数学の作り方 How to make Mathematics

第12章 連結性

「ひとつながり」を、切れ目の無さで定義する

最後のテーマは、いちばん素朴な問い——その空間はひとつながりか、それともバラバラか。 区間 [0,1][0,1] はひとつながり、2つの離れた区間 [0,1][2,3][0,1]\cup[2,3] は2つに分かれている。 円周はつながっているが、1点を抜くと…?

「ひとつながり」を正確に言うには、「2つの開集合にきれいに分割できない」と否定形で捉えるのが コツです。分けられないなら、ひとつながり。この連結性は、微積分の中間値の定理の 本当の理由であり、そして「穴の数」で空間を区別する位相幾何学への入り口になります。 集合と位相の締めくくりにふさわしい、幾何へ橋を架けるテーマです。

連結 = 交わらない2つの開集合に割れない = 切れ目が無い。中間値の定理の源であり、位相幾何への扉。

連結性

定義 連結

位相空間 XX連結とは、XX を交わらない2つの空でない開集合の和には分割できないこと。 (同値:開かつ閉である集合が \emptysetXX に限る。)

「2つの開集合に割れない」という否定形が定義の中心です。[0,1][2,3][0,1]\cup[2,3][0,1][0,1][2,3][2,3](互いに 相手の中で開かつ閉)に割れるので非連結。R\mathbb R や区間は連結。「開かつ閉が自明なものだけ」という 言い換えは、証明でとても使いやすい形です。連結性は連続写像で保たれます。

定理 連続像の連結性と中間値の定理

f:XYf:X\to Y が連続で XX が連結なら、像 f(X)f(X) も連結。 系(中間値の定理):連結空間上の連続な実数値関数は、2つの値の間のすべての値をとる。

微積分第5章の中間値の定理が、ここで正体を現します。R\mathbb R の連結部分集合は区間だけ。 連続写像は連結を連結へ写すので、連結な定義域上の連続関数の像は R\mathbb R の中の区間=中間の値をすべて含む。 「つながっているものを連続に写せばつながったまま、途中の値を飛ばせない」——中間値の定理は 連結性の一行の帰結だったのです。

弧状連結:実際に道でつなぐ

連結は「割れない」という否定形でした。もっと積極的に「どの2点も道で結べる」で定義するのが弧状連結です。

定義 弧状連結

XX弧状連結とは、任意の2点 x,yx,y に対し連続写像(道)γ:[0,1]X\gamma:[0,1]\to Xγ(0)=x,γ(1)=y\gamma(0)=x,\gamma(1)=y となるものが存在すること。

命題 弧状連結 ⇒ 連結

弧状連結なら連結。逆は一般には成り立たない。

「道でつなげる」ほうが直感的で強い条件です。逆が成り立たない有名な反例がトポロジストのサイン曲線 {(x,sin1x):0<x1}({0}×[1,1])\{(x,\sin\frac1x):0<x\le1\}\cup(\{0\}\times[-1,1])。原点付近で無限に振動するため、yy 軸部分と曲線部分を 連続な道で結べない(弧状連結でない)のに、全体は切り離せず連結。「つながっている」と「道で行ける」は 微妙に違う、という位相の奥深さを示す例です。ただし多くの良い空間(Rn\mathbb R^n の開集合、多様体)では 両者は一致します。

連結成分

つながっていない空間も、「つながっている最大の塊」に自然に分解できます。

定義 連結成分

XX の各点を含む最大の連結部分集合を、その点の連結成分という。 連結成分は互いに交わらず、XX を分割する(各成分は閉集合)。

xxyy が同じ連結成分にある」は同値関係で、XX をひとつながりの塊たちにきれいに割ります。 連結成分の個数は位相不変量(第8章)——同相なら成分数は等しい。だから 「1点を抜くと成分数が変わるか」で空間を区別できます。区間 [0,1][0,1] は内点を抜くと2成分に割れるが、 円周 S1S^1 は1点抜いても1成分のまま——ゆえに両者は同相でない。第8章で予告した区別が、これで完結します。

位相幾何への扉

注意 次はどこへ

連結成分は「00 次元の穴(何個の塊か)」を数える不変量とみなせる。これを「11 次元の穴(ループが 引っかかる穴)」「22 次元の穴(空洞)」…へ精密化したのが、基本群やホモロジー(→位相幾何学)。 弧状連結の「道」を、道の変形(ホモトピー)まで込めて考えると基本群が生まれる。集合と位相は、 ここから代数的トポロジー・多様体論へと受け継がれていく。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 連結は否定形で定義する。 「2つの開集合に割れない」=「開かつ閉が自明のみ」。積極的定義がしにくいのが連結、しやすいのが弧状連結。
  • 連結でも弧状連結とは限らない(トポロジストのサイン曲線)。逆(弧状連結 ⇒ 連結)は常に真。
  • 中間値の定理は「定義域が連結」で成り立つ。微分可能性は不要——連結性だけの帰結。

この章のまとめ

  • 連結 = 交わらない2つの開集合に割れない = 開かつ閉が自明のみ。連続像は連結で、その系が中間値の定理
  • 弧状連結(道で結べる)は連結より強い(逆は一般に偽)。連結成分は空間をひとつながりの塊に分割し、その個数は位相不変量。
  • 連結成分は「00 次元の穴」の数。これを高次へ精密化すると基本群・ホモロジー=位相幾何学へ。

これで集合と位相は一区切りです。濃度・選択公理から始め、距離空間で解析の土台を固め、 位相空間で「近さ」を距離から解放しました。ここで培った開集合・コンパクト・連結・分離の言葉は、 位相幾何学多様体論関数解析へと、あらゆる方向に流れ込んでいきます。おつかれさまでした。