⟐ 数学の作り方 How to make Mathematics

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第11章 対称式・終結式

根を知らずに、根の対称的な情報を計算する

x2−5x+6=0x^2-5x+6=0 の根は 2,32,3。その和 2+3=52+3=5 と積 2⋅3=62\cdot3=6 は、根を求めなくても係数から読めます (解と係数の関係)。実は、根を求めるのは難しく(5次以上は解の公式がない)ても、 根を入れ替えても変わらない量(対称式)は、いつも係数から計算できる——これが対称式の基本定理です。

この事実は深い意味をもちます。「根の対称性」を調べるガロア理論の出発点であり、 2つの多項式が共通根をもつかを根を求めずに判定する終結式、そして重根の有無を判定する判別式を生みます。 判別式 b2−4acb^2-4ac(2次方程式)を一般化するこの理論は、方程式論・数論・代数幾何で 基本的な計算道具になります。この章は「根と係数の橋」を架けます。

根を入れ替えても変わる量(対称式)は、必ず係数(基本対称式)で書ける。終結式・判別式は共通根・重根を係数から判定する。

基本対称式と解と係数の関係

定義 基本対称式

変数 x1,…,xnx_1,\dots,x_n の基本対称式を e1=∑xi,e2=∑i<jxixj,…,en=x1x2⋯xne_1=\sum x_i,\quad e_2=\sum_{i<j}x_ix_j,\quad\dots,\quad e_n=x_1x_2\cdots x_n で定める(kk 個の積の総和)。これらは根と係数を結ぶ:∏i=1n(x−xi)=xn−e1xn−1+e2xn−2−⋯+(−1)nen\prod_{i=1}^n(x-x_i)=x^n-e_1x^{n-1}+e_2x^{n-2}-\cdots+(-1)^ne_n。

つまり、モニック多項式の係数は、根の基本対称式(符号つき)そのもの。x2−5x+6=(x−2)(x−3)x^2-5x+6=(x-2)(x-3) なら e1=5, e2=6e_1=5,\ e_2=6。 係数を知る=根の基本対称式を知る。逆に、根の対称的な量はすべて基本対称式で書ける、というのが次の定理です。

対称式の基本定理

定義 対称式

多項式 f(x1,…,xn)f(x_1,\dots,x_n) が対称式とは、変数のどんな置換 σ\sigma でも不変(f(xσ(1),…,xσ(n))=ff(x_{\sigma(1)},\dots,x_{\sigma(n)})=f)。

定理 対称式の基本定理

任意の対称多項式は、基本対称式 e1,…,ene_1,\dots,e_n の多項式として一意に表される。すなわち対称式環は R[e1,…,en]R[e_1,\dots,e_n] (eie_i は代数的独立)。

証明

(存在、辞書式順序による帰納法。)対称式 ff の項を辞書式順序で並べ、最高次の項 c x1a1⋯xnanc\,x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n} をとる。 対称性より a1≥a2≥⋯≥ana_1\ge a_2\ge\cdots\ge a_n。この項は c e1a1−a2e2a2−a3⋯enanc\,e_1^{a_1-a_2}e_2^{a_2-a_3}\cdots e_n^{a_n} の最高次項と一致する。 ff からこれを引くと、辞書式順序で真に小さい対称式になる。順序に無限降下が無いので、有限回で 00 になり、 ff が eie_i の多項式で書けた。一意性は eie_i の代数的独立性から。∎

証明は「最高次項を基本対称式の積で消し、次数を下げる」帰納法。根の対称的な量は係数から計算できるという 実用的帰結が得られます。とくに「べき和」がよく使われます。

定理 ニュートンの公式

べき和 pk=∑ixikp_k=\sum_i x_i^k と基本対称式 eke_k は、漸化式 pk−e1pk−1+e2pk−2−⋯+(−1)k−1ek−1p1+(−1)kk ek=0p_k-e_1p_{k-1}+e_2p_{k-2}-\cdots+(-1)^{k-1}e_{k-1}p_1+(-1)^k k\,e_k=0 で結ばれる。これで pkp_k を e1,…,eke_1,\dots,e_k から(根を求めずに)計算できる。

例:p1=e1p_1=e_1、p2=e12−2e2p_2=e_1^2-2e_2、p3=e13−3e1e2+3e3p_3=e_1^3-3e_1e_2+3e_3。「根の 22 乗和」が係数から出る——これは 線形代数のトレース(固有値のべき和)とも響き合います。

終結式

2つの多項式が共通根をもつかを、根を求めずに係数から判定します。

定義 終結式

f=am∏(x−αi)f=a_m\prod(x-\alpha_i)、g=bn∏(x−βj)g=b_n\prod(x-\beta_j)(分解体で)の終結式を Res⁡(f,g)=amnbnm∏i,j(αi−βj)=amn∏ig(αi)=(−1)mnbnm∏jf(βj)\operatorname{Res}(f,g)=a_m^n b_n^m\prod_{i,j}(\alpha_i-\beta_j)=a_m^n\prod_i g(\alpha_i)=(-1)^{mn}b_n^m\prod_j f(\beta_j) で定める。これは f,gf,g の係数の多項式(シルヴェスター行列の行列式)として表せ、係数環の中で計算できる。

定理 共通根の判定

f,g∈K[x]f,g\in K[x](非零)について、Res⁡(f,g)=0  ⟺  f,g\operatorname{Res}(f,g)=0 \iff f,g が(KK の代数閉包で)共通根をもつ   ⟺  f,g\iff f,g が非定数の共通因子をもつ。

証明

Res⁡(f,g)=amn∏ig(αi)\operatorname{Res}(f,g)=a_m^n\prod_i g(\alpha_i) が 0  ⟺  0\iff ある αi\alpha_i で g(αi)=0  ⟺  αig(\alpha_i)=0\iff\alpha_i が f,gf,g の共通根。∎

終結式の値は根の差の積 ∏(αi−βj)\prod(\alpha_i-\beta_j) ですが、係数だけから(シルヴェスター行列の行列式で)計算できるのが妙味です。 根を求めずに「共通根の有無」が分かる。連立方程式から変数を消去する(終結式による消去法、代数幾何) 基本手段でもあります。

判別式

ff 自身の重根(ff と f′f' の共通根)の有無を判定するのが判別式です。

定義 判別式

モニック f=∏(x−αi)f=\prod(x-\alpha_i) の判別式を disc⁡(f)=∏i<j(αi−αj)2\operatorname{disc}(f)=\prod_{i<j}(\alpha_i-\alpha_j)^2 で定める。 これは対称式なので係数で書け、disc⁡(f)=(−1)n(n−1)/2Res⁡(f,f′)\operatorname{disc}(f)=(-1)^{n(n-1)/2}\operatorname{Res}(f,f')(定数倍)。

命題 重根の判定

disc⁡(f)=0  ⟺  f\operatorname{disc}(f)=0\iff f が重根をもつ   ⟺  f,f′\iff f,f' が共通根をもつ。

22 次 ax2+bx+cax^2+bx+c の判別式は b2−4acb^2-4ac——おなじみの式が、この一般理論の n=2n=2 の場合です。33 次 x3+px+qx^3+px+q なら disc⁡=−4p3−27q2\operatorname{disc}=-4p^3-27q^2。判別式は「重根=分解体での崩れ」を検出し、ガロア理論で ガロア群が交代群に含まれるか(判別式が平方か)を判定する、数論の基本量になります。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 対称式は基本対称式で書ける(=係数で計算できる)。 根が求まらなくても、対称的な量は係数から出る。これがガロア理論の出発点。
  • 終結式・判別式は係数から計算できる。 定義は根の差の積だが、シルヴェスター行列の行列式で係数だけから求まる。根を求める必要がない。
  • 判別式 =0  ⟺  =0\iff 重根。 b2−4acb^2-4ac の一般化。disc⁡=±Res⁡(f,f′)\operatorname{disc}=\pm\operatorname{Res}(f,f')。
  • べき和はニュートンの公式で。 pkp_k を eie_i(係数)から漸化式で計算。線形代数のトレースと同種。

この章のまとめ

  • 基本対称式 eke_k が根と係数を結ぶ(解と係数の関係)。対称式の基本定理:対称式はすべて eie_i の多項式で一意に書ける(根の対称的な量は係数から計算可能)。ニュートンの公式でべき和を計算。
  • 終結式 Res⁡(f,g)\operatorname{Res}(f,g) は 0  ⟺  0\iff 共通根あり。根の差の積だが係数(シルヴェスター行列式)から計算でき、消去法に使う。
  • 判別式 disc⁡(f)=∏(αi−αj)2=±Res⁡(f,f′)\operatorname{disc}(f)=\prod(\alpha_i-\alpha_j)^2=\pm\operatorname{Res}(f,f') は 0  ⟺  0\iff 重根あり。b2−4acb^2-4ac の一般化で、ガロア理論の基本量。

最終章は、環の有限性を保証する条件——ネーター環とヒルベルトの基底定理へ進みます。