数学の作り方 How to make Mathematics

第7章 指標表

表現論の全情報を、一枚の表に

前章で既約指標が正規直交系だと分かりました。これを一覧にまとめたのが指標表——行が既約指標、列が共役類、 各マスがその値。この小さな表に、群の表現論の全情報が収まります。任意の表現の分解も、既約表現の個数も、 次元も、すべて指標表から読み取れる。表現論の“設計図”です。

指標表には、驚くほど美しい対称性があります。行が正規直交(前章の第一直交関係)なだけでなく、列も直交する (第二直交関係)。しかも表は正方形——既約表現の個数が共役類の数にちょうど等しい。この二つの事実が、 指標表を計算可能で完結したものにします。

指標表=既約指標 × 共役類の表。行も列も直交し、正方形(既約の個数=共役類の数)。表現論の全情報が収まる。

既約表現の個数 = 共役類の数

まず、表が正方形になる理由。既約指標は類関数の空間の正規直交“基底”をなし、その次元=共役類の数だから、 既約表現の個数もそれに等しくなります。

定理 既約表現の個数

有限群 GG の相異なる既約表現の個数は、GG共役類の数に等しい。

証明

既約指標は類関数の空間 C\mathcal C の正規直交系(前章)。C\mathcal C を張ること (基底であること)を示せば、個数=dimC\dim\mathcal C=共役類の数。もし既約指標に直交する類関数 φ0\varphi\ne0 が あれば、φ\varphi を使って作る作用素 gφ(g)ρ(g)\sum_g\varphi(g)\rho(g) が各既約でスカラー(シューア)になり、内積が 00 から φ=0\varphi=0 が従う(矛盾)。ゆえに既約指標は C\mathcal C を張る基底。∎

「既約表現の個数=共役類の数」——表現の分類(既約の個数)が、群の共役類(群論の類等式)で 数えられる。S3S_3 は共役類が 33 個(ee、互換、33-サイクル)だから既約表現も 33 個。可換群は元がすべて別々の 共役類なので、既約表現の個数=G|G|(すべて 11 次、第3章)。表現の側と群の側が、 この一点で結ばれます。

指標表を読む

指標表がどんなものか、実際に見てみましょう。小さな群の指標表を表示し、行の直交(第一直交関係)を確かめられます。

既約指標(行)を 2 つクリック → 内積を計算

行(既約指標)を二つクリックすると、内積 χi,χj\langle\chi_i,\chi_j\rangle が計算されます——同じ行なら 11、違う行なら 00(第一直交関係)。左端の各行に次元 did_i=χi(e)=\chi_i(e))、上端に共役類とそのサイズ C|C|。次元の二乗和 di2=G\sum d_i^2=|G|第4章)も確かめられます。Z/4\mathbb Z/4 では複素の指標i,ii,-i)が 現れます——第3章の可換群の 11 次指標です。この一枚の表が、群の表現をすべて 記述しています。

第二直交関係——列も直交する

行が直交するだけでなく、列(共役類)も直交します。これが指標表の隠れた対称性で、表を“正方形の直交表”に します。

定理 第二直交関係(列の直交)

指標表の列(共役類 C,CC,C' に対応)について

iχi(C)χi(C)={G/C(C=C)0(CC),\sum_i\chi_i(C)\overline{\chi_i(C')}=\begin{cases}|G|/|C|&(C=C')\\0&(C\ne C'),\end{cases}

ii は全既約表現を走る)。すなわち列も直交する。

第一直交関係(行)は既約指標の正規直交性、第二直交関係(列)はその双対です。両者は、指標表を「行ベクトルの 集まりとしても列ベクトルの集まりとしても直交する正方行列」にします(適切な重みで)。この二重の直交性が、 指標表の値を強く制約し、未知の行や列を埋めるのに使えます(第9章で実際に指標表を構成するとき、この 「直交で穴を埋める」技法が主役になります)。

注意 指標表からすべてが読める

指標表が決まれば、群の表現論はほぼ決まる——

  • 表現の分解:任意の表現の指標を求め、各既約指標との内積(重複度)を計算(前章)。
  • 既約の次元:各行の χi(e)\chi_i(e)。二乗和が G|G|
  • 元の位数・正規部分群:指標の値から核 kerρi={g:χi(g)=χi(e)}\ker\rho_i=\{g:\chi_i(g)=\chi_i(e)\} が読め、正規部分群が分かる。
  • 群の同型判定:ただし指標表だけでは群は決まらない(D4D_4Q8Q_8 は指標表が同じだが非同型!)。指標表は 強力だが群の完全な不変量ではない、という繊細さもある。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 既約表現の個数=共役類の数。 表は正方形。S3S_333 個、可換群は G|G| 個。既約指標が類関数の基底だから。
  • 行も列も直交(第一・第二直交関係)。 行は既約指標の正規直交、列はその双対。指標表構成の道具。
  • 複素指標もある。 Z/4\mathbb Z/4i,ii,-i など。可換群の 11 次指標は一般に複素。実とは限らない。
  • 指標表は群を完全には決めない。 D4D_4Q8Q_8 は同じ指標表だが非同型。強力だが万能でない。

この章のまとめ

  • 指標表=既約指標 × 共役類の表(正方形:既約表現の個数=共役類の数、既約指標が類関数の基底だから)。
  • 第一直交関係(行)+第二直交関係(列)で、行も列も直交する正方直交表。この二重直交性が値を制約し、表の構成に使える。
  • 指標表からすべてが読める:表現の分解(内積)・次元(di2=G\sum d_i^2=|G|)・正規部分群(指標の核)。ただし群を完全には決めないD4,Q8D_4,Q_8 は同一表)。
  • 直交関係が揃った。次章では、これらを使って正則表現の分解を読み、次元の二乗和公式など基本等式を指標理論の言葉で確立します。

次章では、正則表現の指標を計算して分解を確認し、次元の二乗和・重複度・射影公式など、指標理論の基本等式をまとめます。