⟐ 数学の作り方 How to make Mathematics

↑ ↓ 移動 Enter 開く Esc 閉じる

第5章 非同次線形と定数変化法

外力に、系はどう応答するか

前章は「外力のない(同次)」線形方程式でした。現実の系には外力があります——ばねを周期的に揺する、回路に 電圧をかける。方程式は L[y]=g(x)L[y]=g(x)(右辺 gg が外力)の形になります。この非同次方程式を、どう解くか。

答えは、線形性が与えるきれいな構造です——一般解 = 特殊解 + 同次解。外力への「一つの応答(特殊解)」に、 自由な「固有振動(同次解)」を足せば、全部の解が尽くせる。あとは特殊解を一つ見つける方法があればよい。 右辺が簡単な形(多項式・指数・三角)なら未定係数法で当てずっぽうに、一般の右辺には定数変化法という 万能の公式で。この章では特殊解を求める2つの技法と、基本解系の独立性を判定するロンスキアンを扱います。 線形代数の「特殊解+斉次解」(連立方程式の解構造)と完全に平行な話です。

非同次線形の一般解 = 特殊解 + 同次解。特殊解は未定係数法(簡単な右辺)か定数変化法(万能)で求める。

解の構造

定理 一般解の構造

非同次線形方程式 L[y]=gL[y]=g の一般解は y=yp+yh,y=y_p+y_h, ここで ypy_p は一つの特殊解(L[yp]=gL[y_p]=g)、yhy_h は同次方程式 L[y]=0L[y]=0 の一般解(nn 個の任意定数)。

証明

L[yp]=gL[y_p]=g、L[yh]=0L[y_h]=0 なら線形性より L[yp+yh]=g+0=gL[y_p+y_h]=g+0=g、解。逆に任意の解 yy について L[y−yp]=g−g=0L[y-y_p]=g-g=0 ゆえ y−ypy-y_p は同次解 yhy_h、すなわち y=yp+yhy=y_p+y_h。∎

これは線形代数の連立方程式 Ax=bA\mathbf x=\mathbf b の解=特殊解+核とまったく同じ構造。微分作用素 LL が 線形写像、ker⁡L\ker L が同次解の空間(nn 次元)、特殊解が一つの逆像。線形なら、同次解を全部+特殊解を一つで完結します。

未定係数法

右辺 gg が「多項式・指数・正弦余弦(とその積・和)」なら、特殊解の形を予想して係数を決められます。

定理 未定係数法

L[y]=gL[y]=g で gg が eaxe^{ax}、多項式、cos⁡bx,sin⁡bx\cos bx,\sin bx(とその積)のとき、特殊解 ypy_p を同じ形(未定係数つき)で仮定し、 代入して係数を定める。ただし、仮定した形が同次解と重なる(共鳴)ときは xx(重複度ぶん)を掛ける。

例 未定係数法の例と共鳴

  • y′′−y=e2xy''-y=e^{2x}:yp=Ae2xy_p=Ae^{2x} と仮定、代入 (4−1)Ae2x=e2x(4-1)Ae^{2x}=e^{2x}、A=13A=\frac13。yp=13e2xy_p=\frac13e^{2x}。
  • y′′+y=cos⁡2xy''+y=\cos2x:yp=Acos⁡2x+Bsin⁡2xy_p=A\cos2x+B\sin2x、代入して A=−13,B=0A=-\frac13,B=0。
  • 共鳴 y′′+y=cos⁡xy''+y=\cos x:cos⁡x\cos x は同次解 cos⁡x,sin⁡x\cos x,\sin x と重なる。yp=x(Acos⁡x+Bsin⁡x)y_p=x(A\cos x+B\sin x) と xx を掛けて仮定、yp=x2sin⁡xy_p=\frac x2\sin x。 振幅が xx に比例して増大——外力の振動数が固有振動数に一致すると共鳴で発散する(物理的にも重要)。

共鳴(xx を掛ける)を忘れると解が出ません。「外力が固有振動と同調すると、応答が線形に増大する」——これは 前章の重根(xeλxxe^{\lambda x})と同じ現象で、橋の共振崩壊などの物理につながります。

定数変化法

未定係数法は右辺が特殊な形のときだけ。一般の gg には、定数変化法(パラメータ変化法)という万能公式があります。 同次解の「定数」を「関数」に変える発想です。

定理 定数変化法(2階の場合)

y′′+p(x)y′+q(x)y=g(x)y''+p(x)y'+q(x)y=g(x) の同次解の基本解系を y1,y2y_1,y_2 とする。特殊解を yp=u1(x)y1+u2(x)y2y_p=u_1(x)y_1+u_2(x)y_2 の形に求めると、 u1′=−y2 gW,u2′=y1 gW,W=∣y1y2y1′y2′∣ (ロンスキアン)u_1'=-\frac{y_2\,g}{W},\qquad u_2'=\frac{y_1\,g}{W},\qquad W=\begin{vmatrix}y_1&y_2\\y_1'&y_2'\end{vmatrix}\ (\text{ロンスキアン}) を積分して u1,u2u_1,u_2 が求まり、yp=u1y1+u2y2y_p=u_1y_1+u_2y_2。

証明

yp=u1y1+u2y2y_p=u_1y_1+u_2y_2 とし、補助条件 u1′y1+u2′y2=0u_1'y_1+u_2'y_2=0 を課す。yp′=u1y1′+u2y2′y_p'=u_1y_1'+u_2y_2'、yp′′=u1y1′′+u2y2′′+u1′y1′+u2′y2′y_p''=u_1y_1''+u_2y_2''+u_1'y_1'+u_2'y_2'。 方程式に代入し y1,y2y_1,y_2 が同次解であることを使うと u1′y1′+u2′y2′=gu_1'y_1'+u_2'y_2'=g。補助条件と合わせ、u1′,u2′u_1',u_2' についての連立一次方程式 (y1y2y1′y2′)(u1′u2′)=(0g)\begin{pmatrix}y_1&y_2\\y_1'&y_2'\end{pmatrix}\begin{pmatrix}u_1'\\u_2'\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\g\end{pmatrix} をクラメルの公式で解くと上の式(分母が行列式=ロンスキアン WW)。∎

定数変化法は「同次解を組み合わせる係数 uiu_i を関数にして、外力に合わせて調整する」。W≠0W\ne0(基本解系の独立性)が クラメルの公式を可能にする。ここで基本解系の独立性を測るロンスキアンが主役になります。

ロンスキアンと基本解系

定義 ロンスキアン

関数 y1,…,yny_1,\dots,y_n のロンスキアンを W(x)=∣y1y2⋯yny1′y2′⋯yn′⋮⋮y1(n−1)⋯yn(n−1)∣W(x)=\begin{vmatrix}y_1&y_2&\cdots&y_n\\ y_1'&y_2'&\cdots&y_n'\\ \vdots&&&\vdots\\ y_1^{(n-1)}&\cdots&&y_n^{(n-1)}\end{vmatrix} と定める。W(x0)≠0W(x_0)\ne0 なら y1,…,yny_1,\dots,y_n は一次独立。

定理 アーベルの公式と独立性判定

同次線形方程式 y(n)+an−1y(n−1)+⋯=0y^{(n)}+a_{n-1}y^{(n-1)}+\cdots=0 の解 y1,…,yny_1,\dots,y_n について、ロンスキアンは W(x)=W(x0)exp⁡(−∫x0xan−1(t) dt)(アーベルの公式).W(x)=W(x_0)\exp\Big(-\int_{x_0}^x a_{n-1}(t)\,dt\Big)\quad(\text{アーベルの公式}). ゆえ WW はどこでも 00 か、どこでも 00 でない。W≠0  ⟺  W\ne0\iff 基本解系(一次独立)。

証明

(アーベルの公式。)W′=−an−1WW'=-a_{n-1}W(ロンスキアンの微分が最高次係数だけで決まる、行列式の微分計算)を解く。ゆえ WW は 指数関数倍で、00 になれば恒等的に 00。解の一次独立性は W(x0)≠0W(x_0)\ne0 と同値(初期値ベクトルの独立性、線形代数)。∎

「ロンスキアンは、どこか一点で 00 でなければ全域で 00 でない」(アーベルの公式)——だから一点で調べれば基本解系か 判定できる。nn 個の解が本当に独立(一般解を尽くす)かを、行列式一つで確かめられる便利な道具です。

つまずきポイント

注意 よくある誤解

  • 一般解=特殊解+同次解。 同次解(nn 個の任意定数)を必ず足す。特殊解だけでは一般解でない。線形代数の Ax=bA\mathbf x=\mathbf b と同じ構造。
  • 共鳴時は xx を掛ける。 未定係数法で仮定形が同次解と重なるとき。忘れると解が出ない。重根の xeλxxe^{\lambda x} と同じ。
  • 定数変化法は万能だが積分が要る。 未定係数法(簡単な右辺)が使えるならそちらが速い。gg が一般なら定数変化法。
  • ロンスキアン W≠0W\ne0(一点で)=基本解系。 アーベルの公式で「一点で 00 なら全域 00」。独立性判定に使う。

この章のまとめ

  • 非同次線形の一般解 = 特殊解 ypy_p + 同次解 yhy_h(線形代数の解構造と平行)。
  • 特殊解:未定係数法(右辺が指数・多項式・三角。共鳴時は xx を掛ける)、定数変化法(万能、ui′u_i' をクラメルの公式で解く)。
  • ロンスキアン WW で基本解系の一次独立を判定。アーベルの公式より WW はどこでも 00 かどこでも非零。

次章は、複数の未知関数が絡む連立線形系を、行列指数関数 etAe^{tA} で一挙に解きます。