第9章 応用 — 微分が掛け算・熱方程式を解く
なぜフーリエ変換で方程式が解けるのか
ここまで理論を積み上げてきました。いよいよ、フーリエ解析が道具になる瞬間です。核心は第5章の演算規則—— 微分が掛け算 倍に化ける。微分方程式(微分を含む、解くのが難しい)をフーリエ変換すると、微分が 掛け算に変わり、代数方程式(掛け算・割り算だけ、易しい)になる。それを解いて逆変換で戻せば、元の方程式の 解が得られる。
この「翻訳して解いて戻す」三段構えが、フーリエ解析の戦略です。微分方程式で 変数分離やフーリエ級数を使って解いた熱・波動方程式を、ここではフーリエ変換で一気に、しかも無限領域で解きます。
微分方程式をフーリエ変換 → 微分が 倍になり代数方程式に → 解いて逆変換で戻す。翻訳して解く。
常微分方程式の例——ウォームアップ
まず簡単な常微分方程式で手順を体感します。( 与えられた、 を求める)を解きましょう。
例 $-u''+u=f$ を解く
両辺をフーリエ変換。(第5章)なので
微分方程式が、 についてのただの割り算になった。あとは逆変換。 は のフーリエ変換(第5章の例)なので、畳み込み定理(第6章)より
掛け算 (振動数領域)が、畳み込み(時間領域)に翻訳された。 が この方程式の基本解(第12章)——入力 に対する応答の“重み”。
微分方程式 → 割り算 → 畳み込み、という流れがフーリエ解析の定型です。 のような「振動数ごとの 応答倍率」を伝達関数、その逆変換を**基本解(グリーン関数)**と呼びます。
熱方程式を解く
いよいよ本命。棒や空間を熱がどう伝わるかを表す熱方程式を、フーリエ変換で解きます。空間変数 について 変換するのがコツ(時間 はパラメータのまま)。
定理 熱方程式の解(熱核)
熱方程式の初期値問題
の解は、熱核 との畳み込み
証明
空間 についてフーリエ変換。(第5章)なので、方程式は について
これは各 ごとのただの常微分方程式( の指数減衰)で、解は 。 はガウス のフーリエ変換なので、畳み込み定理(第6章)より 。∎
見事です。偏微分方程式が、各振動数ごとの指数減衰 に分解されました。物理的な意味も明快です。
注意 熱方程式が語ること
は「各振動数成分が の速さで減衰する」。高振動数(大きい ) ほど速く消える——だから熱は凸凹(細かい振動=高振動数)を真っ先にならし、なめらかにしていく。時間が経つと 高周波が死に、分布は鈍って広がる。熱核 は第6章のガウス近似単位元そのもので、 で に戻り (初期条件)、 が増えると幅 で広がる。「なましと熱拡散は同じ畳み込み」の伏線が、ここで回収される。
波動方程式とラプラス方程式
同じ手順が他の方程式にも効きます。方程式ごとに「振動数の応答」が変わるだけです。
例 他の方程式の応答
- 波動方程式 :変換すると 、解は 。振動数成分は減衰せず振動(波は形を保って伝わる)。逆変換すると ダランベールの公式 (微分方程式)。
- ラプラス方程式(半平面):。境界値 が 内部へ指数減衰しながら伝わる。逆変換はポアソン核との畳み込み。
熱は (減衰)、波は (振動)、ラプラスは (減衰)。方程式の性格が、振動数 ごとの応答にそのまま表れる。フーリエ変換は、偏微分方程式を「振動数ごとの簡単な問題」に分解する万能の 道具なのです。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- どの変数で変換するか。 熱・波動では空間 で変換し、時間 はパラメータに残す。すると の常微分 方程式になる。変換する変数の選択が要。
- 微分が掛け算になるのが全て。 、。これで微分方程式が代数方程式に。 この一点がフーリエ解析を道具にする。
- 解=基本解(核)との畳み込み。 振動数領域の割り算・掛け算が、時間領域では畳み込み。核(熱核・ポアソン核)が 方程式の“指紋”。
- 高振動数の運命が方程式を特徴づける。 熱は高周波を殺し(平滑化)、波は保つ(伝播)。応答 対 の違い。
この章のまとめ
- フーリエ変換の戦略:微分方程式を変換 → 微分が 倍で代数方程式 → 解いて逆変換。振動数領域の割り算が、時間領域の畳み込み(基本解との)になる。
- 熱方程式:。各振動数が で減衰(高周波ほど速く消える=平滑化)。解は熱核(ガウス近似単位元)との畳み込み 。
- 波動は (振動・伝播)、ラプラスは (減衰)。方程式の性格が振動数応答に表れる。
- Part II(フーリエ変換)はここまで。だがデルタ関数のような“関数でない対象”を変換したい場面が出てくる。次章から、微分できないものを微分する超関数の理論へ。
次章では、デルタ関数の困りごとを出発点に、試験関数・シュワルツ空間・緩増加超関数を導入します。