第12章 解法 — 変数分離・フーリエ・グリーン関数
PDEを、単純な波の重ね合わせに分解する
前章までで、波動・熱・ラプラス方程式の性格を見ました。この最終章では、これらを実際に解く一般的技法を 整えます。中心となる発想は、線形性——線形PDEでは解を重ね合わせられるので、 方程式を単純な解(波)に分解し、それを重ね合わせて任意の初期条件に合わせる。
有限区間(弦、棒)では変数分離でフーリエ級数、無限区間ではフーリエ変換、そして任意の外力・境界には グリーン関数(点源への応答を重ね合わせる)。これらはすべて「複雑な入力を単純な部品に分解し、各部品への 応答を足す」という線形性の思想の現れです。ここでフーリエ解析(波の分解)が全面的に効き、 微分方程式論が締めくくられます。「どんな波も単純な正弦波の和」というフーリエの洞察が、PDEを解く鍵になります。
線形PDEは単純な解の重ね合わせで解く:変数分離(フーリエ級数)、フーリエ変換、グリーン関数(点源の応答)。
変数分離とフーリエ級数
有限区間の熱・波動方程式を解く古典的技法。解を「空間の関数 × 時間の関数」の積と仮定します。
定理 変数分離法(熱方程式の例)
区間 の熱方程式 、境界条件 、初期条件 を考える。 と仮定すると、方程式は (定数)に分離され、 一般解は重ね合わせ
証明
を代入し 、両辺を で割ると左辺は だけ・右辺は だけの関数ゆえ定数 。 、境界条件 から固有値 、固有関数 (線形代数の固有値問題の無限次元版)。 より 。線形性で重ね合わせ、初期条件 は のフーリエ正弦級数(フーリエ解析)で係数 が定まる。∎
変数分離の心は「 の左辺は だけ、右辺は だけ→両方定数」という論法。すると空間部分が 固有値問題 になり、その固有関数 が「基本モード」。任意の初期条件は、これらの モードのフーリエ級数で表され、各モードが独立に で減衰する。高い振動数(大きい )ほど速く減衰—— だから熱方程式は平滑化する(前章)。フーリエ解析と固有値問題が、PDEの解法として結実します。
フーリエ変換
無限区間(境界のない全空間)では、離散的なフーリエ級数の代わりに連続的なフーリエ変換を使います。
注意 フーリエ変換による解法
フーリエ変換 は微分を掛け算に変える(、フーリエ解析)。 熱方程式 は変換すると ——各 についてただのODE! 解 を 逆変換すると、前章の熱核との畳み込みが得られる( の逆変換がガウス核)。 「PDEをフーリエ変換でODEに落とし、解いて逆変換」——これが無限区間の標準技法。
フーリエ変換が「微分 → 掛け算」に変えるおかげで、PDEが各振動数ごとの独立なODEに分解される。これは変数分離の 連続版です。複素解析の留数計算が、逆変換の積分計算で活躍します。
グリーン関数
任意の外力・境界条件に対する統一的な解法が、グリーン関数です。「点源への応答」を求め、それを重ね合わせます。
定義 グリーン関数
線形微分作用素 に対し、点源(デルタ関数)への応答 を満たす をグリーン関数という (境界条件込み)。すると外力 に対する の解は、重ね合わせ
グリーン関数の思想は「任意の外力を、点源の重ね合わせ とみなし、各点源への応答 を 足す」。線形性(重ね合わせ)の究極の形です。前章の熱核は熱方程式のグリーン関数、 ラプラス方程式のグリーン関数はポテンシャル論(複素解析・発展的PDE)の中心。 微積分のディラックのデルタ・畳み込み、フーリエ解析の畳み込み定理が、ここで一つに まとまります。
注意 重ね合わせの思想
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 変数分離は線形+分離可能な境界で。 が使えるのは線形PDE+適合する境界条件のとき。固有関数()が空間の「基底」。
- フーリエ変換は微分を掛け算に。 。PDEを各振動数のODEに分解。無限区間で有効。
- グリーン関数=点源への応答。 任意の外力は点源の重ね合わせ、解は 。熱核はその一例。
- 3技法とも「分解して重ね合わせる」線形性の思想。 正弦波・複素指数・デルタ関数という部品の違い。非線形PDEには使えない。
この章のまとめ
- 変数分離 :空間部分が固有値問題()、初期条件をフーリエ級数で表す。各モードが独立に減衰/振動。
- フーリエ変換は微分を掛け算に変え、PDEを各振動数のODEに落とす(無限区間)。逆変換が熱核等を与える。
- グリーン関数は点源への応答 。任意の外力は で解ける。3技法とも「単純な部品に分解し線形性で重ね合わせる」思想で、フーリエ解析・関数解析へ繋がる。
これで微分方程式は完結です。「変化の法則から未来を復元する」——初等解法・存在と一意性・線形理論・定性理論・ そして偏微分方程式まで辿りました。ここで培った線形性・固有値・安定性・重ね合わせの視点は、フーリエ解析・ 関数解析・発展的な偏微分方程式・力学系へと受け継がれていきます。おつかれさまでした。