収束は「ほぼすべての見本の軌道が収束」、確率収束は「ずれる確率が消える」、 LpL^p は「平均的なずれが消える」、分布収束は「分布の形が近づく」。だんだん要求がゆるくなります。

強弱の地図

これらは互いに独立ではなく、はっきりした階層をなします。

定理 含意関係

Xna.s.X  XnPX  XndX,XnLpX  XnPX.X_n\xrightarrow{a.s.}X \ \Longrightarrow\ X_n\xrightarrow{P}X \ \Longrightarrow\ X_n\xrightarrow{d}X, \qquad X_n\xrightarrow{L^p}X \ \Longrightarrow\ X_n\xrightarrow{P}X.

逆向きは一般に成り立たない。ただし極限が定数のときは dP\xrightarrow{d}\Rightarrow\xrightarrow{P} も成り立つ。

要になるのは真ん中の確率収束——概収束からも LpL^p からも降りてこられる合流点で、そこから分布収束へ抜ける。 証明の勘所だけ:

  • 概収束 ⇒ 確率収束:概収束は「ある時点以降ずっと近い」。ずれる事象を nn について並べると測度が 00 に。 (測度論の収束の諸相と同じ論法。有限測度なのでエゴロフも使える。)
  • LpL^p ⇒ 確率収束:チェビシェフ型。P(XnXε)=P(XnXpεp)E[XnXp]/εp0P(|X_n-X|\ge\varepsilon)=P(|X_n-X|^p\ge\varepsilon^p)\le \mathbb{E}[|X_n-X|^p]/\varepsilon^p\to0。 第3章のマルコフ不等式がそのまま橋になります。
  • 確率収束 ⇒ 分布収束:ずれる確率が消えれば分布関数も近づく。

逆が偽な例も押さえると地図が立体になります。確率収束するが概収束しない:区間 [0,1][0,1] 上で 「幅が縮みながら位置をずらして走り回る指示関数」(歩き回るこぶ)。各 ω\omega は何度でも 11 に叩かれるので 軌道は収束しない(概収束✗)が、11 になる幅は 00 へ縮むので確率収束はする。分布収束するが確率収束しないXN(0,1)X\sim N(0,1)Xn=XX_n=-X。分布は同じ N(0,1)N(0,1) だから XndXX_n\xrightarrow{d}X だが、XnX=2X|X_n-X|=2|X| は消えない。 ——だから極限が「特定の確率変数」でなく「形」しか言えないのが分布収束、と腑に落ちます。

ボレル–カンテリ:概収束をつかむ道具

概収束は「軌道がほぼ確実に収束」——扱いが一番むずかしい。これを可算和の言葉で捉えるのが、 シンプルながら絶大な威力を持つボレル–カンテリの補題です。舞台は「事象 AnA_n が無限回起こる」事象、 {An i.o.}=NnNAn\{A_n \text{ i.o.}\}=\bigcap_{N}\bigcup_{n\ge N}A_n(どれだけ先を見てもまだ AnA_n が起こる)。

定理 ボレル–カンテリの補題

(第一) n=1P(An)<\displaystyle\sum_{n=1}^\infty P(A_n)<\infty ならば P(An が無限回起こる)=0P(A_n \text{ が無限回起こる})=0
(第二) AnA_n独立n=1P(An)=\displaystyle\sum_{n=1}^\infty P(A_n)=\infty ならば P(An が無限回起こる)=1P(A_n \text{ が無限回起こる})=1

証明

第一。 {An i.o.}nNAn\{A_n \text{ i.o.}\}\subset \bigcup_{n\ge N}A_n が任意の NN で成り立つ。単調性と劣加法性より P(An i.o.)nNP(An)P(A_n \text{ i.o.})\le \sum_{n\ge N}P(A_n)。右辺は収束級数の尾なので NN\to\infty00。ゆえに確率 00
第二。 補事象を見る。独立性より、任意の NMN\le MP(n=NMAnc)=n=NM(1P(An))exp(P(An))=exp(n=NMP(An))P\big(\bigcap_{n=N}^M A_n^c\big)=\prod_{n=N}^M(1-P(A_n))\le \prod \exp(-P(A_n))=\exp\big(-\sum_{n=N}^M P(A_n)\big)1xex1-x\le e^{-x} を使った)。総和が発散するので MM\to\infty でこれは 00。よって「NN 以降どれも起きない」確率は 00、 どんな NN でもいずれまた起こる=無限回起こる確率 11

「確率の総和が有限なら、いつかは起こらなくなる(有限回で打ち止め)」——これが第一補題の心。 たとえば P(Xnε)P(|X_n|\ge\varepsilon) の総和が有限なら、Xnε|X_n|\ge\varepsilon は有限回しか起きず、Xn0X_n\to 0概収束で言えます。確率収束(各 nn で小さい)と概収束(軌道が収束)の間を埋める橋が、まさにこの 「総和が有限か」という一点。次章の大数の法則は、この橋を渡って証明されます。

注意 なぜ第二では独立が要るのか

第一補題に独立性は要りません(劣加法性だけ)。第二では独立が本質的:An=AA_n=A(同じ事象の繰り返し、P(A)=1/2P(A)=1/2)なら 総和は発散するのに「無限回」の確率は 1/21/2 で、11 になりません。独立という「毎回チャンスが独立に来る」構造があって 初めて「発散するほどチャンスがあれば必ず当たる」が言えます。

この章のまとめ

  • 確率変数の収束には概収束・確率収束・LpL^p収束・分布収束の四様式。強さは a.s.Pda.s.\Rightarrow P\Rightarrow dLpPL^p\Rightarrow P。合流点は確率収束、逆は一般に偽(歩き回るこぶ/Xn=XX_n=-X)。
  • LpPL^p\Rightarrow P は第3章のマルコフ不等式が橋。極限が定数なら分布収束から確率収束へ戻れる。
  • ボレル–カンテリ:確率の総和が有限なら事象は有限回で止む(第一)/独立で発散なら無限回起こる(第二)。 これが確率収束と概収束の間を埋め、大数の法則への鍵になる。

次章、いよいよ第一の大定理——大数の法則。「たくさん試せば平均は真の値に近づく」を、弱・強の二段で証明します。