第2章 完全形・ベルヌーイ・リッカチ
「解ける形」のレパートリーを増やす
前章で変数分離形と一階線形を解きました。この章では、初等的に解ける一階方程式のレパートリーをさらに広げます。 共通する発想は「うまい変換で、既知の形に持ち込む」こと。
完全形は、方程式が「あるポテンシャル関数の全微分=」の形になっているのを見抜き、そのポテンシャルを 復元します(微積分の保存場と同じ精神)。完全でなくても、積分因子を掛けて完全にできることがある。 ベルヌーイ方程式は非線形ですが、変数変換で一階線形に化けます。リッカチ方程式は一般には解けませんが、 特殊解を一つ知っていれば線形に帰着できる。「非線形を線形に落とす変換」という、微分方程式論の中心的な技法の 入門です。次章で存在と一意性の一般論に入る前に、具体的に手を動かす最後の章です。
完全形=全微分の復元、ベルヌーイ=変換で線形化、リッカチ=特殊解で線形化。「既知の形へ持ち込む」技法。
完全形
が「ある関数 の全微分 」なら、解は です。それを見抜く判定条件があります。
定義 完全形
が完全形とは、ある 関数 (ポテンシャル)で となること。 このとき より、解は 。
定理 完全性の判定
が で単連結領域上にあるとき、 が完全 。
証明
完全なら (シュワルツの定理)。逆は微積分第12章の保存場の理論そのもの: (渦なし)なら単連結領域でポテンシャル (経路によらない)が存在。∎
判定条件 は、ベクトル解析の「保存場 ⇔ 回転が 」の一階微分方程式版です。完全なら、 を で積分して とし、 から を決めれば、解 が求まります。
例 完全形の解法
: で完全。、 より 、。解は 。
注意 積分因子で完全化
完全でなくても、積分因子 を掛けて を完全にできることがある。 の条件が、 が だけ・ だけの関数のとき解ける。一階線形の (前章)も、この積分因子の一例。
ベルヌーイ方程式
非線形 は、一見手強いですが、変数変換で一階線形に化けます。
定理 ベルヌーイ方程式
(、ベルヌーイ方程式)は、 とおくと について一階線形になる:
証明
両辺を で割ると 。 なら 、すなわち 。 代入して 、整理して結論。あとは前章の積分因子で解く。∎
「 という置換が非線形項を消す」——冪 に合わせて変数を取り替えると、線形になる。この 「適切な変換で非線形を線形化」は、微分方程式論の核心的なアイデアです。
例 ベルヌーイの例
(): とすると 。積分因子 で解いて 、 (ロジスティック型)。
リッカチ方程式
( について 次)は、一般には初等的に解けません。しかし特殊解を一つ知っていれば、 線形(ベルヌーイ)に帰着できます。
定理 リッカチ方程式
リッカチ方程式 について、特殊解 が一つ分かっているとき、 とおくと について一階線形になる:
証明
()とすると、 が解ゆえ差 は というベルヌーイ方程式()を満たす。 で線形化すると上の式。∎
「特殊解 を一つ見つければ、残りは線形」。リッカチは、特殊解の存在が全体を解く鍵になる典型で、この 「一つの解から全体へ」という構造は、線形方程式の一般論や量子力学(リッカチ↔シュレディンガー)でも 現れます。リッカチ方程式は、 階線形方程式 と( の変換で)等価という深い関係もあります。
つまずきポイント
注意 よくある誤解
- 完全性の判定は 。 ベクトル解析の「保存場 ⇔ 回転 」と同じ。単連結性が必要。完全でなければ積分因子を探す。
- ベルヌーイは で線形化。 は既に線形(一階線形)なので除く。冪に合わせた置換が鍵。
- リッカチは特殊解が要る。 一般には求積不能。特殊解 を一つ知れば で線形に落ちる。 階線形と等価。
- 「初等的に解ける」は例外的。 ほとんどの微分方程式は初等関数で書けない。だから次章の「解の存在」の一般論が要る。
この章のまとめ
- 完全形 ()はポテンシャル の全微分で、解は (保存場の理論)。完全でなければ積分因子で完全化。
- ベルヌーイ は で一階線形に。リッカチ は特殊解 を使い で線形化。
- 共通する技法は「適切な変換で既知の形(線形)に持ち込む」。だが初等的に解ける方程式は例外的で、一般論が要る。
次章は、「解が存在し一意である」ことを保証する基本定理——ピカール–リンデレフの定理を、縮小写像で証明します。