第5章 コンパクト性(距離空間)
「無限なのに、有限のように扱える」空間
有限集合は扱いやすい。連続関数は最大値をとるし、点列は必ず“たまり場”をもつ。 無限になった途端これらは壊れます—— 上の に最大値は無く、点列 は どこにも溜まらない。
ところが、無限集合の中には有限とそっくりに振る舞う特別なものがあります。それがコンパクト集合。 「有界閉区間 では連続関数が最大値をとる」(微積分第5章)という事実の、 本当の理由がこれです。コンパクト性は「有限性のいちばん役に立つ部分だけを抽出した」概念で、 解析・幾何・位相のいたるところで存在定理を生み出します。
コンパクト = 無限だが有限のように振る舞う。最大値の存在も一様連続も、根っこはここ。
3つの顔(距離空間では一致する)
コンパクト性には見た目の違う定義がいくつかあり、距離空間では全部一致します。まず点列で捉えます。
定義 点列コンパクト・全有界
が点列コンパクトとは、任意の点列が収束する部分列をもつこと(どんな無限列にも“たまり場”がある)。 が全有界とは、任意の に対し有限個の半径 の球で を覆えること。
定理 距離空間でのコンパクト性の同値
距離空間 について、次は同値:
- 任意の開被覆が有限部分被覆をもつ(コンパクトの一般的定義。第11章)。
- 点列コンパクト。
- 完備かつ全有界。
3の分解がいちばん直感的です。完備(穴が無い)+全有界(有限個の球で覆える)=コンパクト。 全有界で「無限列がどこかの球に無限個溜まる」、完備で「その溜まりが本当に収束する」——両方合わさって 「必ず収束部分列がある」が言えます。第2章のボルツァーノ–ワイエルシュトラス(有界列は収束部分列をもつ)が 一般化された姿です。
ハイネ–ボレルの定理
という具体的な舞台では、コンパクト性が「有界かつ閉」という目で見える条件に化けます。
定理 ハイネ–ボレルの定理
の部分集合について:コンパクト 有界かつ閉。
や閉球がコンパクトなのはこれ。ただし強調すべきは、これは 特有の幸運だということ。 無限次元では崩れます。
例 無限次元では有界閉でもコンパクトでない
無限次元の空間(例:)では、単位閉球は有界かつ閉なのにコンパクトでない。正規直交列 は 互いの距離が で一定なので、収束部分列をもてない(全有界でない)。「有界閉=コンパクト」を 無条件に信じると、関数解析で必ず事故る。だから全有界という条件が本質だった。
コンパクト性が生む存在定理
コンパクト性が偉いのは、「連続写像で保たれ、そこから重要な存在が芋づる式に出る」点です。
定理 連続像のコンパクト性
が連続で がコンパクトなら、像 もコンパクト。
系 最大値・最小値の定理
コンパクト集合上の連続な実数値関数は、最大値と最小値をとる。
証明は一瞬です。 はコンパクト=有界閉(ハイネ–ボレル)なので、上限・下限を含む=最大最小に到達。 微積分第5章の最大値定理は、「有界閉区間がコンパクト」+「連続像がコンパクト」の合わせ技 だったのです。同じ理由で次も出ます。
定理 コンパクト上の連続は一様連続(ハイネ)
コンパクト距離空間上の連続写像は一様連続。
各点の を有限個の球でまとめて共通化できる——微積分第5章のハイネの定理も、 リーマン積分の存在(第7章)も、根はコンパクト性の「有限に落とせる」力でした。 これまで別々に見えた定理が、一つの原理でつながります。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 「有界閉=コンパクト」は だけ。 一般の距離空間・無限次元では成り立たない。正しくは「完備+全有界」。
- 閉集合は一般にコンパクトでない( 自身は閉だが非コンパクト)。逆に「コンパクト ⇒ 閉かつ有界」は一般の距離空間でも成り立つ。
- 連続で保たれるのは像 のコンパクト性。逆像は一般にコンパクトにならない。
この章のまとめ
- コンパクト = 有限のように振る舞う無限。距離空間では「開被覆に有限部分被覆」=「点列コンパクト」=「完備+全有界」。
- ではハイネ–ボレルにより「有界かつ閉」と一致するが、これは有限次元特有。無限次元では有界閉でもコンパクトでない。
- 連続像はコンパクト。ここから最大値・最小値の定理と一様連続(ハイネ)が一気に出る。微積分の存在定理の共通の源。
次章は、コンパクト性・完備性を使う花形の応用——縮小写像とバナッハの不動点定理を、一様連続とあわせて扱います。