第10章 既約性の判定
「これ以上分解できるか」を実際に判定する
多項式が既約かどうかは、体論・ガロア理論で決定的に重要です。 上で既約な多項式 で 剰余環 を作ると体の拡大が得られ(第2章の の一般化)、 その次数が拡大の次数になる。だから「 は既約か」を判定できることが、体の拡大を作る出発点になります。
前章のガウスの補題のおかげで、 上の既約性は 上の既約性に還元できました。そこで整数係数多項式を対象に、 3つの実用的な判定法を整えます——有理根定理( 次因子の有無)、mod p 還元(有限体に落として調べる)、 そして最強のアイゼンシュタインの判定法。とくにアイゼンシュタインは、円分多項式(ガロア理論)の 既約性を示すのに不可欠で、証明も味わい深いので丁寧に扱います。
有理根定理(1次因子)・mod p 還元(有限体で調べる)・アイゼンシュタイン(素数条件)で多項式の既約性を判定する。
有理根定理
まず、 次因子(=有理根)の有無を調べる基本的な道具です。
定理 有理根定理
整数係数多項式 ()が有理根 (既約分数)をもつなら、 かつ 。
証明
の両辺に を掛けると 。 より 、 ゆえ 。 同様に より 。∎
有限個の候補 ()を代入して調べれば、有理根の有無が分かります。有理根が無ければ 次因子は無い—— 次・ 次多項式なら、有理根が無いことが既約性と同値(次数の都合で 次因子がなければ分解不能)。 ただし 次以上では「 次因子は無いが 次× 次に分解」がありうるので、有理根だけでは足りません。
mod p 還元
素数 で係数を還元し、有限体 上で調べる方法です。無限体より有限体のほうが調べやすい。
定理 mod p 還元による判定
がモニックとする。ある素数 ()で、還元 が 上既約なら、 は 上既約。
証明
対偶。( で非自明分解、ガウスより 上の分解は 上にとれる)なら、還元して 。 より (次数が落ちない)で、これは の非自明分解。ゆえ は可約。∎
では既約多項式が有限個ずつ列挙できるので、 の既約性は機械的に判定できます。例: は 上で既約( の 次・ 次既約多項式で割り切れない)ゆえ 上既約。注意:逆は成り立たない—— 上既約でも、どの でも が可約なことがある( は 上既約だが全ての素数 で 可約)。 「ある で既約なら 上既約」の一方向のみ使えます。
アイゼンシュタインの判定法
最も強力で使いやすい判定法です。1つの素数についての係数条件だけで既約性が言えます。
定理 アイゼンシュタインの判定法
について、ある素数 が を満たすなら、 は 上既約( が原始的なら でも既約)。
証明
が原始的として(内容をくくり出せばよい)、 上可約と仮定= で (、ガウスの補題)。 とする。 で だが なので、 は のちょうど一方を割る (両方割ると )。 としてよい。
先頭係数 で ゆえ 。よって の係数 の中に、 で割れないものがある。 となる最小の をとる()。係数 を見ると、 はすべて で割れる( の最小性)ので 、 残る は ゆえ 。したがって 。だが なので仮定 に反する。矛盾。∎
証明は「先頭係数と定数項の の様子から、途中の係数 ()が で割れないことを引き出し、仮定と矛盾させる」 という鮮やかなもの。 が を1回だけ割る()ことが「 の片方だけ割る」を保証し、 議論を回します。
例 アイゼンシュタインの応用
- は でアイゼンシュタイン()ゆえ 上既約。 の最小多項式。
- 円分多項式 ( 素数):そのままでは判定できないが、 と 変数変換すると となり、二項係数 ()が で割れ、定数項 が で割れないのでアイゼンシュタイン。ゆえ は既約。 これはガロア理論の円分体の理論で本質的。
円分多項式の既約性は、そのままでは見えないのに、 の一手でアイゼンシュタインに乗る——判定法を 「使える形」に変形する発想が光る例です。既約性判定は、体の拡大の存在(ガロア理論)に直結します。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 有理根が無い=既約、は2・3次のみ。 4次以上は「2次×2次」の分解がありうる。有理根定理は1次因子の判定だけ。
- mod p 還元は一方向。 「ある で 既約 ⇒ 既約」。逆は偽()。可約性の判定にも使える(ある で可約でも が可約とは限らないが… の分解が持ち上がるとは限らない)。
- アイゼンシュタインは十分条件。 条件を満たせば既約だが、満たさなくても既約なことは多い。変数変換 で条件を作れることがある(円分多項式)。
- 上の既約性は 上に還元(ガウス)。 これらの判定法が正当化されるのは前章のガウスの補題のおかげ。
この章のまとめ
- 有理根定理( 根なら )で1次因子を判定。2・3次なら有理根の不在=既約。
- mod p 還元:ある素数で が既約なら は 上既約(一方向)。有限体で機械的に調べられる。
- アイゼンシュタインの判定法( ⇒ 既約)が最強。証明は係数 の非可除性を導く。円分多項式の既約性()に応用。
多項式の分解と既約性を扱いました。次章は、多項式の係数と根を結ぶ理論——対称式と終結式へ進みます。