数学の作り方 How to make Mathematics

第11章 応用 — バーンサイドの定理

表現論で群論を証明する

ここまで表現論を「群を調べる道具」として作ってきました。この章では、その威力を最も鮮やかに示す応用を見ます ——表現論を使って、純粋に群論的な定理を証明する。主役はバーンサイドの paqbp^a q^b 定理:位数が二つの素数の べきの積である群は、必ず可解(群論の可解群)。

驚くべきは、この主張が表現論なしには長らく証明できなかったこと。「群の可解性」という表現とは無関係に 見える性質が、指標の値が代数的整数であること・シューアの補題・指標表の構造という表現論の道具で、 一気に証明される。表現論が群論に“恩返し”する、美しい例です。

バーンサイドの定理:位数 paqbp^a q^b の群は可解。証明は指標の整数性・シューアの補題——表現論が群論を証明する。

準備——指標は代数的整数

証明の鍵となる事実。指標の値は代数的整数(整数係数モニック多項式の根、代数的整数論)。 ρ(g)\rho(g) は有限位数(gG=eg^{|G|}=e)なので固有値は 11 の冪根、その和(トレース=指標)は代数的整数です。

定理 指標値は代数的整数

既約指標の値 χi(g)\chi_i(g) はすべて代数的整数。さらに Cχi(C)di\frac{|C|\,\chi_i(C)}{d_i}C|C| は共役類のサイズ、 did_i は次元)も代数的整数。

代数的整数は「整数に近い数」——加減乗で閉じ、有理数なら通常の整数になる(代数的整数論)。 χi(g)\chi_i(g) が代数的整数なこと、そして Cχi(C)di\frac{|C|\chi_i(C)}{d_i} も代数的整数なこと(群環の中心の作用から従う)が、 証明の二本の柱です。この整数性が、次の「奇妙な等式は特別な値を強いる」という論法を可能にします。

鍵となる補題

証明の心臓部。「共役類のサイズ C|C| と次元 did_i が互いに素なら、χi(C)\chi_i(C) はゼロか絶対値 did_i」という、 指標値を強く縛る補題です。

定理 バーンサイドの補題(指標の値)

既約表現 ViV_i(次元 did_i)と共役類 CC について、gcd(C,di)=1\gcd(|C|,d_i)=1 なら、

χi(C)=0またはχi(C)=di (ρi(C) はスカラー行列).\chi_i(C)=0\quad\text{または}\quad |\chi_i(C)|=d_i\ (\rho_i(C)\text{ はスカラー行列}).

証明

gcd(C,di)=1\gcd(|C|,d_i)=1 より整数 a,ba,baC+bdi=1a|C|+bd_i=1。すると χi(C)di=aCχi(C)di+bχi(C)\frac{\chi_i(C)}{d_i}=a\frac{|C|\chi_i(C)}{d_i}+b\chi_i(C) は 代数的整数(両項が代数的整数)。χi(C)\chi_i(C)did_i 個の 11 の冪根の和なので χi(C)di|\chi_i(C)|\le d_i、平均 α=χi(C)/di\alpha=\chi_i(C)/d_iα1|\alpha|\le1 の代数的整数。共役をすべて掛けたノルムも 1\le1 の整数だから、α=0\alpha=0χi(C)=0\chi_i(C)=0)か α=1|\alpha|=1(冪根がすべて等しく、ρi(C)\rho_i(C) がスカラー、χi(C)=di|\chi_i(C)|=d_i)。∎

この補題が「指標値は 00 か最大」という二者択一を強います。整数性(代数的整数で α1|\alpha|\le1)から、中途半端な 値が排除される——数論的な制約が、群の構造を縛るのです。ここから、次の系(pp べきサイズの共役類の存在が 正規部分群を生む)を経て、バーンサイドの定理が出ます。

バーンサイドの p^a q^b 定理

定理 バーンサイドの p^a q^b 定理

位数が paqbp^a q^bp,qp,q 素数)の有限群は可解である。とくに非可換単純群の位数は、少なくとも三つの 相異なる素数で割れる。

証明

概略GG が非可換単純で位数 paqbp^a q^b と仮定し矛盾を導く。シロー qq-部分群の中心の非自明な元 gg をとると、 その共役類 CC のサイズは pp のべき(C=pk|C|=p^kk1k\ge1)。geg\ne e の非自明な既約 ViV_i に対し、上の補題と 「idiχi(g)=0\sum_i d_i\chi_i(g)=0geg\ne e での正則指標の消滅、第8章)」を組み合わせると、 ある非自明既約で ρi(g)\rho_i(g) がスカラー。すると gg が生成する正規部分群が現れ、GG の単純性に矛盾。ゆえに 位数 paqbp^a q^b の単純群は可換(=素数位数)のみ。組成列をたどって GG は可解。∎

証明の骨格は「pp べきサイズの共役類 → 指標補題で ρi(g)\rho_i(g) がスカラー → 正規部分群 → 単純性に矛盾」。 純粋に群論的な結論(可解性)が、指標の値・整数性・正則指標の消滅という表現論の道具だけで導かれます。 表現とは無縁に見える性質が、行列に翻訳して初めて証明できる——これがバーンサイドの定理の衝撃であり、 表現論が「見える化」以上の力をもつ証拠です。

注意 表現論が代数を動かす

バーンサイドの定理は、表現論の応用の氷山の一角。有限群論では、フロベニウス群の定理(正規部分群の存在)も 表現論(誘導指標)でしか知られていない証明がある。有限単純群の分類という 20 世紀の金字塔も、指標理論を 不可欠の道具とした。さらに数論では、ガロア表現(ガロア群の表現)が代数幾何の フェルマーの最終定理の証明の中心。「対称性を行列に翻訳する」という一手が、群論・数論・幾何を動かす—— 表現論は、見える化の道具であると同時に、証明の武器。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 指標値は代数的整数。 11 の冪根の和だから。Cχi(C)di\frac{|C|\chi_i(C)}{d_i} も。この整数性が値を縛る。
  • 補題:gcd(C,di)=1\gcd(|C|,d_i)=1 なら χi(C)\chi_i(C) はゼロか絶対値 did_i 整数性から中途半端な値が排除される。
  • バーンサイドは純群論の主張。paqbp^aq^b 位数の群は可解」に表現は現れない。だが証明は表現論が要る。
  • 表現論は証明の武器。 見える化だけでなく、群論・数論・幾何の定理を証明する。バーンサイド・フェルマーが例。

この章のまとめ

  • 指標値は代数的整数11 の冪根の和)。Cχi(C)di\frac{|C|\chi_i(C)}{d_i} も代数的整数——この整数性が指標値を強く縛る。
  • 鍵の補題gcd(C,di)=1\gcd(|C|,d_i)=1 なら χi(C)\chi_i(C)ゼロか絶対値 did_iρi(C)\rho_i(C) がスカラー)。
  • バーンサイドの paqbp^aq^b 定理:位数 paqbp^aq^b の群は可解。純群論の主張を、指標の整数性・正則指標の消滅で証明——表現論が群論を証明する
  • 表現論は見える化を超えた証明の武器(フロベニウス群・単純群分類・ガロア表現)。最終章では、有限群からコンパクト群・リー群へ表現論を広げ、分野を総括します。

次章では、有限群の表現論をコンパクト群・リー群へ拡張し(ピーター–ワイル、SU(2)\mathrm{SU}(2))、表現論の全体像と射程をまとめます。