第6章 連続写像と不動点
「押し縮める写像」は、必ず一点に落ち着く
地図をたたんで、実物の国土の上にぽんと置く。すると地図上のどこか1点だけは、 その真下の実際の地点とぴったり重なっている——これは「地図が実物より縮んでいる」限り、 必ず起こります。この“動かない1点”が不動点です。
なぜ役に立つのか。「方程式を解く」ことの多くは、うまく変形すると「 となる を探す」 =不動点探しに化けるからです。そして「 が縮小写像なら不動点がただ一つ存在し、しかも 繰り返し適用するだけで必ずそこへ収束する」と保証できる。存在・一意・求め方の3つを同時に与える、 この上なく実用的な定理——それがバナッハの不動点定理です。
縮小写像は不動点をただ一つもち、どこから始めても反復でそこへ収束する。存在・一意・構成を一挙に。
まず一様連続を押さえる
連続には強さの差がありました(微積分第5章)。不動点定理の主役「縮小写像」は、 一様連続をさらに強めたものなので、ここで整理します。
定義 一様連続とリプシッツ連続
が一様連続: ( が点によらず共通)。 さらに定数 で が成り立つときリプシッツ連続(変化率が で頭打ち)。
リプシッツ連続 ⇒ 一様連続 ⇒ 連続。前章の通りコンパクト上なら連続は自動で一様連続でした。 そして の特別なリプシッツ写像が縮小写像です。
縮小写像とバナッハの不動点定理
定義 縮小写像
完備距離空間 上の写像 が縮小写像とは、ある で 2点の距離を、適用するたび一定割合 未満に縮める。
下で体感しましょう。写像 の反復を「クモの巣図」で描きます。 傾き (=縮小率)を動かすと、 なら開始点をどこにとっても不動点に吸い込まれ、 では発散します。縮小率が 未満であることが収束の生命線だと分かります。
定理 バナッハの不動点定理
完備距離空間上の縮小写像 は、不動点 ()をただ一つもつ。 さらに任意の初期点 からの反復 は に収束し、誤差評価 が成り立つ。
証明
反復列 を作る。 なので、 三角不等式と等比級数()から はコーシー列。完備性より収束し極限 をもつ。 は連続だから 、つまり不動点。一意性: なら 、 より 。
証明の骨は「縮小 ⇒ 反復列がコーシー ⇒ 完備性で収束」。縮小性が存在と一意性を、完備性が “行き先がある”ことを担うという、前章までの道具のきれいな合わせ技です。しかも誤差評価つきなので、 何回反復すれば十分かまで分かる——数値計算に直結します。
どこで効くか
例 不動点定理の応用
「解を直接作れなくても、解を不動点として存在させる」。この非構成的にも構成的にも使える両刀が、 不動点定理を解析の万能工具にしています。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- が厳密に必要。 (真に縮むが が に届く)だけでは不動点が無いことがある (例: 上 的なもの)。一様な縮小率 が要る。
- 完備性が必須。 不完備空間では反復列がコーシーでも収束先が無く、不動点が存在しないことがある。
- は を の中へ写す()必要がある。像が外へ出ると反復が定義できない。
この章のまとめ
- 連続の強い版:一様連続 ⊃ リプシッツ連続(変化率 )⊃ 縮小写像()。
- バナッハの不動点定理:完備空間上の縮小写像は不動点をただ一つもち、反復でそこへ収束(誤差評価つき)。縮小性が存在・一意を、完備性が収束を保証。
- 微分方程式の解の存在・逆関数定理・数値反復法など、「解を不動点として存在させる」応用の宝庫。
ここまでが距離空間。次章から、距離という前提すら外して「開集合」だけで語る位相空間へ跳びます。