第11章 対称式・終結式
根を知らずに、根の対称的な情報を計算する
の根は 。その和 と積 は、根を求めなくても係数から読めます (解と係数の関係)。実は、根を求めるのは難しく(5次以上は解の公式がない)ても、 根を入れ替えても変わらない量(対称式)は、いつも係数から計算できる——これが対称式の基本定理です。
この事実は深い意味をもちます。「根の対称性」を調べるガロア理論の出発点であり、 2つの多項式が共通根をもつかを根を求めずに判定する終結式、そして重根の有無を判定する判別式を生みます。 判別式 (2次方程式)を一般化するこの理論は、方程式論・数論・代数幾何で 基本的な計算道具になります。この章は「根と係数の橋」を架けます。
根を入れ替えても変わる量(対称式)は、必ず係数(基本対称式)で書ける。終結式・判別式は共通根・重根を係数から判定する。
基本対称式と解と係数の関係
定義 基本対称式
変数 の基本対称式を で定める( 個の積の総和)。これらは根と係数を結ぶ:。
つまり、モニック多項式の係数は、根の基本対称式(符号つき)そのもの。 なら 。 係数を知る=根の基本対称式を知る。逆に、根の対称的な量はすべて基本対称式で書ける、というのが次の定理です。
対称式の基本定理
定義 対称式
多項式 が対称式とは、変数のどんな置換 でも不変()。
定理 対称式の基本定理
任意の対称多項式は、基本対称式 の多項式として一意に表される。すなわち対称式環は ( は代数的独立)。
証明
(存在、辞書式順序による帰納法。)対称式 の項を辞書式順序で並べ、最高次の項 をとる。 対称性より 。この項は の最高次項と一致する。 からこれを引くと、辞書式順序で真に小さい対称式になる。順序に無限降下が無いので、有限回で になり、 が の多項式で書けた。一意性は の代数的独立性から。∎
証明は「最高次項を基本対称式の積で消し、次数を下げる」帰納法。根の対称的な量は係数から計算できるという 実用的帰結が得られます。とくに「べき和」がよく使われます。
定理 ニュートンの公式
べき和 と基本対称式 は、漸化式 で結ばれる。これで を から(根を求めずに)計算できる。
例:、、。「根の 乗和」が係数から出る——これは 線形代数のトレース(固有値のべき和)とも響き合います。
終結式
2つの多項式が共通根をもつかを、根を求めずに係数から判定します。
定義 終結式
、(分解体で)の終結式を で定める。これは の係数の多項式(シルヴェスター行列の行列式)として表せ、係数環の中で計算できる。
定理 共通根の判定
(非零)について、 が( の代数閉包で)共通根をもつ が非定数の共通因子をもつ。
証明
が ある で が の共通根。∎
終結式の値は根の差の積 ですが、係数だけから(シルヴェスター行列の行列式で)計算できるのが妙味です。 根を求めずに「共通根の有無」が分かる。連立方程式から変数を消去する(終結式による消去法、代数幾何) 基本手段でもあります。
判別式
自身の重根( と の共通根)の有無を判定するのが判別式です。
定義 判別式
モニック の判別式を で定める。 これは対称式なので係数で書け、(定数倍)。
命題 重根の判定
が重根をもつ が共通根をもつ。
次 の判別式は ——おなじみの式が、この一般理論の の場合です。 次 なら 。判別式は「重根=分解体での崩れ」を検出し、ガロア理論で ガロア群が交代群に含まれるか(判別式が平方か)を判定する、数論の基本量になります。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 対称式は基本対称式で書ける(=係数で計算できる)。 根が求まらなくても、対称的な量は係数から出る。これがガロア理論の出発点。
- 終結式・判別式は係数から計算できる。 定義は根の差の積だが、シルヴェスター行列の行列式で係数だけから求まる。根を求める必要がない。
- 判別式 重根。 の一般化。。
- べき和はニュートンの公式で。 を (係数)から漸化式で計算。線形代数のトレースと同種。
この章のまとめ
- 基本対称式 が根と係数を結ぶ(解と係数の関係)。対称式の基本定理:対称式はすべて の多項式で一意に書ける(根の対称的な量は係数から計算可能)。ニュートンの公式でべき和を計算。
- 終結式 は 共通根あり。根の差の積だが係数(シルヴェスター行列式)から計算でき、消去法に使う。
- 判別式 は 重根あり。 の一般化で、ガロア理論の基本量。
最終章は、環の有限性を保証する条件——ネーター環とヒルベルトの基底定理へ進みます。